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何枚もの原稿用紙にわたって書く作文や小論文でも、細分化していくと「文」になります。一つひとつの文を読みやすくすることは読みやすい文章を書くための第一歩。
ここでは「文」を読みやすくする指導のコツを説明します。作文・小論文の指導のはじめの一歩としてご活用ください。
文の基本は主語と述語
「文」の基本的な構成要素は主語と述語です。主語と述語は文の背骨とも言えるでしょう。そこに、様々な修飾語がくっついて一つの文になります。まずは背骨がしっかりとしていなければ、どのように周りを飾っても読みやすい文章にはなりません。
主語と述語のつながりに注意する
「主語と述語がつながるように」というポイントは、文章を書くうえで基本中の基本。ですが、多くの児童・生徒が間違えてしまうポイントであることも確かです。なぜそのような間違いが起こるのでしょうか。次の例を見てください。
【誤】私の好きな季節は、春が好きです。
【正】私の好きな季節は春です。
【正】私は春が好きです。
これは、係り受けがかみ合っていないために起こる主・述のねじれです。このように短い文であれば、すぐに気づくことができるでしょう。しかし、修飾語が増え、文が長くなって主語と述語の位置が離れてくると、ねじれが起こりやすくなります。次のような例題で練習してみるのがおすすめです。
<例題> 次の文章を、( )に示す2通りに正しく書きかえましょう。
私が母に感謝したいことは、毎朝5時に起きておいしいお弁当を作ってくれることに感謝しています。(①「私は」で書きはじめる/②「私が母に感謝したいことは」で書きはじめる)
<解答例>
① 私は母が毎朝5時に起きておいしいお弁当を作ってくれることに感謝しています。
② 私が母に感謝したいことは毎朝5時に起きておいしいお弁当を作ってくれることです。
主・述のねじれが起こってしまうもう一つの大きな原因は、受動・能動がかみ合っていないことです。主語が無生物の場合に起こりやすくなりますので注意が必要です。こちらも例題で練習してみましょう。
<例題> 次の文章を正しく書きかえましょう。
毎年多くの来場者でにぎわう桜まつりが先週の金曜日から私の家の近くの公園で開催しています。
<解答例>
毎年多くの来場者でにぎわう桜まつりが先週の金曜日から私の家の近くの公園で開催されています。
作文や小論文を書くとき、一つひとつの文に対して主語は何か、述語は何か、文の骨組みを意識しながら丁寧に書くことが大切です。また、書いた後で全体を読み返すと気がつくことも多いので、見直しの時間を設けることが大切です。
練習の際は、上の例題のように書いた文の主語と述語に傍線を引かせることも効果的です。傍線部分だけをつなげて読んでみると主・述のねじれが一目瞭然です。
一文は短いほうがよい
主語と述語がねじれにくくするためにも、一文が短いに越したことはありません。文を短くすることは日々の練習によって慣れていきます。児童・生徒の文章に長い文があれば、それを指導者が直すのではなく、以下のポイントを伝えたうえで本人に分ける練習を普段からさせていくとよいでしょう。
一文の長さの目安は?
「短ければ短いほど読みやすくなる」と意識させましょう。長くとも60字以内(原稿用紙の3行よりも長くならない)を目安に。原稿用紙の2行を超えたら危険信号です。どこかに文を分けるポイントがないか、探してみましょう。
どこで文を分ける?
では、どこで文を分ければよいでしょうか。次の文を使って一例を示します。
A
私の住む地域でも少子高齢化が進んでいて、私が通う小学校では教室が余っているのに、公的な老人ホームは入居希望者が多く入れずに困っている人がいるというニュースを見たので、私は少子高齢化対策を真剣に考えてくれる人に投票したいです。
文章を分ける考え方は他にもいくつかありますが、まずは基本のルールとして「一文一義」を生徒に伝えるとよいでしょう。これは、「一つの文で、一つの内容(義)を伝える」という意味です。上の例を「一文一義」のルールに沿って分けてみます。
B
・私の住む地域でも少子高齢化が進んでいます。
・私が通う小学校では教室が余っています。
・公的な老人ホームは入居希望者が多く入れずに困っている人がいるというニュースを見ました。
・私は少子高齢化対策を真剣に考えてくれる人に投票したいです。
箇条書きにしてみると、このように4つの内容に分けることができます。こうすることで主語と述語の関係もすっきりと整理され、読みやすくなります。また、係り受けの関係もはっきりします。Aの文章では、「というニュース」が「私が通う小学校では教室が余っているのに、公的な老人ホームは入居希望者が多く入れずに困っている人がいる」を受けるのか、「公的な老人ホームは入居希望者が多く入れずに困っている人がいる」を受けるのかあいまいでした。文を分けることによって、この文章の書き手は「私が通う小学校では教室が余っている」という少子化の現状を体験として示しているのだということがはっきりと読み取れるようになりました。
文を分けるための目印はある?
理解を深めるためには「一文一義」を意識して文を分けてほしいところですが、どこで分けるべきか、手っ取り早い「目印」があります。先ほどのAの文章に戻ってみましょう。
私の住む地域でも少子高齢化が進んでいて、私が通う小学校では教室が余っているのに、公的な老人ホームは入居希望者が多く入れずに困っている人がいるというニュースを見たので、私は少子化対策を真剣に考えてくれる人に投票したいです。
ずばり、目印は接続助詞です。
接続助詞の例:て・で・ので・と・から・のに・が・けれども・ても など
作文や小論文を書くときに注意したいのが、これらの接続助詞を多用しないということです。文を分けずに接続助詞でつないでいくと、一つの文に複数の内容が入り込んで理解しづらくなります。そのことを、上記のような実例を用いて生徒に実感させるとよいでしょう。そして、接続助詞を使いそうになったらそこで文を分けるべきか考えるということを定着させていきましょう。
一文を短くしたあとは
一文を短くするだけでは読みやすい文章になりません。先ほどの箇条書きの文をつなげただけでは、不十分であることは明らかです。一文を短くしたあとは、文と文をうまくつなぐ必要があります。そのために、文と文の関係を適切に表現する接続語を選びましょう。それぞれの接続語の意味を理解し、選んで使えるように準備しておくことが大切です。
接続語を適切に選ぶ
Bの箇条書きの文を適切な接続語でつないでみましょう。
私の住む地域でも少子高齢化が進んでいます。たとえば、私が通う小学校のクラスは減って教室が余っています。一方、公的な老人ホームは希望者が多く入居待ちになり高齢者が困っているというニュースを見ました。だから、私は少子高齢化対策を真剣に考えてくれる人に投票したいです。
「たとえば」によって、前の文(私の住む地域でも少子高齢化が進んでいる)の例を挙げようとしていることがわかります。次に、「一方」によって、前の文(小学校のクラスが減って教室が余っている)に対比する例を挙げようとしていることがわかります。そして、「だから」で、これまでに説明してきた少子高齢化の問題を受けて、結論を示そうとしていることがわかります。それぞれの文の関係を明確にすることで、文章全体で伝えたいことが読み取りやすくなりました。
接続語を用いるときのルールとして、接続語の後には読点をつけるようにしましょう。
作文・小論文に使える接続語一覧
作文・小論文を書くためには、次の接続語を押さえておくとよいでしょう。
用法※ | はたらき | 接続語の例 |
---|---|---|
順接 | 前の事柄が原因・理由となり、 後にその結果や結論を示す |
だから、それで、したがって、すると |
逆接 | 前の事柄と反対の事柄を示す | しかし、でも、けれども、ところが |
並列(並立)・累加 | 複数の事柄を並べて示す 前の事柄に新しい事柄を付け加える |
また、そして、それから、さらに |
対比・選択 | 前の事柄と後の事柄を比べたり、 どちらか一方を選んだりする |
一方、または、あるいは |
説明 | 前の事柄についての説明や補足をする | [理由]なぜなら、なぜかというと [結論]つまり、要するに、すなわち [例示]たとえば [補足]ただし |
※この他に、接続語の用法には話題を変えるはたらきをする「転換」があります(「さて」「ところで」など)。作文・小論文を書く際には文章の途中で話題を変えないほうがよいため、あえて省いてあります。
まとめ
ここまで、読みやすい文章を書くコツとして、一つの文を読みやすくする方法と接続のしかたについて説明してきました。どのポイントも、一朝一夕には身につかないものです。日頃の指導のなかで、折に触れ根気強く伝えていく必要があります。そして、何より実践が大事。自分の文章を自分で直したり、クラスメイトと交換してお互いによいところを見つけ合ったりして、さまざまな文章に触れて考えさせる機会を作るとよいでしょう。
執筆:NPO現代用語検定協会
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