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小論文には、こう書くべきという決まった構成があります。指導の際、その段落構成を基本的な知識として教えておくことで、論理的な文章を書く力を効率的に高めることができます。今回は、実例を取り入れながら、小論文の構成の指導法と導入例を解説します。小論文指導のヒントとしてご活用ください。
小論文の構成
意見文と小論文の構成はよく似ています。基本となる意見文の構成をおさえておけば、そこに小論文特有の要素を加えるだけで小論文の構成ができあがります。今回は、以前解説した意見文の構成をふまえて小論文の構成について解説していきます。先に「意見文、小論文の構成の指導法と導入例」をご一読いただくことをおすすめします。
小論文は三段構成で書く
小論文は序論・本論・結論の三段構成で書きます。それぞれの内容・字数配分は下記の通りです。
序論 = 導入 + 主張・・・全体の10〜15%程度
本論 = 主張についての具体的な説明 + 反論・再反論・・・全体の75〜80%程度
結論 = 主張(序論で示したものを再度示す)・・・全体の10%程度
- 導入は、テーマについて問題点を提示して主張につなげる部分です。序論の中心は主張であるため、導入は一文程度で端的に述べ、早々に主張を明示する必要があります。
- 主張は、課題の問いに対する答えです。序論では、具体的な内容には触れずに要旨のみ示し、理由も簡潔に添えられるとよいでしょう。
- 序論と結論は、問いに対していかに簡潔に主張を示せるかがポイントです。それぞれ1つの段落にまとめましょう。ここが冗長になると、本論に厚みを持たせられなくなります。
- 本論は、客観的な情報や根拠をもとに主張を説明する部分です。序論で主張した内容の理由や具体例を詳しく書きます。ここにいかに具体的な内容を盛り込めるかによって、説得力に違いが出ます。
- 反論とは、自分の主張に対する反対意見を想定して書くことです。そして、さらにそれを打ち消し主張につながる意見を書くことを再反論といいます。反論・再反論は必須ではありませんが、あると主張が補強され、さらに説得力のある流れになります。あくまでも補足的な内容ですので、主張についての具体的な説明よりも長くなりすぎないように注意しましょう。
- 主張についての具体的な説明は字数によって2〜3段落に分けましょう。反論・再反論は1つの段落にまとめます。
- 字数配分は目安です。全体の字数や問いの形式などによって変動します。
意見文との違い
意見文の段落構成は双括型であり、前回の記事では「サンドイッチ型」でイメージをつかんでもらうことをおすすめしました。小論文でも、はじめとおわりに主張を示す意見文の構成が基本の骨組みとなっています。小論文では求められる字数が意見文よりも多くなり、論述に厚みを持たせる必要があります。意見文の構成を基本として、そこに肉付けをしていくイメージを描くととらえやすくなるでしょう。小論文特有の要素として、導入と反論・再反論が追加されます。(意見文で「反論・再反論」を取り入れることもありますが、字数制限によりそこまで入れられない場合がほとんどでしょう。)
小論文を書くための準備・3ステップ
小論文の構成について理解を深めたら、早速テーマを設定して書く練習に移りましょう。清書の段階になるまで、原稿用紙に書かせるべきではありません。原稿用紙に書き始める前の準備を、3つのステップで進めます。ここでは、実際の小論文の課題をもとに解説していきます。
課題例「若者の投票率を上げる方法について」
2016年6月施行の改正公職選挙法により選挙権年齢は18歳以上に引き下げられ、同年7月に18歳以上を有権者とする初の国政選挙となる参議院選挙が行われた。選挙権年齢の引き下げは、海外諸国の多くで選挙権が18歳以上であることや、若い有権者を増やすことで若者の民意を政治に反映していくことなどのねらいから行われた。しかし、実施後の投票率をみると10歳代の投票率は21年10月の衆議院議員選挙で43.21%(全年代では55.93%)、22年7月の参議院選挙では同35.42%(同52.05%)と、低い水準にとどまっている。若者の投票率を上げる取り組みとして未成年模擬選挙など、さまざまな取り組みも行われ始めている。あなたは若者の投票率を上げるためにはどうすればよいと思うか、投票率が低い理由や実際に国内外で行われている取り組みをふまえながら800字以内で述べよ。
(NPO法人 現代用語検定協会主催/2023年第1回小論文検定より)
ステップ1・問いを理解する
まず、課題文で聞かれている「問い」は何かを理解します。課題文をよく読み、具体的な条件がある場合は必ず確認します。上記の課題例では、次のポイントを確認しましょう。
- 若者の投票率を上げるための取り組みを自分の意見としてまとめて書く。
- 投票率が低い理由をふまえて書く。
- 国内外で行われている取り組みの具体例をふまえて書く。
- 800字以内で書く。
ありがちな間違いは、投票率が低い理由や国内外での取り組みについての説明に字数の大半を割いてしまうものです。この課題の問いは「若者の投票率を上げるためにはどうすればよいと思うか」であることを読み取り、その問いに対する答え(主張)を説明するための根拠として、投票率が低い理由や国内外の取り組みを例に挙げましょう。
小論文では字数オーバーや大幅な字数不足は減点の対象になります。字数制限も初めにしっかりと確認しておきましょう。全体の字数から、序論・本論・結論にそれぞれ何行を割り当てればよいか、見当をつけておくこともできます。
ステップ2・情報を調べ、考えを整理し、自分なりの「答え」を決める
何について問われているのか理解したら、次はそれに対する自分の考えを整理します。意見文では、意見(自分なりの考え)を決めるために自らの体験や見聞きしたことを振り返りましたが、小論文では個人的な体験だけでは不十分です。
小論文と意見文の大きな違いの一つとして、客観性に関する違いがあります。意見文は「主観的であってもよい」とされるのに対し、小論文では「客観性が必須」とされます。客観性を持たせるために、小論文ではテーマに関する確かな情報をもとに説明する必要があります。
情報は、小論文の出題形式によっては問題文と一緒に示されることもありますが、日頃から気になるテーマについてインターネットを利用して調べたり、新聞やテレビのニュースを読んだり聞いたりしておくことが大切です。小論文に出題されることが多い時事問題については、普段からアンテナを張って情報収集しましょう。
情報収集で大切なことは、正しい情報を得る工夫をすることです。以下の点に注意しましょう。
情報収集における注意点
- 信頼できるとされている情報源(省庁が出している情報、報道機関の報道など)を参照する。
- 統計データを読み取る際は、出典を必ず確認する。
- 複数の情報源(制作者が異なる複数のサイト、新聞、テレビなど)から情報を得て、各メディアで書かれていることの信ぴょう性を精査する。
- 安易に「まとめサイト」を利用しない。
ステップ3・構成を意識してメモを作る
「問い」に対する「答え」(主張)が定まったら、先ほど解説した小論文の構成を意識しながらメモを作ります。メモには、小論文に取り入れたい内容を箇条書きにしていきます。ここでは、まだ文章にする必要はありません。
メモの一例
「小論文/構成シート」のフォーマットはご自由にご活用ください。
小論文の仕上げの作業
3ステップで準備ができたら、メモを見ながらいよいよ文章にまとめていきましょう。決まった構成にメモの内容を当てはめていく作業です。
構成を意識して書かれた小論文の実例
「小論文/構成シート」の枠組み通りに書けば、構成を意識した小論文を書くことができます。序論・本論・結論のまとまりを意識し、段落を分けましょう。600字で4段落、800字で5〜6段落程度を目安とするとよいでしょう。
小論文実例「若者の投票率を上げる方法」
構成を覚えたら、さまざまなテーマで練習しよう
この作業がスムーズにできるようになるには、さまざまなテーマで練習を積み重ねることが必要です。次の例を参考にして、さまざまなテーマに取り組ませてみてください。最新の時事問題をテーマにすることもおすすめです。ぜひ「最新時事から考えてみよう!」の記事をご活用ください。
小論文のテーマ例
- 地球温暖化防止のために、個人としてできることは何か
- 災害に備えるために、地域の一員としてできることは何か
- 少子化が進む社会において、あなたにできることは何か
- 物流の2024年問題に関して、個人としてできることは何か
(「最新時事から考えてみよう!物流の2024年問題」を参照)
構成ができるようになったら、書き方・表現にも注意しよう
小論文は減点方式であることがほとんどです。お伝えしてきたように、小論文を書くにあたって最も大切なことは構成ですが、せっかく構成が完璧にできてもその他の細かい点で減点を重ねると大幅に点数を落としてしまうことになります。構成ができるようになってきたら、次は小論文特有の書き方や文章表現にも注意し、減点を減らしていきましょう。最後の見直しで直せる点もたくさんあります。
減点の対象となる書き方・表現
● 一人称は「私」のみ
小論文では、一人称は「私」に統一しましょう。「僕」や「自分」はNGです。
● 文体は常体に統一する
「です・ます」調で書かないように注意しましょう。「だ・である」調に統一します。
● 口語表現は使わない
小論文で口語表現(話し言葉)を使ってはいけません。口語表現とは知らずに使ってしまう場合もあるため、よくある例をチェックしておきましょう。「い抜き」言葉、「ら抜き」言葉も口語表現です。
・小論文で使ってしまいがちな口語表現の例
口語表現 | 小論文としてふさわしい表現 |
---|---|
なので(接続語として) | したがって |
いい | よい |
こんな・そんな・あんな・どんな | このような・そのような・あのような・どのような |
いろんな | さまざまな |
・小論文で使ってしまいがちな「い抜き」、「ら抜き」言葉の例
「い抜き」、「ら抜き」言葉 | 小論文としてふさわしい表現 |
---|---|
進んでる | 進んでいる |
わかってる | わかっている |
入れれる | 入れられる |
受けれる | 受けられる |
得れる | 得られる |
● 体言止めや倒置法、比喩表現などは使わない
小論文では、表現技巧を駆使して「うまく」表現する必要は全くありません。個性豊かな表現が評価されるわけではないどころか、そのような表現が目立つと減点の対象となってしまう場合もあります。簡潔な表現でわかりやすく書くことが第一です。そのため、「体言止めや倒置法、比喩表現は使わない」と覚えておくとよいでしょう。
書き方・表現で気をつけるべきこと
● 「多い」「少ない」を使う場合は慎重に
「多い」や「少ない」といった表現は、それ単体で使うと非常にあいまいな表現です。どの程度多いのか、何と比べていくつ少ないのかなど、可能な限り具体的な数値を示しましょう。小論文では根拠として情報を示すことが求められますが、あいまいな記憶や印象で書いてしまうとかえって逆効果です。正確な数値がわからない場合は、数値の多少についての記述を避けたほうが賢明です。
<例>
× 選挙に関心があったと回答したのは、若い人では少なかった。
○ 選挙に「非常に関心があった」「多少関心があった」と回答した人は、十代から二十代が最も少なく四十七・二パーセントで、全世代の七十一パーセントを大きく下回っていた。
● 情報について書く場合は正確に、情報源を示して
情報に基づく客観的な根拠を示すことによって説得力のある小論文になりますが、どんなに具体的な根拠を示すことができても、それが信頼できる情報に基づいているかどうかを示していなければ効果は薄れてしまいます。根拠を示す際には、情報の出典とセットで示すことを徹底しましょう。
● 逆接を連続させない
「しかし」・「だが」・「ところが」など、逆接の接続詞を多用すると、主張が二転三転する印象を与え、本当に言いたいことが何なのかがわからない文章になってしまいます。逆接の接続詞は、必要かどうかよく吟味して使いましょう。見直しの際、逆接の接続詞がいくつも出てくる場合は、前後の文章をまとめることを検討しましょう。
<例>
× 私は教科のなかでは国語が好きだ。ところが、国語よりも数学のテストの点数のほうが良い。けれども、国語でもっと高得点を取りたい。
○ 私は国語よりも数学のテストの点数のほうが良い。けれども、国語が好きなので、国語でもっと高得点を取りたい。
まとめ
ここまで、小論文の構成と書くときのステップ、表現の注意点などについてお伝えしてきました。正しい構成を知ることは論理的な文章を書くための第一歩です。構成シートを利用することで、正しい構成に当てはめて考えを整理することができます。今後の小論文指導に取り入れてみてはいかがでしょうか。
執筆:NPO現代用語検定協会
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