まなびチップス | 塾・学校の先生へ”これから”をサポートする

まなびチップス | 塾・学校の先生へ”これから”をサポートする

トップページ教育小ネタ帳>最新時事から考えてみよう!アイガモロボを使ったスマート農業
公開日:2024年02月16日  
更新日:2024年02月15日

最新時事から考えてみよう!アイガモロボを使ったスマート農業

2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」により被災された皆様ならびにそのご家族、関係者の皆様に対してお見舞い申し上げます。被災された皆様の安全と被災地域の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

これまで教育開発出版HPにて公開していた「月刊最新時事」をリニューアルし、まなびチップスにて連載を開始いたします。
これまでのバックナンバーはこちらをご確認ください。

今月は、アイガモロボを使ったスマート農業の時事解説を小学校高学年~中学生にわかりやすく説明します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。

アイガモロボで農業の悩みを解決!?

日本の主食のコメ。春に植えられた稲が青々と生長していき、秋に黄色い稲穂をつける姿は日本全国で見られる光景です。田植えや稲刈りを体験したことがある人もいるのではないでしょうか。
全国で栽培され当たり前の光景だけに、稲はごく普通の農作物として栽培されていると思われがちですが、収穫までには多くの人手と労力がかかります。

日本では農業を担う人口が減少しているとともに高齢化が進んでいます。そうした中、農業でのさまざまな課題をロボットなど先端技術で解決していこうとする動きがあります。

水田の除草対策「アイガモロボ」

「アイガモ農法」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
アイガモのヒナを水田に放して、除草(草取り)や害虫の対策を行う農法です。アイガモは水田を泳ぎ回るときに、小さな雑草を脚で浮き上がらせたり食べたりして除草します。害虫のウンカなども食べてくれます。くちばしや脚で水田の泥水をかき回すことで、雑草を生えにくくしたり水田内に酸素を補給したり、稲の茎をくちばしでつついて育ちをよくしてくれたりする効果もあります。

稲の栽培で農家にとって大きな負担の一つとなるのが除草対策です。そこで、このアイガモ農法をヒントにロボットを作る研究が進められるようになりました。 2023年に販売が開始された「アイガモロボ」は、ロボットを活用して稲の有機栽培(化学的に合成された肥料や農薬を使用しない栽培)で除草にかかる労力を減らすことを目的に、大手自動車メーカーなどのエンジニアが起こしたベンチャー企業によって開発されました。アイガモロボは水田に浮かべるだけで、アイガモが水田の泥水をかき回すのと同じような働きをして、雑草の生長をおさえます。除草剤を使わないのに雑草が生えにくい環境をつくることで、除草にかかっていた労力を大幅に減らすことができます。全国34都府県に200台以上のアイガモロボを導入して実証実験が行われ、7割以上の農家が効果を実感したと答えています。

ロボットやAIなどを活用したスマート農業

アイガモロボ以外にも、ロボットやAI、IoTなど先端技術を活用する「スマート農業」への取り組みが広がっています。農業は作物を育てて出荷するまでの期間は毎日休みなしに手をかけなければならず、体力的にも負担が大きい仕事です。また、気候や天候にも大きく左右されます。そうした課題を先端技術で解決していこうというのです。

先端技術を利用することで、一つあたりの作業にかかる時間や人数を減らしたり、働く人の体にかかる負担を軽くしたり、これまでの方法では難しかったり危険だったりする作業が行えるようになったりします。また、作物の収穫量を増やしたり品質を向上したりすることにも大きな効果を発揮します。どのような場面でどのように導入するかは作物によって違いますが、さまざまな状況に対応したロボットや機械、システムの研究・開発が行われて、数々の製品やサービスが登場しています。

スマート農業への取り組みは国としても課題であり、先端技術を導入しての実証プロジェクトも進められています。

●主なスマート農業の製品・システムの例

ロボットトラクター 無人で農地の中を自動走行するトラクター。無人で耕したり整地したりできるので、それにかかる人手が減らせる。
高性能田植え機 ハンドルを自動制御して設定された経路を自動走行して田植えを行ってくれる。作業に慣れていない人でも同じ精度や速度で作業ができる。
高性能コンバイン 収穫と同時に収穫量や食味 (コメのタンパク値) ・水分量などを測定し、水田ごとのばらつきを把握。翌年の生産の肥料を与える分量などに役立てられる。
リモコン草刈り機 リモコンで遠隔操作する草刈り機。傾斜地や人が入りにくい場所など、危険な場所での除草作業も安全に行える。
アシストスーツ モーターや人工筋肉などの補助で、重さや負担を軽減するスーツ。重いものを持つ場合や長時間同じ姿勢で農作業をする場合に腰や腕などにかかる負荷を軽くする。
農業用ドローン・無人ヘリ ドローンで農薬や肥料を散布したり、カメラをのせて上空から作物の生育状況を確認したりする。作業時間が短縮され、傾斜地や人が入りにくい場所でも作業できる。
環境モニタリング 農地やビニールハウス内外の環境(温度、湿度、日射量、風速など)をセンサーで測定し、確認できるシステム。環境を最適に保つことで、収穫量や品質の安定・向上につながる。
水管理システム 水田の水位・水温などをセンサーで自動測定し、スマートフォンなどで確認できるシステム。見回り作業が軽減でき、水が少なくなった場合や適切な水温でない場合に対応できる。
経営・生産管理システム パソコンやスマートフォンなどで作業計画や実績などを記録・分析できるシステム。情報をもとに栽培計画を立てたり、栽培方法の改善や収穫量の予測に活用したりできる。
(農林水産省:「農業新技術 製品・サービス集」から作成)

日本の農業はどうなっているの?

日本の農業で一番の問題となっているのが担い手不足です。農業を行う人の数は年々減っており、高齢化も進んでいます。この先、農業の担い手はもっと減ることが予測されています。 また、お店に並んでいる野菜を見ると、同じ種類でも国産に比べて外国産のほうが、はるかに安いと感じたことはないでしょうか。近年、貿易の協定により低い関税や関税がない状態で輸入される農作物も増えています。そうした外国産との価格競争、最近の原油価格や飼料(えさ)・肥料価格の高騰など、農業をとりまく環境は厳しさを増しているのです。

50年前の4分の1以下まで減った農業の担い手

農業は負担が大きい仕事であることから、親が行っていてもその子どもが継がず、後継者がいないために農家をやめるケースも年々増えてきました。農林水産省の調査によると、2023年に基幹的農業従事者(農業を仕事の中心として行っている人)の数は116.4万人で、約10年前の7割弱にまで減っています。もっと以前にさかのぼってみると、1976年の基幹的農業従事者の数は503万人ですから、約50年で4分の1以下まで減ってしまったことになります。そして平均年齢は年々上がっており、2023年には68.7歳となりました。50歳より下の年齢の基幹的農業従事者の割合はわずか約11%です。

農業の担い手の減少にともなって、農作物の作付(栽培)面積も減少しています。その一方で、農業が行われなくなった畑や田が全国で増加。長年放棄されたことで土地が荒れてしまい、普通の農作業では農作物が栽培できなくなってしまった「荒廃農地」と呼ばれる農地もあります。荒廃農地の中には再生利用がむずかしいものもあり、その面積は2023年3月時点で、全国で16.3万ヘクタール(琵琶湖2つ分より広い面積)にのぼります。荒廃農地が増えることによって、単に農作物の生産が減少するだけなく、雑草が生えて病害虫や鳥・獣の被害が発生したり、ゴミの不法投棄場所になったり、火災が発生する原因になったりなど、他の問題も引き起こします。

農業で進む新たな取り組み

近年、担い手不足から低迷の方向に進んできた日本の農業。それは私たちの食料にかかわる問題です。国内で生産できずに足りない分を輸入にたよることを続けていると、輸入できなくなったときにどうすればよいのでしょうか。食料自給率の向上は長年の課題であり、2022年に新たに決定された「食料・農業・農村基本計画」では食料自給率(カロリーベース)を2030年度には45%とする目標を掲げています(2022年度は38%)。

そのために、農業を持続的に発展させていこうという取り組みが進められています。その一つが農地を集約して農業の規模を拡大させていく取り組みです。これまで狭い面積の農地に家族単位で農作業を行う小規模農家が多くを占めていましたが、後継者がいなくなったり使われなくなったりしている農地、荒廃農地の中でも再生できる農地を集約して整備して、農業の規模を拡大したい人に貸し出す取り組みがあります。大規模な農業を行うために個人ではなく法人(会社)にする農家や、これまで農業とは関係がなかった企業が農業に参入していくケースも増えています。こうした動きは、安定的な生産や人手を確保していくこと、農業全体の活性化につながっていきます。

大規模な農業を行うためには、前述したスマート農業を取り入れて、生産性の向上や効率化をはかることがますます重要になります。また、農作物をブランド化して輸出することや農業の担い手を育成する取り組みも進められています。

ポイントを確認しよう

アイガモロボのようなロボットやAI、IoTなど先進技術を取り入れていく動きは、農業だけでなく、他の第一次産業(漁業・林業)でも進められています。少子高齢の人口減少社会を迎え、人手不足は今後ますます深刻な問題となり、もっとも影響を受けると考えられるのが、労働がきついとされる第一次産業です。しかし、そうした産業が低迷していくことは、私たちの毎日の生活にかかわってくるのです。さまざまな課題を先進技術などで解決し、産業の発展につながっていくことが期待されています。

執筆:NPO現代用語検定協会

\ SNSでシェアしよう /