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公開日:2023年12月13日  
更新日:2023年12月12日

「学び続ける力」の原動力となる、「前に進もうとする力」を身につけたい ~「個別最適な学び」と「協働的な学び」の融合~

予測困難な時代を生き抜くために、子供だけでなく、教員である大人も「学び続ける力」が求められています。このような力は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の充実にどのように関係しているのでしょうか。先進的な教育実践に取り組む義務教育学校として、全国からも視察が多い品川区立品川学園の様子を紹介します。

「個別最適な学び」と「協働的な学び」のゆるやかな流れとバランス

品川区立品川学園(以下、品川学園)は、2011年に施設一体型小中一貫校として開校したのち、2016年に義務教育学校となった公立学校です。同学園は9年間の一貫教育において、1~4年生を「児童課程」に、5~9年生を「生徒課程」として設定しており、約1,100人の児童生徒が学んでいます。

品川区立品川学園

品川学園ではどのような授業を行っているのでしょうか。5年生を担当する大口孝人教諭(以下、大口教諭)が行った、算数の「平均とその利用」の授業を紹介しましょう。

この日の学習のねらいは、平均の意味をしっかり理解し、応用につなげられること。大口教諭は、授業冒頭で返却した小テストの結果に子供たちが盛り上がったため、用意していた問題を変更して、「1班の満点を取った人の平均値」を授業の課題としました。子供たちは平均とは何か、グループで話し合い、その内容を発表。「およその数」「何回かやった真ん中の数」「でこぼこを平らにすること」「全体を個数で割った数」「数の中心」など、さまざまな意見が飛び出し、一口に“平均”と言っても、子供によって異なったイメージを持っていることがわかります。

5年生算数の授業で、積極的に発言する子供たち

大口教諭は子供たちのさまざまな意見や言葉を丁寧に拾いながら、今日の授業で理解してほしいねらいに即して「平均の意味」に話をつなげていきます。計算式や答えなど子供たちとやり取りしながら板書を行い、どんなときに平均を使うのか、さらに問いかけました。こうした一斉授業の時間においては、教師による一方的なティーチングにならないよう注意していると大口教諭。グループで話し合う時間を取り、一人ひとりの課題の理解や、互いの意見を共有し、考えを深めていくための機会を持つことで、子供たちが主体的・対話的に学べるように意識しているといいます。

生徒の発言を元に板書を進めていく大口教諭

全体で学んだ後は、個別学習の時間へ。大口教諭は「自分の考えを整理する個別の時間は授業の中で必要」と語っており、子供たち自身、どんな課題があるのかなどを理解する時間は一人で応用問題に取り組みました。問題を解いていく中で、手が止まってしまう子供に対しては、早く問題を解き終わった子供が各グループを回って、どんな課題があるのかを聞き取りアドバイスをしています。個別学習といっても、出来る子がどんどん先へ進んでしまうのではなく、個別から協働的な学びへ移行するように授業が構成されています。

大口教諭は、「早く出来た子が発展的な課題に取り組む場合もありますが、この授業では他の子が何につまずいているのかを聞いて自分の視野を広げてほしかった」といいます。「学力的に優れている子が、精神的、人間的に優れたものを持っているわけではなく、教え合ったり、学び合ったりする中に人間的な成長があります。教え合いも、一足飛びにできるわけではありませんが、個別最適な学びと協働的な学びをうまく取り入れていくことで起こる化学反応は面白く、互いに高め合う時間を授業では作っていきたいですね」(大口教諭)。

個別学習で問題に取り組む時間

この個別学習の時間には、『item(アイテム)算数』の問題集が活用されています。品川学園では第1学年から第6学年で算数の副教材として導入されており、基礎学力の定着だけでなく、探究などの難易度の高い問題まで網羅されていることが子供同士の学び合いにつながるといいます。大口教諭も「より高度な疑問を持つ子供たちの、考えるきっかけ作りに向いている教材」と話しており、個別学習や協働学習の質を高めています。

学び続ける力を育むために
~学校が「前に進むことを信じられる場所」であるために~

個別最適な学びや協働的な学びは、授業の中だけで実現できるものではありません。このような授業を実践するために、学校はどのような教育方針を掲げ、日々の授業改善に取り組んでいるのでしょうか。品川学園の荒川右文みぎふみ校長(以下、荒川校長)に話を伺いました。

品川区立品川学園 荒川右文みぎふみ校長

本校では「自己実現を図りながら活躍し、社会を変え、支える力」を育むことを教育目標に掲げています。今の時代は仕事が変わるのも当たり前で、新しいことが次々に起こるもの。予測できないことにぶつかった時は、「学び続ける力」が困難を乗り越える原動力になり、言い換えれば、「前に進もうとする力」だと考えています。その点、義務教育学校における9年間は「学び続ける力」を育むのに非常に良い環境だといえます。先の学年の様子が見えているため、子供たちは見通しが持ちやすく、安心して登るべき階段がわかるからです。こういう環境の中で、新しいことに挑戦する意欲が育まれていると感じますし、学校は子供にとって“前に進むことを信じられる場所”でありたいと考えています。

一方で、子供たちに「学び続ける力」が必要なら、教員にとっても同じことが必要と思っています。教員が先に進もうとしない限り、子供たちだって同じような気持ちにはなれませんよね。そのため本校では、トップダウンではなく、教員同士が互いに学び合えるよう、ミドルリーダーの育成を重視しています。先生方には、子供たちの実情に合わせて、自分がやってみたいと思える教育活動を提案してもらい、議論したうえで、実行するかどうかを判断してもらっています。目の前の子供たちが最新の教科書であり、どのような教育活動が必要なのか。学校の中に目標を置くのではなく、学校の外に目標を置きながら、教員も子供も同じ方向に進んでいけることをめざしています。

今までやってきたことが絶対ではない、変化を受け入れ教員も学び続ける

品川学園でミドルリーダーの立場である大口教諭に、今の教員に求められていることや、教員が学び続ける想いを伺いました。

品川区立品川学園 大口孝人教諭

本校では、“今までやってきたことが絶対ではない”という考えのもと、すべての教育活動において、今の子供たちにとって何が最適なのかを教員で議論するようにしています。このやり方は、確かに大変な部分もあるのですが、教員も学びながら取り組んでいくことが大切だと考えています。

私自身が特に課題を感じているのは、子供たちの創造力、新しいことを作り出す力をどのように伸ばしていけばいいのか、ということ。そのためにも、私自身の学びが大事だと思って研修会や勉強会に参加したり、多くの先生に授業を見てもらったり、違う視点や新しい観点を取り入れるように意識して行動しています。目の前の子供たちに負けないくらい勉強して、先を行く人でありたいと、そんな想いもあるんですね。

実際に、教員側の視野や引き出しが広がれば、子供たちとの関わり方も変わってきます。子供は認めてもらうことが一番嬉しいですし、自分の存在を認めてもらえる安心感があるからこそ、一つ上のことをやってみよう、挑戦してみようと意識が高くなります。そのためにも、まずは教員が子供たちの安心感を増やせる存在でありたいと思っています。また、学ぶことの楽しさを子供たちにもっと伝えていきたいですし、見通しを持ってつながりが見える授業を作っていけるよう探究していきたいと思います。

最初から上手くいったわけではない
~教員の変化が子供たちにもシンクロして今の姿に~

子供たちも、先生方も主体的に学び、充実した教育活動の実践に取り組んでいる品川学園ですが、荒川校長によると、最初から順調に進んだわけではなかったようです。

「何事も一足飛びにはいきません。本校の場合、小中一貫校発足時は、学校をひとつにまとめていくためにトップダウンが必要な時期も当然ありました。また、私が校長に着任したときは、先生方に意見を求めても、静まりかえってしまうこともありました。そこから、学校をひとつの方向に動かすために、学校内を活性化し、先生たちから意見が出るように投げかけていきました。そうした先生方の変化が、子供たちにもシンクロし、今の学校の姿があると思います」(荒川校長)

児童生徒や教員の学びたい意欲を伸ばし、自主性を尊重する教育が印象的な品川学園。9年間の一貫教育における良質な環境の中で、これからどのように個別最適な学びや協働的な学びが進化していくのか、また教育活動がどのように発展して、子供たちの成長に寄与するのか、今後が楽しみです。

先生教えて!Q&Aコーナー

このようにミドルリーダーを中心として教育活動に取り組んでいる品川学園ですが、一方で、他校が抱えるような課題もあるといいます。ここでは、そんな先生あるあるのお悩みに対して、品川学園がどのように取り組んできたのか、大口教諭から聞いた話を紹介します。


Q.教育活動を充実させたいけど、教員同士が話し合う時間が足りない

品川学園は、子供たちのために必要か、必要でないのか、優先順位を考えて不要な作業は見直しました。教員の働き方改革はどの学校でも課題ですが、目の前の作業に追われるのではなく、何に時間を使いたいのか教員が考えることが大事です。もちろん、仕事が重なって大変な時もありますが、見通しを持って行動することを意識的に行い、業務を減らしていくようにしました。


Q.今まで自分が経験していない授業を進めなくてはいけなくて困っています…

授業における教員の役割は、ティーチングからファシリテーターの役に変わっています。ファシリテーターは、子供たちの目標に向かって道順を作るのが仕事ですが、その手法を習得するためにも、若い先生は自分の授業を他の先生に見てもらい、客観的な視点を取りいれてほしいと思います。一方で、自分自身が何をすれば楽しく考えられるのか、そんな視点で新しい教育と向き合ってほしいですね。教員自身が学びを楽しめることも大切ですよ。


Q.現場を良くするために意識していることはありますか?

他の先生を信じる!日頃のコミュニケーションを大事にする!
どの学校現場にも多くの課題が山積していて、教員ひとりの力でできることは限られています。私自身も多くの仕事を抱えていますが、学年で役割分担をしたら、その先生に任せて、あとは信じる、ようにしています。もちろん、問題が生じたら解決策をみんなで考えるようにしていますが、普段から若い教員が課題を抱え込んだり、孤立したりしないよう、辛いからこそ助け合う、理解し合うコミュニケーションを意識しています。

今回ご紹介した品川区立品川学園にてお使いいただいた『item(アイテム)算数』
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