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公開日:2023年11月24日  
更新日:2023年12月20日

人生の可能性を広げる子どもたちへのマネー教育

国際情勢が安定せず、物価の上昇や円安といったお金にまつわるニュースが飛び交う昨今。今回は、ファイナンシャルプランナーの八木陽子さんに、子どもたちへのマネー教育の必要性、そして、家庭で今日からスタートできるマネー教育についてお話を伺いました。

お金の基礎知識は、この先長い人生を歩む子どもたちにこそ必要!

―八木先生は2005年、子どもたちにお金や社会の仕組みを教え、自立する力を育む教室「キッズ・マネー・ステーション」を設立し、長きにわたりマネー教育の現場に立たれています。最初に、設立のきっかけを教えていただけますか?

 ファイナンシャルプランナー(以下、FP)として活動を始めるうちに、ライフプランと密接にかかわるお金について学ぶことは、大人はもちろん、子どもたちが自分らしく生きるために必要だと確信したからです。将来は、海外留学してみたい。いつか家庭をもったらマイホームを購入したい。そんなライフプランにはお金が必要ですよね。しかし、2005年当時、日本ではお金にまつわる公的な教育はもちろん、民間でも金融教育に取り組んでいるところはほとんどありません。そんなとき、子ども向けマネー教育の先進国である、オーストラリアの小学校を視察する機会に恵まれたことが転機となりました。授業を聴いて、「人生を歩む上で、もっと早く知っておきたかった!」と感じると同時に、遅かれ早かれ、金融にまつわる基礎知識はグローバルスタンダードになる。まずは小さくても、民間からマネー教育に取り組もうと設立しました。

―先生の直感どおり、2022年度から、高校の家庭科で「資産形成」の授業がスタートしましたね。

 公的な教育に、金融教育が取り入れられたのは喜ばしいことです。これまで金融教育を行ってきた外部リソースも活用しながら、子どもたちの金融リテラシーを高めていくことができれば、日本の未来は変わるはずです。

 FPとして、さまざまなご家庭の家計を見ていると、富裕層と貧困層の二極化が進んでいる印象はぬぐえません。子どもの貧困が社会課題として注目されていますが、「金融教育」は、貧困の連鎖を直接的に解決できる方法です。

技術革新が続く中お金を守るためには、家庭での話し合いが大切

物やお金、働く大人への「感謝の心」がマネー教育のベース

―「キッズ・マネー・ステーション」等で、多くの子どもたちと接する中で「お金に対する価値観」の変化は感じられますか?

 親御さんが働いて得たお金は銀行に振り込まれ、キャッシュレス化が進んだことで、お金そのものや、お金の動きが子どもたちの目に見えづらくなりました。その結果、お金の価値やありがたみを感じにくい子が増えている気がします。

 最近、親御さんからは、親のクレジットカードで多額のゲーム課金をしたり、親のICカードで散財してしまったりといったトラブルをお聞きします。ICカードにチャージされるお金、クレジットカードを使った分のお金がどこから来ているのかわからないんですよね。

 ゆくゆく、Amazon Goのように、支払い動作なくカード決済できる店舗が身の回りに増えてくると、クレジットカードを持たないお子さんが「お父さんは品物を選んでそのまま店外に出たから」と、悪気なく万引きするなんていうケースが 出てくる可能性もあると思います。

―大人にとっては驚かされるお話ばかりですが、確かに、ネットで注文ボタンを押すだけで商品を手に入れられると、お金と商品との交換という感覚すら忘れそうです。

 そうなんですよね。地道な方法ですが、お金のトラブルを繰り返さないためには、親子での対話が大切です。「ネットショッピングができるのも、クレジットカードに紐づいた銀行口座があって、そこにお父さんとお母さんが働いたお金が入っているからだよ」といった大前提から伝えてみると、無限にお買い物ができる魔法のカードではないとわかってもらえるはずです。親子で話し合った記憶は、トラブルの“ストッパー”になります。

―お金に関する話をあえて避けているご家庭も多いかと想像しますが、家族間の話し合いが大切なんですね。

 最近、印象に残っているのが「中学生の子どもが、フリマアプリで家の物を売ってしまう。お小遣いが足りなくなると、祖母にもらったものまで現金化している」というお話です。別に売ること自体は悪いことでもなんでもない……でも、なんとなくもやもやしませんか(笑)?

 こういうタイミングこそ、家族でお金の話をするチャンスだと思うんです。もやもやを親が丁寧に言語化し、「物には、お金に換算できない価値もあるはずだよね」とか、「売ったお金をどう使ったら、あなたのためになるだろう」とか「家族に黙って物を売ったら、どんなトラブルが起きる可能性があるか考えてみよう」とか、そういった話ができると、家庭ごとの価値観を確認し合えますし、お金や物を大切にする「感謝の心」も育ちます。「子どもはお金のことなど考えずのびのびしていればいい」ではなく、ご家庭が、お金のことを普通に話せる場になるといいですね。

お金の学びは人生の選択肢を増やし、幸せに生きる力につながる

―「キッズ・マネー・ステーション」では、マネー教育だけではなく、キャリア教育も行われているんですね。

 働くことは、お金を得て幸せに暮らすことと不可分です。今は、終身雇用制度が崩れ、転職も一般的になりました。起業したり、フリーランスとして働くこともめずらしくなくなっています。働き方が多様な社会にあって、どうしたら、自分が自立し、社会に対して価値提供できるかを考えることが必要になります。

 キャリア教育で一番伝えたいのは「あなた自身が一番の資産であり、自分らしく活動することで、社会貢献できる素晴らしい存在なんですよ」ということです。だからこそ、自分という資産が活かせるフィールドを積極的に探してほしいですし、いろいろと試してほしい。キャリア教育の中で、未来の多様な選択肢について、思いを巡らせてもらえたらうれしいですね。

 ただ、人間なので時には働けない事情ができたり、お休みしたいときも出てきたりすると思います。特に、人生100年時代が到来し、正直何が起きるかわからない。そんなとき、お金にも働いてもらうと安心です。マネー教育では、投資の王道は長期分散といったお金の基礎知識を学びます。そういった基礎を身につけていれば、ライフプランを大きく左右するようなギャンブル的な投機に手を出したり、詐欺みたいな金融商品にはひっかかりません。お金について学ぶことは、生きていく上での選択肢を増やすこととイコールなんです。

ライフプランも投資も、長期目線で考えることが基本

PROFILE | やぎ・ようこ

1993年上智大学外国語学部を卒業後、女性誌編集部の勤務を経て1999年にフリーとして独立。「お金と向き合うことは、人生を考えること」をポリシーに活動をスタート。 2005年から、親子でお金と仕事を学ぶサイト「キッズ・マネー・ステーション」主宰。現在までに、1000件以上の相談を実施。一貫して、顧客の立場に立った「マネープラン」「キャリアプラン」を提案。2017年より、文部科学省検定の高等学校の家庭科の教科書に、ファイナンシャルプランナーとして初めて掲載される。

文・岡島 梓 撮影・田中秀典
※この記事は2022年12月に掲載されたものを転載しています

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