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公開日:2023年11月24日  
更新日:2023年12月20日

革新的教育者が目指す、テクノロジーの力を駆使した教育の再構築

教育に関する複数のNPO法人の理事や創設に携わり、2020年4月にはオンライン授業を主体とするインターナショナルスクール『Crimson Global Academy』の日本展開を開始するなど、グローバル人材の育成に取り組む松田悠介氏にお話を伺いました。

中学時代の恩師の存在が教育の道を志すきっかけに

教育系団体『Learning For All』、NPO法人『Teach For Japan』の創設を始め、2020年4月には海外のボーディングスクールや大学・大学院への進学をサポートするオンラインサービス『Crimson Education Japan』やオンラインのインターナショナルスクール『Crimson Global Academy』の日本法人を創設。その一方、複数のNPO法人の理事や文部科学省の中央教育審議会の委員を務めるなど、教育に関する多彩な活動を行っている松田悠介さん。そのキャリアのスタートは中学校の体育教師だったという。

「教師を目指し始めたのは高校に入学する頃でした。それまでは勉強も嫌い、スポーツもできない。いじめを受けており、本気で自殺まで考えていました。それを抜け出すきっかけとなったのが『どうすれば強くなれるか一緒に考えていこうぜ』という恩師の一言でした。以来、二人三脚で歩んでくれたんです。高校生になってから先生を訪ね、『一生かけて恩返しします』と言ったところ『俺なんかに恩を返そうと思うな。同じような状況にいる子どもたちに向き合えるような大人になれ』と言ってくださったんです。自分もそんな格好いい大人になりたいと思って教師を目指したんです」

 ところが実際の教育現場は松田さんの理想とはかけ離れていた。一生懸命子どもたちと向き合っている教師がいる一方、子どもたちではなく黒板と向き合っている教師たちがいた。この状況に強い違和感を覚え、学校の現場ではなく教育政策を通した変革を志し、教育委員会へと仕事の場を移した。だが、そこでも厳しい現実に直面する。

「教育委員会は合議制の行政組織ですので、20代の若造ができることはどうしても限定されました。その時に、学校を作ろうと思ったんです。自分の思いに賛同してくれて、子どもたちと向き合うことのできる教員を集め、そこで学びたいと思う子どもたちに120パーセントの力で教えていく。それこそが最高の教育改革ではないかと考えたんです」

海外留学経験が、現在の活動に取り組む礎となった

時代を作るのが教育。加速度的に変化する社会に対応できる教育のあり方を追い求める必要がある。

 学校を作るということは、自らが経営者になることを意味する。それに必要な資質はリーダーシップとマネジメントだと考えた松田さんは、国内外の大学の授業のリサーチとともに受験勉強に励み、ハーバード大学教育大学院へと進学。この海外留学経験が、現在の活動の礎となる大きな影響を与えることとなった。

「在学中に『Teach For America』というNPOに出会ったんです。ハーバード大学やコロンビア大学などを出た優秀な人材を、貧困問題や教育課題が山積みの学校に先生として派遣する取り組みなのですが、非常に感銘を受けました。優秀な人材が、お金のためではなく、社会のため教育のために2年間コミットする。教育成果も上がりますし、先生自身もリーダーシップが身につく。ウイン|ウインの構図ができているわけです。僕が学校単位でやろうと考えていたことを社会全体を巻き込みながら年間数千人の規模で行っていたんです」

 帰国後、松田さんは認定NPO法人『Teach For Japan』を創設。その7年後には再びインスピレーションを得ようとスタンフォード大学ビジネススクールに留学する。グローバルな人材、社会課題の解決に取り組む人材を育てるにあたってのスキルを身につけることが目的だった。

「自分自身、教育の課題や社会課題の解決に取り組んでいたのですが、1人、あるいは一つの組織で根本的な課題は解決できないと思ったんですね。思いを持って課題解決ができる人材を100人、1000人、1万人にすることができれば、きっとさまざまな課題を解決できると思ったんです。留学によって僕自身の人生も変わりましたし、圧倒的に視座が高くなりました。同時に客観的に日本を見る機会にもなりますので、日本の課題と可能性の両面に気付くこともできました。今、留学支援やグローバル人材の育成、完全オンラインのインターナショナルスクールなどを展開していますが、これはグローバル人材を育て、社会課題を解決する100人、1000人、1万人のリーダーを育成するためにやっていることだと思っています」

理想の教育を実現するためにオンラインを駆使する

 海外の教育事情にも通じ、早くからオンラインによる授業に取り組んできた松田さんから見た、日本の教育の課題、問題点とは何なのだろうか。

「時代がこれほどまでに変わっているにもかかわらず、日本の教育体制はなかなか追いつけていない。時代を作るのが教育だと思っているので、時代に合わせて教育が変わっていけないことに対する強い危機意識を抱いています。僕はまず教育現場に目的意識を取り戻したいです。何のために学ぶのか。教える側も何のためにそれを教えたのか目的意識のないまま進んでいる。例えば、何のために大学へ行くのか、何学部に進学するのかってこともそうですよね。目的意識のない受験をして、就職活動を始める時に初めて考えさせられる。それを変えたいんです。

 ただ、現状のように朝から夕方まで学校で過ごしている中で、目的意識が育まれるかというと難しい。だから、課外活動が重要となりますし、将来どこへ向かって行きたいのか、何を学ぶべきなのかという心を育むには隙間時間が必要なんです。そのためには教育の効率化が必要となりますが、オンラインを駆使することでそれが可能だと考えています。うちのオンラインによるインターナショナルスクールでは、普通は45分かけて教えるコンテンツを20分で学ぶことを実現しています。それによって空いた時間を自分の好きなことを探求する時間に使って欲しい。その隙間時間を作るために必要なのが徹底した効率型のオンライン教育。テクノロジーの力を駆使して教育を再構築していくことが今の自分のテーマですね」

 オンライン教育が目的ではなく、理想の教育を実現するためにオンラインはインフラでありプラットフォームとして存在していると松田さんは言う。

「オンライン授業は最初からうまくいくはずありません。僕らだってトライ&エラーを繰り返してきました。そもそも教育とは何か。僕の感覚では『学び方』を教えることなんです。何かにチャレンジする、失敗からどうやって改善して成長するか。そのスキルを子どもたちに身につけてほしいんです」

オンライン教育は目的ではなく、理想の教育を実現するための、インフラでありプラットフォーム

PROFILE | まつだ・ゆうすけ

グローバル人材教育 実践家。中学校の体育教員、千葉県市川市教育委員会 教育政策課分析官、外資系コンサルティング会社「PwCJapan」を経て、教育系の特定非営利活動法人「Learning For All」を創業。2009年にハーバード教育大学院に入学。2012年、認定NPO法人「Teach For Japan」の創設代表理事に就任。2018年、スタンフォード大学ビジネススクールにて修士号を取得。同年、スタンフォード大学客員研究員に着任。文部科学省中央教育審議会の委員を務めるほか、高校生の課外活動を応援する「BLAST! SCHOOL」の運営や複数のNPO法人の理事を兼任。2020年4月には、アメリカやイギリスをはじめとする海外トップスクールへの進学をサポートする「Crimson Education Japan」を創業、完全オンラインのインターナショナルスクール「Crimson Global Academy」の日本展開も担当。自らも講師として生徒の指導にあたっている。

文・小林保(都恋堂) 撮影・田中秀典
※この記事は2020年12月に掲載されたものを転載しています

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