目次
自分自身の子ども時代とは違った特徴を持つ児童・生徒への対応について、以下のような不安はありませんか?
「今の自分の指導方法は、Z世代の生徒に合っていない気がする…」
「Z世代の次にα世代があるらしいけど、学校は今のままでいいの…?」
今回は、そんなお悩みを抱えている学校の先生や塾講師の方に向けて、Z世代やα世代の児童・生徒の特徴や適切なコミュニケーション方法、指導方法、Z世代やα世代の児童・生徒に合う学校教育について解説します。
今回紹介する内容は、22年間の教員経験があり、現在は帝京平成大学で教員養成に携われている鈴木邦明先生のご経験や知見に基づくものです。Z世代やα世代の児童・生徒に合う教育や指導方法を知り、自信を持って児童・生徒と関われるようになりましょう。
Z世代・α世代とは?
そもそもZ世代やα世代というのは、生まれた年代ごとに区切ってグルーピングする考え方です。Z世代の前の世代には、Y世代(ミレニアム世代)やX世代といった世代があります。
- X世代:1965年~1980年頃に生まれ、現在50代・40代後半くらいの世代
- Y世代:1981年~1995年頃に生まれ、現在30代・40代前半くらいの世代
- Z世代:1996年~2010年頃に生まれ、現在中学生から20代後半くらいの世代
- α世代:2010年~2025年頃に生まれ、0歳~12歳くらいの世代
上記からもわかる通り、Z世代とは1996年~2010年頃に生まれた世代で、今の中学生から20代後半くらいの人たちがZ世代にあたります。α世代は2010年~2025年頃に生まれた世代で、現在の0歳~12歳くらいの子どもたちの世代です。
つまり、今の保育園や幼稚園、小学校に通う子どもたちはα世代で、中学生や高校生、大学生のほとんどはZ世代なのです。
なお、Z世代やα世代のように1つの年代の人たちを一括りにして考えることで、各世代の特徴や傾向が明確になり、比較しやすくなったり理解しやすくなったりしますが、その一方で1人ひとりの個性に目を向けられなくなるという側面もあるので、そういった部分に注意しながら読み進めてください。
Z世代の特徴
Z世代の生徒に適したコミュニケーション方法や学習指導を行うためには、Z世代の価値観や強み・弱みなどを知る必要があります。ここでは、Z世代の特徴を解説します。
➀デジタルとの親和性が高い
Z世代の1つ目の特徴は、デジタルとの親和性が高いことです。Z世代は幼少期から、スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器に触れてきました。
学校生活においても当たり前にPCがあり、授業内外で活用してきました。さらにタブレットを使って通信教育を受けたり、スマートフォンやタブレットを使った動画で学習したりすることで、X世代やY世代と比べてデジタル機器への抵抗感が少ないといえます。
➁多様性について理解がある
2つ目の特徴は、多様性への理解があることです。個人差はあるものの、Y世代やX世代には性別やジェンダー、人種、国籍などについて昔ながらの考え方を持っている人が少なくありません。
しかし、Z世代は学校教育の中で多様性について学んでいます。特に道徳の授業で「多様性や公平性、平等を認めていこう」といったことを学んでいるため、学校での教育の中で自然と多様性への理解が深まり、価値観として根付いているのです。また、SNSやWebメディアに目を触れる機会が多いため、そこから得られる情報からも多様性への理解を深めているともいえます。
③競争よりも協調・協同を好む
3つ目の特徴は、競争よりも協調や協同を好む傾向があることです。これは多様性についての理解があることから派生したもので「お互いの多様性を認め合った上で、一緒により良いものを作り上げていこう」という意識が強いのです。
またZ世代は、X世代やY世代と比べると少子化が進み子どもが少ない時代に生まれているため「周りと競い合って自分が必ず1番になる」といった競争意識が低いとも考えられます。その結果、協同することや違いを大切にすることに重きを置いた価値観になっているのです。
④リスクを避ける傾向がある
4つ目の特徴は、リスクを避ける傾向があることです。これは少子化が進み、子どもの数が減ったという時代背景の中で、Z世代が親や周りの大人から大事に育てられたことが背景にあると考えられます。
周りの大人からたくさんの愛情を受けて大事に育てられることには、もちろんいい面もあります。しかし周りの大人たちからたくさんの愛情を注がれると、今の状態の自分を受け入れてもらうことだけで満足し、大人の顔色を見て失敗しないよう無難な選択をするようになってしまうのです。これは家庭の中だけでなく、学校生活でも当てはまります。
一方、たくさんの子どもがいる時代に育ったY世代やX世代には、いい意味で大人の目が届きづらく、自由な決断や挑戦ができる環境がありました。このような環境で育ったY世代やX世代と比べると、Z世代はリスクを避ける傾向が強く、無難な選択をしがちだと言われることが多いのです。
α世代の特徴
α世代の児童・生徒はZ世代と似た特徴を持っていますが、少し違っている部分や、α世代ならではの特徴もあります。ここではα世代の特徴を解説します。
➀Z世代の特徴がさらに強く出ている
α世代の特徴の1つ目は、Z世代の特徴がさらに強く出ているということです。さきほど解説したZ世代の特徴には、以下のようなものがありました。
- デジタルとの親和性が高い
- 多様性について理解がある
- 競争よりも協調・協同を好む
- リスクを避ける傾向がある
これらのうち、たとえばデジタルとの親和性の高さでいうと、スマートフォンやタブレットなどの電子機器に加えて、メタバースなどのバーチャル空間も生まれたときから当たり前に存在しているため、抵抗感があまりありません。
また多様性や協調・協同といった価値観、さらにSDGsなどについても、学校教育の中で当たり前に勉強するため「知っていて当たり前」「みんなが学校で習うこと」という感覚なのです。
➁パソコンの扱いに慣れている
2つ目の特徴は、パソコンの扱いに慣れていることです。この背景には、2020年、2021年頃にコロナ禍の影響から、小学生と中学生に対し、一人一台キーボードのついたパソコンやタブレットが配布されたことがあります。
通っていた学校によって多少の差はあるものの、今の18歳以下の児童・生徒は小学校や中学校でキーボードのついたパソコンやタブレットを日常的に使用しており、キーボードを使うことに対しても抵抗が少ないのです。
一方、Z世代の中でも今の大学生くらいの年齢の人たちは、スマートフォンやタブレットをスムーズに扱える一方で、キーボードを使用するパソコンやタブレットをやや苦手とする傾向があります。授業などでは使用してきたため、上の世代と比較すると扱いに慣れてはいますが、α世代とは使用頻度が異なるため、苦手に感じている人も少なくありません。
③1つのことにじっくり取り組むことが苦手な傾向がある
3つ目の特徴は、1つのことにじっくり取り組むことが苦手な傾向があることです。
α世代の児童・生徒は、勝手に情報が飛び込んでくる動画やSNSを見ることが当たり前となっています。そのため自分から何かを知ろうと動いたり、取り組んだりしなくても、与えられたもののみで情報が完結することも多く、主体性が身につきにくくなるのです。
またSNSや動画は、つまらなかったり自分にとって有益でなければ簡単に飛ばすことができます。面白さを見いだすまで何か1つのことにじっくり取り組むよりも、早い段階で判断してその分多くの情報を得るという経験が多くなるのです。いろいろなことに興味を持てるという強みがある半面、ほかの世代と比べると興味・関心が移りやすく、1つのことにじっくりと取り組むことが苦手な傾向があります。
Z世代・α世代の児童・生徒に合うコミュニケーション方法
Z世代やα世代の児童・生徒の特徴を知ると「自分とは考え方も価値観も違う児童・生徒とどうやってコミュニケーションをとればいいの…?」と不安になるかもしれません。
ここでは、Z世代・α世代の児童・生徒に合ったコミュニケーション方法を解説します。
➀双方向のコミュニケーションを心掛ける
学校の先生や塾の講師が「一方的に話す」だけでは、児童・生徒が本当に話を聞いているのか、話の内容を理解できているのかがわかりません。
特にZ世代やα世代の児童・生徒は、Y世代やX世代と比べて「先生に言われたから」「従わないと叱られるから」という外発的な理由だけで何かに取り組むことに抵抗があります。逆に「なぜそれをやるのか」「どんな意味があるのか」という内発的な理由を重視します。そのため先生が一方的に話すのではなく、児童・生徒の意見を聞き、双方向のコミュニケ―ションを行うことが大切なのです。
➁児童・生徒が大切にしている価値観を尊重する
たとえば、Z世代やα世代の児童・生徒は、タイムパフォーマンス(タイパ)と呼ばれる価値観を持っています。これは費やした時間と、それによって得られる効果や満足感の関係を指す言葉です。
Z世代やα世代の児童・生徒は、長い時間をかけてコミュニケーションをとっても、その中で得られるものが少なければ「タイパが悪い」と感じます。このため短い時間で要点をしっかりと伝えるように意識したり、長い話になる場合は短く区切ったりする必要があるのです。
また、このような価値観に対して「意味がわからない」「その考え方では世の中通用しない」などと否定的な態度をとるのは、児童・生徒の反発を招く原因になります。重要なのは、児童・生徒の価値観を受け入れ理解しようとする姿勢です。
③叱ったり注意したりする場合は個別に行う
20~30年前の学校現場では、クラスの児童・生徒全員が「こういうことをしたら叱られるんだな」と学べる機会になるよう、意図的にクラス全員の前で1人を叱るという指導が行われていました。
しかしこのような指導方法は、Z世代やα世代の児童・生徒には合いません。叱られたこと以上に「恥をかかされた」といったネガティブな感情につながるためです。
叱ったり注意をしたりする場合は、教室やたくさんの視線がある場所は避けて個別に指導しましょう。たとえば、その場ですぐに伝えなければならないことは廊下に出てから個別に伝える、すぐに指導しなくてもよいことは休み時間に呼び出して伝える、といった工夫が大切です。このような配慮をするだけでも、児童・生徒とのコミュケーションが円滑になります。
④感情的・威圧的なコミュニケーションを避ける
叱るときに机をたたいたり、大きい声を出したりする「怖い先生」は、Z世代やα世代の児童・生徒には受け入れられません。
今の学校現場ではハラスメントのようなコミュニケーションは減ってきていますが、それでも感情的・威圧的なコミュニケーションでクラスをまとめようとする先生は一定数残っています。
しかし、こうした指導方法は学級経営の方法論としては間違いであり、ハラスメントになります。そのため、児童・生徒とコミュニケーションを行う際は、冷静でいることや威圧しないようにすることを心掛ける必要があるのです。
Z世代・α世代の児童・生徒に合う学習指導の方法
Z世代やα世代の児童・生徒に合った指導方法を取り入れることは、児童・生徒の学びの質の向上につながります。ここではその方法について説明します。
➀アプリを積極的に活用する
GIGAスクール構想により、小・中学生は1人につき1台のデジタルツールが配られました。このデジタルツールを活用することはもちろん、アプリを適切に使うことが、Z世代やα世代の児童・生徒に合う学習方法を検討するうえでとても大切です。
たとえば都道府県を覚える学習の場合、デジタルツールが入る前は白地図に書き込んで覚えることが主流でした。しかし現在は児童・生徒が楽しみながら学べるアプリがたくさんあります。遊び感覚で取り組んでいるうちに、3、4日ほどですべて覚えてしまう児童もいるほどです。
このようにアプリを活用することで、学びの質が上がることはもちろん、短期間で多くのことを覚えられるため、学びの総量も大きく変わります。
デジタルツールやアプリを使った効率の良い学習は、タイパという考え方を大切にするZ世代やα世代の特徴に合っています。1つの学びを根気強く深めていくのではなく、アプリを使うことで効率良く、テンポよく学びを進められると、前向きに学習に取り組めるのです。
➁児童・生徒が参加できる授業を行う
双方向のコミュニケーションは学習指導においてもとても重要なポイントです。
先生が一方的に教科書の内容を解説する授業では、児童・生徒が本当に授業を聞いているのか、聞いていたとしても本当に内容を理解できているのかがわかりません。また、Z世代やα世代の児童・生徒は、一方的に押し付けられるような指導は好まない傾向にあります。
そのため学習指導においても一方的な指導は極力避け、授業中に児童・生徒同士で意見を交流させたり、アンケートを取って参加型にしたりするなど、児童・生徒が参加できる学習指導の方法を模索することが大切です。
③ゲーミフィケーションを取り入れる
ゲーミフィケーションとはゲームと学習を合わせたもので、学習ゲームとも呼ばれます。この学習方法はZ世代やα世代などに関係なく、児童・生徒が前向きに勉強に取り組める手法の1つです。
たとえばコンパスの使い方を練習する授業なら、単に決められた円を書かせるのではなく、先生から何らかの課題が与えられ、コンパスを使ってクリアしていくような”ゲームの要素”を学習に加えながら練習させます。こうすることで児童・生徒は自分からコンパスに触れ、積極的にコンパスの使い方を模索するようになるでしょう。
GIGAスクール構想でさまざまなデジタルツールを活用できるようになったことで、これまで以上に学習とゲームを結び付けやすくなりました。遊びながら学習できるように工夫されたアプリなどもたくさん出ているので、ぜひ活用してみてください。
Z世代・α世代から考えるこれからの学校教育とは?
Z世代やα世代の子どもたちの特徴からもわかるように、学校や塾に通う児童・生徒は時代とともに変化していきます。そのため学校現場も、それに合わせて変わり続けることが必要です。ここでは、これからの学校教育のありかたについて解説します。
➀デジタル機器をさらに積極的に活用する
現代の世の中は、仕事も暮らしも学びもすべてにデジタルが関係します。そのため学校でデジタルツールを積極的に使わない、デジタルツールを家に持って帰らせないなどの指導方法は時代に合いません。
また20年後、30年後の未来に向けて、デジタルツールを活用できる人材を育てることも重要です。
教育現場全体を見ると、目が悪くなる、トラブルが起きるなどの理由からデジタルツールに否定的な考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、児童・生徒の将来を考えると、今後はより積極的にデジタルツールを活用する必要があるのです。
➁蓄積したデータを引き継げるようにしていく
デジタルツールを活用して蓄積したデータを、どうつなげていくかも非常に重要なことです。
現在は進級や転校などによって違う環境の学校に進むと、システムやアプリの違いからデータの引き継ぎができないことがほとんどです。しかし本来のデジタルのメリットは、学びを引き継いだり継続したりすることでデータが蓄積され、得意不得意がわかり学びの質を高められるというところにあります。つまり学校現場でデジタルツールを活用することで、児童・生徒の学びの軌跡を記録でき、さらにその軌跡から今後の児童・生徒の学びのヒントを得られるのです。
児童・生徒の学習データを引き継ぐための環境の整備は、現在一部では実現できていますがまだ完ぺきではありません。ただ、近い将来にはそのような整備も着実にされていくことでしょう。
③学校ごとに常により良い形を模索する
学校は変わりにくい組織であり、学校行事などさまざまな部分において「前年度を踏襲する」といったやり方が一般的です。
しかし、社会が変われば学校も変わっていく必要があります。たとえばコロナ禍の際は、運動会を中止にした学校や規模を縮小して行った学校、午前中だけにした学校、学年入れ替え制で行った学校など、学校ごとにさまざまな方法で最適な形を模索しました。
どのような形が今の時代の運動会として適しているのかは、地域によっても学校規模によっても異なるため、全国で統一する必要はありません。それぞれの学校、それぞれの地域で、何が適切かを探っていくことが大切なのです。
これは運動会などの学校行事のみならず、PTAや学習指導の方法など、すべてにおいて同じことが言えます。変化の激しい今の社会に合った学校教育を行っていくためには、それぞれの学校が常により良い形を模索することがなによりも大切なのです。
まとめ
児童・生徒の特徴や価値観は、時代の流れや社会の変化によって大きく変わっていきます。そのため、学校はもちろん学習塾でも、その時々の児童・生徒の特徴や価値観に合った学習指導やコミュニケーションを行う必要があります。
しかし児童・生徒を「Z世代だから、α世代だから」とグルーピングすることで、1人ひとりに目を向けられなくなってしまうと、適切な指導から遠ざかってしまいます。
Z世代やα世代などの考え方も適度に取り入れつつ、目の前の児童・生徒と向き合うことで、適切な指導方法やコミュニケーションを常に模索するように心掛けてみてください。
これからの教育を担う若い先生たちに向けた、
学び・教育に関する助言・ヒント(tips)となるような情報を発信します。
何気なく口にする駄菓子(chips)のように、
気軽に毎日読んでもらいたいメディアを目指しています。