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授業中に児童・生徒が集中していないことについて、以下のように悩んでいませんか?
「私の授業方法がよくないのかも…」
「授業に集中させたいけど、どうすればいいかわからない…」
今回は、そんなお悩みを抱えている学校の先生や塾講師の方に向けて、児童・生徒を授業に集中させる方法を解説します。
今回紹介する内容は、22年間の教員経験があり、現在は帝京平成大学で教員養成に携われている鈴木邦明先生のご経験に基づくものです。児童・生徒を授業に集中させる方法を知り、自分の授業に自信を持てるようになりましょう。
「授業に集中しない」原因は「授業以外」にもある
児童・生徒が授業に集中しないことに悩んでいる先生は、授業の内容や教え方ばかりに着目してしまいがちです。そして、実際に解決のために何か工夫や取り組みをする場合も、授業の中だけで行ってしまうことが少なくありません。
しかし、授業の中の工夫や取り組みだけでは、児童・生徒が授業に集中できない状態を解決することはできません。なぜなら授業では、日々の学校生活や学級経営の中で築かれたものが現れるからです。
たとえば、教師と児童・生徒との信頼関係。ほかにも、児童・生徒の健康状態なども関係します。つまり、授業に集中しない状態を改善するためには、授業を改善するだけではなく、日頃の児童・生徒とのコミュニケーションや学級経営、教室の環境などさまざまな部分を見直す必要があるのです。
児童・生徒を授業に集中させるための2つの前提
児童・生徒を授業に集中させるためには「生徒自身が授業に集中できる状態」でなければなりません。ここでは、そのために必要となる、2つの前提を解説します。
①信頼関係
児童・生徒が授業に集中できるかどうかは、教師と生徒の信頼関係が大きく関係します。信頼関係ができていないと、どんなに良いことを言ったりおもしろい授業をしたりしても、児童・生徒には響きません。
そして、日々の学校生活も授業も、教師と生徒の両者で作り上げていくものです。さらに、保護者も加わり三位一体となって「良い関係・学校生活・授業を作り上げていこう」という思いをもって取り組むことが重要になります。教師・生徒・保護者の三者にこの思いがなければ、どんなに教師が努力しても、なかなか効果を得られません。また信頼関係を無視して、その場しのぎで生徒の興味を惹きつけようとしてもうまくいく可能性は低いでしょう。
②健康・安心感
教師と児童・生徒に信頼関係ができていても、児童・生徒が授業どころではない状態であれば、授業に集中できません。具体的には、WHO憲章で提言されている「身体的・社会的・精神的」な健康の定義が整っていないと、授業に集中できなくなる可能性が高まります。
「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
(出典:厚生労働省「第1部 健康長寿社会の実現に向けて~健康・予防元年~」)
たとえば夜遅くまで起きていて寝不足状態にあると、当然授業に集中することはできません。ほかにも、クラスの人間関係にトラブルを抱えていると、授業中にもそのことが頭をよぎり、教師がどれだけ一生懸命授業をしても、児童・生徒は授業に集中できません。
これは「マズローの欲求階層説」にも当てはめて考えることができます。
マズローの欲求階層説では、下層の欲求が満たされていないと、上層の欲求を満たすことができないと言われています。
睡眠や食事などが不十分な状態であると、最下層の「生理的欲求」が満たされません。また、クラスの中でいじめが起きていたり、スクールカーストなどがあったりする場合は、教室は常に緊張や恐怖を感じる場所となり「安全欲求」や「社会的欲求」が満たされない状態となります。
上層に位置する「承認(尊敬)欲求」と「自己実現の欲求」との関わりが大きい勉強や授業などに集中して取り組むためには、その土台となる「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」などが、満たされている必要があるのです。
先生や講師が児童・生徒を授業に集中させる方法6選
児童・生徒を授業に集中させるための2つの前提を知ると、生徒を授業に集中させることの難しさに気づき「本当に自分にできるのかな…」と、不安になるかもしれません。
しかし、日々の小さな心がけや取り組みによって、児童・生徒の授業態度は変えていくことができます。ここでは、児童・生徒を授業に集中させるために日々の生活や学級経営の中に取り入れられる方法を紹介します。
①学びの意義を伝える
1つ目の方法は、児童・生徒に学びの意義を伝えることです。教師が児童・生徒に「授業に集中しなさい」と言うだけでは、児童・生徒の授業態度は変わりません。児童・生徒が自ら主体的に授業に集中するためには、子ども自身が「集中して授業を受ける意義」や「授業に参加して勉強する意義」を理解する必要があるのです。
具体的な方法としては、新学期が始まるタイミングや長期休暇明けのタイミングなど児童・生徒の気持ちが勉強に向かいづらい時期に、学びの意義を考える時間を設けましょう。
学びの意義を考える時間を定期的に作ることで、児童・生徒一人ひとりが「学んだ方が人生にプラスになる」というイメージを持てるようになります。そして、以下のような勉強に対する前向きな気持ちに繋がっていくのです。
- 授業は集中して聞いた方が良い
- 宿題をした方が将来の可能性が広がる
- 英語は話せないよりも話せた方が良い
ただし、学びの意義は教師が一方的に話すと、児童・生徒は「押し付けられている」と感じる可能性があります。そのため、児童・生徒が自ら主体的に考え、自分の言葉で学びの意義を見出すことが大切なのです。
②児童・生徒との約束を守る
2つ目の方法は、児童・生徒との約束を守ることです。これは、教師が児童・生徒との信頼関係を構築する上でとても重要なことになります。
たとえば、教師が日頃から児童・生徒に「時間を守りなさい」と言っているのにもかかわらず、教師が授業時間を延長していたら児童・生徒は矛盾を感じます。そして、その矛盾は教師への不満となり、信頼関係の構築が難しくなってしまうのです。
一見小さなことに見えるかもしれませんが、日々小さな約束を守ることが児童・生徒との信頼関係に繋がり、児童・生徒が集中して授業に取り組むかどうかにも影響します。
③児童・生徒の心に響くように伝え方を工夫する
3つ目は、児童・生徒の心に響くように伝え方を工夫することです。「授業中の私語はダメ」「暴力はダメ」「いじめはダメ」といったことは、言葉だけで伝えようとするのではなく、子どもの心にダイレクトに響く伝え方になるよう工夫する必要があります。
例として、次の2つの伝え方を比較してみましょう。
- 「暴力はダメ」と何度も言う
- 理科室にある骨格標本の頭蓋骨を見せ、「頭蓋骨は薄い部分だと数ミリ。ふざけて叩いただけでも、当たり所が悪ければ大けがになる」と伝える
生徒と教師の信頼関係ができており、日頃から教師の言うことをしっかりと聞く児童・生徒であれば、1でも効果はあるかもしれません。しかし、そうではない場合は、2の方がより具体的に想像ができるため効果的でしょう。子どもたちは人に暴力をふるうことの怖さに気づくことができ、遊びや冗談であっても暴力はいけないと思うようになるためです。
このように、児童・生徒に話や指示を聞かせるためには、伝えたいことをそのまま言うのではなく、心に響くように伝え方を工夫することが大切なのです。
④朝会などで勉強の準備運動を行う時間をとる
4つ目の方法は、勉強の準備運動を行うことです。体育の授業では、毎回はじめに準備運動を行いますが、国語や数学、英語など座学の授業では、準備運動を行いません。しかし、勉強にも準備運動を取り入れることで脳が活性化され、授業に集中しやすくなる可能性があるのです。たとえば、指先を使った運動は勉強の準備運動として効果的です。
- 折り紙
- あやとり
- けん玉
- タブレット端末でできる反射神経を使うゲーム
こういった運動は、一日のはじめとなる朝会に数分間行うのがおすすめです。
⑤教室の掲示物を見直す
5つ目の方法は、教室の掲示物を見直すことです。昔は、教室にたくさんの掲示物を張ることが主流で、それが良しとされていました。
しかし最近は、子どもによっては掲示物が授業中の集中を妨げる要因になっている可能性がある、と考えられているのです。そのため、授業中に目に入りやすい黒板の横や上には、できる限り掲示物を張らないようにしましょう。
とはいえ、給食当番表や掃除当番表など、どうしても掲示する必要があるものもあると思います。必要不可欠な掲示物は、これまで通り教室の壁に掲示しつつ、授業中は掲示物が見えないように掲示物を隠せるカーテンを取り付けるなどの工夫をすることが大切です。
⑥学校便りなどで保護者に働きかける
6つ目は、学校便りなどで保護者に働きかけることです。さきほど解説したマズローの欲求階層説の「生理的欲求」「安全欲求」を満たすには、家庭での対応が必要になるため、保護者の協力は必須となります。
とはいえ、どのように保護者に働きかければいいかわからない先生も少なくないでしょう。おすすめは、学校便りや保健便りを活用する方法です。具体的な方法としては、新学期が始まる4月の保健便りや学校便りにマズローの欲求階層の図を載せた上で、家庭の協力がいかに重要なのかを説明し、保護者の協力の重要性を伝えましょう。
学校側から何も言わなくても、規則正しい生活や朝ご飯を食べることが当たり前になっている家庭ももちろんあります。しかし、そうではない家庭があることも事実です。児童・生徒が学校で授業に集中できるようにするためにも、保護者に対してしっかりと必要な情報を伝え、協力を求めていきましょう。
児童・生徒が集中できる授業を考える際の3つの注意点
冒頭では「児童・生徒が授業に集中しない状態は、授業内の取り組みだけでは解決できない」と伝えました。
しかし、これまでに紹介した日頃のコミュニケーションや学級運営の中でできる取り組みを行った上で、授業内で工夫や取り組みを行うことはとても大切です。ここでは、児童・生徒が集中できる授業を考える際の3つのポイントを解説します。
①集中しない原因を「全体」と「個別」に分けて考える
児童・生徒が授業に集中しない原因は、「クラス全体」と「生徒個人」の2つの視点で考える必要があります。たとえば、全体と個別の2つの視点から考えると、次のような授業に集中しない原因が見えてきます。
全体:GIGAスクール構想によってタブレットなどが身近にある状況となり、児童生徒が集中しづらくなっている
個別:生活リズムの乱れや発達障害などの影響が考えられる
このように異なる2つの視点から考えることで、幅広い視点で原因を模索することができ、原因の見落としが減ることはもちろん、原因を曖昧な状態ではなくはっきりと捉えることができます。さらに、原因をもとに対応を行う際も「全体」「個別」に分けて的確な対応ができるのです。
なお、現在の小学生低学年の児童が授業に集中できない原因は、コロナ禍の影響を受けている可能性があるのではないかと考えられています。本来、幼少期で経験すべき子ども同士の密なコミュニケーションをコロナ禍によって経験できなかったことが「コミュニケーションが苦手」「落ち着きがない」という児童の特徴に繋がっている可能性があるのです。
まだまだ調査中の段階ではありますが、こういったことも念頭に置いた上で、児童・生徒が授業に集中できない原因と向き合うことが必要になります。
②年齢ごとの集中の持続力に合わせて授業構成を考える
集中の持続力は、年齢によって大きく異なります。個人差はありますが、一般的な集中の持続時間は「年齢×1分」と言われています。この考えに基づくと、小学1年生は約6分、中学1年生は約12分、高校1年生は約15分が集中を持続できる時間ということになります。
そのため、授業の構成を考える際は、年齢ごとの集中の持続時間を考慮した授業構成を考えることが大切なのです。たとえば、集中の持続時間ごとに小休憩をはさんだり、ちょっとした雑談をはさんだりするなどの工夫を行うことで、児童・生徒は集中して授業を受けやすくなります。
また、椅子に座ってしっかりと授業を聞いているように見えても「集中しているか」は別問題です。集中力が切れてしまっており、頭の中では別のことを考えているという場合もあります。そのため、児童・生徒の授業中の様子だけでなく、集中の持続時間を考慮して授業構成を考え、生徒が集中しやすい授業作りを心掛けましょう。
③恐怖心や緊張感で集中させようとしない
児童・生徒に緊張感や恐怖心を与えることで、授業に集中させるようとするのは、よい方法とは言えません。具体的には、児童・生徒に高圧的な態度で接することなどです。
こういった方法に頼ってしまうと、児童・生徒は勉強を「やらされるもの」と感じるようになり、勉強に対する主体性が失われる恐れがあります。本来勉強は、大人や教師が子どもに無理やり押し付けてやらせるものではありません。
児童・生徒が主体的に授業に参加でき、集中して授業を受けられるようにするためには、学びの意義を伝えたり信頼関係を構築したりすることが大切なのです。
授業に集中するために児童・生徒が実践できる方法
最後に、児童・生徒が実践できる授業に集中するための方法を紹介します。「授業に集中したいのに集中できない…」と悩んでいる児童・生徒がいれば、ぜひこれから紹介する方法を教えてあげてください。
①健康的な生活を心掛ける
健康的な生活を心掛け実践できていれば、学校の授業にも集中しやすくなります。たとえば、次のようなことを心掛けることが大切です。
- 早寝早起きを心掛ける
- 朝ご飯をきちんと食べる
- 夜遅くまでスマホやゲームをしない
一つひとつは小さなことかもしれませんが、継続して実践すると授業中に眠くなることが減ったり、授業を受ける時に頭が働きやすくなったりするのです。自分だけでは実践することが難しい場合は、朝起こしてもらう、スマホを預かってもらうなど、保護者に協力してもらうのもよいでしょう。
②授業前に準備をする
万全な状態で授業を受けられるように、準備をしておくことも大切です。たとえば、授業前にトイレに行っておくこと。授業中にトイレに行きたくなれば、そのことばかりが頭に巡り、授業どころではなくなります。
また、教科書など授業に必要な持ち物を忘れてしまった場合「先生に言ったら怒られるかも」「どうしたらバレずに乗り切れるだろう」といったことばかりを考えてしまい、授業に集中できないでしょう。
そのため、休み時間中にトイレに行っておいたり、他のクラスの友達に教科書を借りに行ったりするなどの準備をしておくことが大切なのです。授業中は授業だけに集中できるよう、授業前や休み時間のうちにできることはすべてやっておきましょう。
まとめ
児童・生徒を授業に集中させるためには、授業内の工夫も大切です。しかし、それらを行う前提として、日頃から児童・生徒と信頼関係を築いておく、児童・生徒が授業に集中できる状態になるよう保護者と協力する、などのことにも取り組んでみてください。
また、児童・生徒が主体的に授業に参加できるように、学びの意義を伝えるなどの学ぶ意欲を高めるための取り組みを行うことも有効です。すべてのことを一度に取り入れることは難しいかもしれませんが、ひとつずつ、できることから取り入れていきましょう。
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