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この記事では、「円安」の時事解説を小学校高学年~中学生にわかりやすく解説します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。
止まらない「円安」は暮らしにどんな影響を与えるの!?
「円安」という言葉を最近ニュースなどでよく耳にします。
2022年3月以降、円安が進んでおり、それまで1ドル=110円前後であったものが、2023年10月には1ドル=150円台、2024年4月には1ドル=160円台、そして7月3日には一時1ドル=161円94銭となり、約37年半ぶりの円安水準となりました。
では、円安とはどのような状態で、なぜ円安が進んでいるのでしょうか。そして円安は私たちの暮らしにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
「円安」とはどんな状態のことなの?
私たちが使っている「円」は、日本国内で使われるお金(貨幣,通貨)です。2024年7月3日に新しい「千円」「五千円」「一万円」の紙幣が発行されましたが、こうした日本の貨幣を海外でそのまま使うことは基本的にはできません。海外で使うには、現地の貨幣と交換する必要があり、たとえばアメリカで使う場合は「ドル」に交換します。このように種類の違う貨幣と交換することを「外国為替(取引)」といいます。
「円安」とは、外国為替を取引する場所(外国為替市場)で貨幣を交換する場合の円の価値を示すもので、「円が安い」、つまり他の国の貨幣に対して「円の価値が低い」状態を指します。外国為替市場では毎日、円やドル、EUの共通通貨であるユーロなど、世界の通貨が取引(交換)されています。通貨の交換比率を「為替相場(レート)」といい、為替相場は需要と供給のバランスで変わります。円を手放したい人がたくさんいて、ほしい人が少ない場合には、円から外国の貨幣への交換比率は悪く、「円安」となります。逆に、円を手放したい人が少なくて、ほしい人が多い場合には、交換比率はよく、「円高」になります。「円安」「円高」は「ドル」を基準にするのが一般的で、「円安ドル高」「円高ドル安」などともいいます。
「価値が低い」とはどういうことか、見ていきましょう。アメリカに行って1ドルのものを買うために円とドルを交換するときに、100円を1ドルと交換する場合と、150円を1ドルと交換する場合だと、円の価値はどちらの方が低いでしょうか? 100円しか持っていないのに、1ドルと交換するのに150円必要だったら、交換はできず、1ドルのものを買うことはできませんね。
「以前は100円で交換できたのに、いまは150円ないと交換できない」というような状況を、円の価値が低くなった、つまり「円安」になったというのです。
円の価値はどう変わってきたの?
では、これまで円の価値はどのように変わってきたでしょうか。
第二次世界大戦後の1949年4月から長い間、円の為替相場を固定する「固定為替相場制」という制度がとられており、1ドル=360円(1971年12月からは308円)で交換されていました。しかし、1973年4月以降、市場での需要と供給のバランスで為替相場が常に変わる「変動為替相場制」がとられるようになりました。そして、1980年代半ばまで1ドル=200円から250円程度へと円安が進みましたが、行き過ぎたドル高を是正しようと、1985年9月にアメリカ、イギリス、西ドイツ(当時)、フランス、日本の5カ国による合意(プラザ合意)が行われ、それから円高が進みました。
その後、日米貿易摩擦を背景とするアメリカからの圧力による円高、金融危機による円安、リーマンショックによる円高、東日本大震災とヨーロッパの金融不安による円高、日銀の大規模金融緩和による円安など、さまざまな経済・社会情勢などを背景に、円の為替相場は変化してきました。これまでの円の最高値は1ドル=75円32銭(2011年10月31日)ですから、1ドル=160円台は、その時点と比べると円の価値が半分以下になってしまったということになります。
どうしていま円安なの?(為替相場はどうして変動するの)
なぜこれほど円安になっているのでしょうか。
さまざまな経済・社会情勢などで円の為替相場が変化してきたと前述しましたが、最近進んでいる円安の最大の要因とされているのが、日本とアメリカの金利(貸したお金に対する利子の割合)の差です。政策の違いから日本の金利は低く、アメリカの金利は高くなってきました。短期的な価格変動により利益を得る目的で金利のつくドルが買われて円が売られるという動きがあります。そのほかにも、海外企業のデジタルサービスを多く利用することでの「デジタル赤字」と呼ばれる状況や、世界経済の見通しなどさまざまな要因が影響していると考えられています。
円安ではどのような影響があるの?
では、円安によってどのような影響があるでしょうか。円の価値が下がっているのですから、海外のものを購入(輸入)したり、海外旅行をしたりするときには不利になります。
日本は2023年度まで3年連続で輸入金額が輸出金額を上回る貿易赤字となっていますが、これには、原油をはじめとしたエネルギーなどの価格がもともと高くなっていることに加えて、円安が影響しています。
日本はエネルギーや食料の多くを輸入にたよっているので、輸入価格が上がることは、製品価格の上昇にもつながります。光熱費やガソリン、食料品の値段の上昇など、私たちの暮らしに影響してきます。
一方で、円安は輸出企業にとっては、海外で価格競争力が増す機会になります。自動車など日本の製品を海外で安く売ることができるようになるので、より多くの製品を海外市場で販売することができます。加えて、海外で得た(稼いだ)ドルなどを円に換えたときの売上高が増えるので、業績がよくなります。同じように、外国の株式などに投資している場合には、資産価値が上がりやすくなります。
また、外国から見ると為替相場がよいために、日本でたくさんお金を使えるようになります。2024年3月から3カ月連続で外国人旅行客の数が300万人を突破しましたが、円安で日本に来やすくなっているからです。外国人旅行客の消費活動(インバウンド消費)で、国内の観光業などにはプラスの影響が出ています。外国から日本への投資などもしやすくなるので、外国からの資金を得られれば企業が成長できる場合もあります。
円安と円高でのそれぞれの影響
円安 | 円高 |
・輸入品が高くなる ・海外旅行が割高になる ・外国の株式などに投資していれば資産価値が上がりやすくなる ・輸出企業は海外での価格競争力が上がり業績が上向く |
・輸入品が安くなる ・海外旅行に安く行ける ・外国の株式などに投資していれば資産価値が下がりやすくなる ・輸入企業は仕入れ価格が低下して業績が上向く |
円安に対してどんな政策がとられている?
最近の円安のように、為替相場が急激に変動した場合、それを抑えて自国の通貨を安定させるために、各国の中央銀行などが外国為替市場で通貨を売買する「為替介入(外国為替平衡操作)」が行われることがあります。為替介入は日本では財務大臣の権限で日銀が行い、円安に対応する場合にはドルを売って円を買う「ドル売り・円買い介入」が、円高に対応する場合には円を売ってドルを買う「ドル買い・円売り介入」が行われます。
2023年4月に1ドル=160円台をつけた直後、急激に円高方向に動くということがあり、為替介入していることを明らかにしないまま行う「覆面介入」が実施されていると見られていました。5月末に財務省は4月26日から5月29日までの1カ月間に為替介入に9兆7885億円を投入していたことを公表しました。1カ月間の介入額としては過去最大になります。
為替介入で、一時的に円高方向に動いたものの、再び円安は進んでいます。今後もさらに為替介入が行われるかが注目されていますが、円安の背景には、これまで日本がとってきた経済政策と他国の経済政策の違いによる金利差があるため、為替介入では効果が限定的であるとも見られています。日銀は2024年3月に、2016年から続けてきたマイナス金利政策を解除しましたが、アメリカなどとの金利差は依然として大きく、円安の傾向はしばらく続くと考えられています。
ポイントを確認しよう
前述したように、円安は輸出企業など一部の企業にとってはメリットがありますが、物の値段の上昇など個人の生活には大きな影響を及ぼします。また、輸入コストが増加することによって、収益が圧迫されている企業も少なくありません。円の価値が下がることは、日本経済の地位の低下につながるおそれもあります。円安が、日本という国や私たちの暮らしにどんな影響を及ぼしているのか、物の値段の変化などを注意深く見ていき、身近な問題として考えてみてはいかがでしょうか。
※この記事は、7月7日時点の情報をもとに執筆したものです。
執筆:NPO現代用語検定協会
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