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公開日:2024年01月24日  
更新日:2024年01月23日

最新時事から考えてみよう!北海道産ブリ激増 水揚げ量が急拡大

2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」により被災された皆様ならびにそのご家族、関係者の皆様に対してお見舞い申し上げます。
被災された皆様の安全と被災地域の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

これまで教育開発出版HPにて公開していた「月刊最新時事」をリニューアルし、まなびチップスにて連載を開始いたします。
これまでのバックナンバーはこちらをご確認ください。

今月は、北海道産ブリの漁獲量増加の時事解説を小学校高学年~中学生にわかりやすく説明します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。

北海道でブリ激増。漁獲量が急拡大!

食用魚としておなじみのブリ。
ブリは「出世魚」(大きさによって呼び名が変わる魚)であることから縁起のよい魚として、おせち料理などでも使われますが、産地を見たことはあるでしょうか。ブリには養殖物(稚魚を飼育したもの)と天然物があり、多くは養殖物ですが、天然物では北海道が産地のものが増えています。

最近、北海道ではブリの大漁が続いていますが、その背景には日本列島をとりまく海の環境変化があります。

30年前の約20倍、全国でもトップの漁獲量に

北海道のブリの漁獲量は2022年には約9600トンで、長崎県に次いで全国2位となっています。2020年、2021年には全国1位で、ここ最近はブリの漁獲量の上位を占めるようになっています。

しかし、北海道で以前からこれほどブリがたくさんとれていたわけではありません。今から30年前、1990年の北海道のブリの漁獲量は502トンで、その年のブリの漁獲量の上位3県は、長崎県(7761トン)、石川県(5122トン)、島根県(4550トン)でした。

年によって差はあるものの、北海道では2000年ごろから漁獲量が増えはじめ、ここ数年は1990年の実に20倍もとれるようになっています。たくさんとれるようになった北海道では、一定の重さや大きさを超えるブリをブランド化して売り出す動きもあります。

一方、長崎県など1990年の上位3県だった県でも、その当時と比べるとブリの漁獲量が増えていますが、北海道のように急激に増えているわけではありません。
また、ブリと言えば、富山湾の定置網でとられ氷見漁港で水揚げされた6㎏以上のブリが名乗ることを認められている「氷見の寒ブリ」が全国的にも有名です。しかし、2021年の漁獲量は10年前の約4分の1まで落ち込んでいます。近年では水揚げされる量は多いものの、ブランド魚にふさわしい品質のブリが少ない年が多くなっています。

原因は海の環境変化

では、なぜ北海道でブリが多くとれるようになっているのでしょうか。

その理由として考えられているのが海の環境変化です。ブリは、日本列島周辺では東シナ海から西日本の海域で冬から春にかけて産卵します。そして、海水温が10~25℃の海域を季節の変化によって回遊(移動)し、海水温が14~18℃程度の海域でよくとれるとされている魚です。

近年、北海道だけでなく全体的にブリのとれる量が増加傾向にありますが、それは海水温が高くなってきたことからブリが増えやすい環境になっているためだとされています。その中でも特に北海道でブリが増えているのは、北海道近海の海水温が高くなったことによって、日本海の中でも比較的北の方で冬をすごすブリが多くなり、えさを求めて本州から移動してきているからだと考えられています。

世界各地で増えている海洋熱波

ブリが増えやすい海水温になったと聞くとよいことのように感じられますが、海水温の上昇はさまざまな影響をもたらします。

近年、温暖化による海水温の上昇とともに問題になっているのが、数日から数年単位で海水温が過去数十年と比べて異常に高い状態が続く「海洋熱波」と呼ばれる現象です。海洋熱波は世界各地で起きており、2018年にカナダやオーストラリアなどの研究グループは1987年から2016年に世界の海で発生した海洋熱波の日数は、1925年から1954年に比べて54%も増えているという論文を発表しています。

海洋熱波の原因と起きる影響

海洋熱波の直接的な原因はさまざまで、大気の温度が高くなって海が温められていることや海流の変化などが考えられています。

海洋熱波が発生すると海の生態系は大きく変化します。たとえば2013年末から2016年に米国西海岸沖で発生した海洋熱波ではプランクトンやオキアミが激減し、それをえさとする魚、さらに魚をえさにするアシカや海鳥なども大量に死にました。また、有害な藻が大量に発生して漁業に深刻な影響を与えました。

また、海は地球に蓄積された熱の約90%を吸収し、さらに化石燃料などで排出された二酸化炭素の約25%を吸収することで温暖化をおさえる役割を果たしてきました。しかし、海水温が上昇すると二酸化炭素の吸収力が下がってしまうので、温暖化はますます進んでしまいます。さらに、海水温が高くなることで、蒸発して大気に含まれる水蒸気が多くなり、大雨が降るなど大規模な災害につながるおそれもあります。

北海道への影響

海洋研究開発機構と北海道大学の研究チームの調査によると、北海道・東北沖に広がる親潮域で2010年から2016年まで海洋熱波が毎年夏に発生しており、これがブリの漁獲量が急に増えたことに影響していました。この調査では黒潮からの暖水塊(周囲よりあたたかい海水の塊)が、親潮が沿岸で南下するのをさまたげたことを海洋熱波発生の原因としています。

ブリの漁獲量が増えた一方で、サンマなど冷たい海水を好む魚の漁獲量は激減しています。サンマは秋になると千島列島から日本列島の東岸にごく近い位置に移動してくる魚でしたが、海洋熱波などの影響で沿岸から遠くを移動するようになりました。その間に高い水温を好むマイワシやマサバが増えて、海洋熱波が終わっても居座ったことで、サンマとえさをうばいあう形になって、沿岸に来るサンマの量はもどらない状態が続いています。

海洋熱波によって、生態系が元通りになるまでに長い時間がかかったり、まったく生態系が変わってしまったりすることがあるのです。

ポイントを確認しよう

北海道のブリの増加は海水温の上昇によるもので、特に2010年以降の海洋熱波が関係していました。北海道の海洋熱波には温暖化による気温の上昇は直接関係していないとされていますが、温暖化によって日本周辺での海洋熱波が少なくとも2倍以上起きやすくなっていたという国立環境研究所の報告もあります。ブリの増加は今後も変わっていくと考えられる海の環境とその影響を考えるカギになるかもしれません。

執筆:NPO現代用語検定協会

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