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「自己調整学習って、具体的にはどんな学習法?」
「授業でどう扱えばいいのだろう?」
こんなふうに感じている先生も、多いのではないでしょうか。
近年、文部科学省が提唱する「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、子ども自身が学習のプロセスをふり返りながら学びを深めていく「自己調整学習」が注目されています。また、GIGAスクール構想が目指す「個別最適な学び」実現のためにも、自己調整学習は子どもたちに必要な学習方法と言えます。
そこで、この記事では、
- 自己調整学習の意味
- 自己調整学習によって、どんな力が育つのか
- 授業への取り入れ方
などを、若手の先生にもわかりやすく解説します。自己調整学習を取り入れた授業づくりのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
「自己調整学習」って? 基本をわかりやすく解説
「自己調整学習」とは、子ども自身が、自分の学習をコントロールしながら能動的に進めることができる力を育てる学習方法です。
自分で学習課題や目標を立て、達成に向けた効果的な学習法やスケジュールの調整を自ら行い、自己観察・コントロールしながら取り組み、その過程と結果を振り返って次に活かす。このような一連の流れをくり返す中で、子どもは「自分自身の学習活動について、能動的に取り組み、自己調整しながら進める力」を身につけていきます。
そして、この学習方法を支えるのが、次の3つの要素です。
- 動機づけ:前向きに学び続ける力
- 学習方略:自分に合った学び方を選び、工夫する力
- メタ認知:自分の学びを客観的にとらえ、活かす力
これらの力は、文部科学省が提唱する「主体的・対話的で深い学び」を支える土台になります。
自己調整学習は、児童・生徒の能動的な学習活動につながり、これからの社会を生き抜くための力になります。
自己調整学習を支える3つの要素
自己調整学習では、子ども自身が、自分の学習をコントロールしながら主体的に進めていく力を育んでいくことを目指します。そこで重要になるのが「動機づけ」「学習方略」「メタ認知」という3つの要素です。
ここでは、この3つについて、自己調整学習を通して目指す子どもの姿とともに、具体的に解説していきます。
動機づけ|前向きに学び続ける力
自己調整学習では、自分から興味関心を持って学習に取り組もうとする気持ちや、目標達成までやり続けようとする意欲、そして自分が目標を達成できると信じる自己効力感が大切です。これらは学習への「動機づけ」となる力で、内側から湧き出る「やってみよう」という前向きな気持ちを育てることを目指します。
たとえば、
- 少し難しい問題に対して「もう少しがんばってみよう」と前向きに取り組む姿
- 思うように学習の成果が出なかったときでも、「次はこうしてみよう!」と切り替えてチャレンジし続ける姿
このような姿勢が見られたら、子どもにとって学習が「やらされるもの」から「自分のためのもの」へと変化し始めているサインです。
そして、自発的な学習活動を積み重ねる中で、子ども自身に「やればできた」「がんばってよかった」という実感が生まれます。その実感こそが、次の挑戦へのエネルギーとなり、学び続ける原動力になっていくのです。
学習方略|自分に合った学習方法を選び、工夫する力
自己調整学習では、「どのように学ぶかを自分で考え、最適な方法を選び、工夫する力」も大切な要素です。これは「学習方略」と呼ばれ、子どもが自分自身に合った効果的な学習方法を見つけ、選べるようになることを目指します。
たとえば、漢字を覚えるときにも、さまざまな方法があります。
- 何度も書いて覚える
- 語源や部首に注目して覚える
- 意味と使い方をセットにして覚える
- 漢字をパーツごとに分けて視覚的に覚える
こうした複数の方法の中から自分に合いそうな学習法を見つけ、「この方法だと覚えやすい」「自分には、この学習法が合っている」と感じながら学べるようになることが大切です。
自分にとって最適な学習方略を身につけることは、覚える、理解する、といった学習の効率を高めるだけでなく、子ども自身の意欲や自信にもつながります。もちろん、最初から自分にぴったり合う方法を見つけられるとは限りません。
だからこそ、いろいろ試してみることが大事だと伝え、子どもが自分の適性を見極めながら工夫を重ねていけるように、先生が支えていきましょう。その積み重ねが、自分に適した学習方法を自ら調整し、確立できる力を育て、能動的・自律的な学習姿勢につながっていくのです。
見て、聞いて、書いて。各生徒の認知特性に合わせた「得意な覚え方」で、楽しみながら身につきます!
メタ認知|自分の学習活動を客観的に捉え、改善する力
自己調整学習の3つ目のカギは、自分の学習を客観的に振り返り、分析して、改善に活かすことができる力です。これは「メタ認知」と呼ばれる能力で、俯瞰的な視点から自分を認識・理解し、その気づきを必要に応じて、自分の強み・弱みを考慮した効率的な学習方法のための調整に役立てられる、とても重要な能力です。
たとえば学習中に、
- 「この目標をクリアするために、今の方法が本当に一番良いのかな?」
- 「思うように模試の点数が伸びなかったけど、何が原因だったんだろう?」
というように、自分の学習方法を振り返るようになると、受身の学習ではなく、自分にとっての最適解を求めて工夫や改善ができるようになってきたサインです。
こうした力は、すぐに身につくものではありません。日々、自分の学習活動を客観的な視点から振り返る習慣を、意識的に身につけることで育っていくものです。学習を通じた正しい自己認識と、改善につながる気づきを自分で持てる力が、自分にとって最適な学びを深めるうえで、とても大切な土台になっていきます。
「動機づけ」「学習方略」「メタ認知」という3つの要素を意識していると、授業中も子どもの状況に適した効果的な声かけをしやすくなります。
自己調整学習の授業への取り入れ方と工夫
自己調整学習を授業に取り入れるといっても、特別な教材や時間を用意する必要はありません。大切なのは、日々の授業の中で少しずつ「子どもが自分にとって最適な方法で学ぶ力」を育てていくことです。
ここでは、授業の流れに沿って「取り入れやすい3つの場面」を紹介します。
授業のはじめに|学びの見通しを立てる時間をつくる
授業のはじめに「めあて」や「学習の目標」を提示し、子どもが自分自身の目標を考える時間をつくってみましょう。
「自分は、どうなりたいから学ぶのか」を考えることが、メタ認知につながります。また、「これをやってみたい」「ここをがんばりたい」という気持ちが、動機づけにもなっていきます。
子どもたちが自分の目標を考えるときは、先生によるこのような声かけが効果的です。
- 「今日の授業で、特にがんばりたいことは何?」
- 「みんなで決めためあてはこれだけど、自分なりの目標はありますか?」
- 「前回の振り返りを踏まえて、今日はどんなことを意識しましょうか?」
こうした問いかけを通して、子どもたちが自分の学習目標を考える習慣づけを行いましょう。ノートやワークシートに記入する、ペアトークで言葉にする、などの工夫もおすすめです。
はじめは、うまく言葉にできないこともあるでしょう。しかし教師の問いかけを通して、子どもたちは、少しずつ「自分の目標」を意識できるようになっていきます。
学習活動の中で|自分に合った方法を試すきっかけをつくる
学習活動の中で意識したいのは、子ども自身が「自分はどんな方法で学習するか」を考え、選び、試してみることです。こうした試行錯誤の経験こそが、学習方略を育てるチャンスになります。
授業中には、次のような声かけを通して、子どもが自分に適した学習方法に気づけるように働きかけてみましょう。
- 「今のやり方、やりやすい? 思い通りに進んでいる?」
- 「別の覚え方に変えるとしたら、どんな方法がありそう?」
また、子どもが「工夫してみよう」と思えるような環境づくりも大切です。たとえば、次のような工夫が考えられます。
- ノートのすみに、自分なりの工夫をメモするよう声をかける
- 友だちのやり方で「いいな」と思ったことを紹介し合う
- クラスでいろいろな工夫を集めた「学び方図鑑」をつくる
他の子の学習方法を知ることで、新たな視点や気づきが生まれ、「自分も試してみよう」というきっかけになるでしょう。
授業のまとめに|自分の学習を振り返り、客観的に見つめる
授業の最後に「自分の学習を振り返る時間」をとることは、自己調整学習において重要な「メタ認知」を育てるうえで欠かせません。
自分の学習行動をやりっぱなしにせず、思い通りにいったことや思い通りにいかなかったこと、工夫したことなどを、客観的な視点から振り返る時間をとりましょう。そうすることで、自己認識と学びを深め、課題も整理され、次への改善や目標設定につなげていくことができます。
振り返りの時間には、こんな声かけをすると、子どもは自分自身を冷静に見つめて学びを整理しやすくなります。
- 「今日の自分は、どこがよかったと思う?」
- 「思い通りにいかなかったところは、どんな点かな?」
- 「次回、もっとうまくいくようにするには、どうしたらいいと思う?」
- 「今の自分のやり方を、次も続けたい? それとも変えてみる?」
振り返りは、ノートやワークシートへの記述、ペアでの対話、クラス全体での共有など、さまざまな方法で取り入れることができます。
こうした時間を重ねていくことで、子どもたちは「自分は、どう学べばよいか」「次は、どうすればもっとよくなるか」といったことを、少しずつ考えられるようになっていきます。俯瞰的な視点を意識でき、より主体的で自分にとって効果的な学習活動につながっていくでしょう。
「個別最適な学び」につながる自己調整学習の指導では、先生は学習方法を教えるだけでなく、子どもが主体的に自分にふさわしい学習方法を模索するような姿勢を育てることが大切です。
日々の授業の中で、子どもたちの「自分で考え学ぶ力」を育てていこう
自己調整学習は、日々の授業の中で子どもたちが「自分で自分に合った学び方を考える場面」を意識的に取り入れることで、少しずつ身についていきます。
学習の見通しを立てて、自分に合った方法を見つけて試し、過程と結果を踏まえた客観的な振り返りで、気づきを次につなげる。このような経験の積み重ねが、「自分で考え、主体的に学習を進める力」を育てることにつながっていくのです。
自己調整学習は、先生のちょっとした声かけや関わり方を通じて、授業の中で取り入れていくことができます。まずは、できそうな場面から始めてみましょう。少しずつ、子どもたちが自分に適した効果的な学習を進めていける力を、育てることができるはずです。
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