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公開日:2025年12月05日  
更新日:2025年11月10日

PBLとは? 基礎から授業への取り入れ方・実践のコツまで完全ガイド

子どもの「考える力」や「主体性」を育てる学習法として、注目されているのがPBL(課題解決型学習)です。
学校教育への導入が進んでいる一方で、「PBLって、具体的にはどんな学習方法なの?」「どのように授業に取り入れればいいのだろう?」と、悩む先生も多いのではないでしょうか。

そこで、この記事では、PBLの基礎知識から、授業への取り入れ方、実践の仕方や成功のコツまで、現場で役立つポイントをわかりやすく解説していきます。

PBLってどんな学び?

教育現場でよく耳にする「PBL」ですが、まずは、PBLがそもそもどのような学習法なのかを理解することが大切です。
ここでは、PBLの基本的な考え方や、他の学習法との違いについて、わかりやすく整理していきます。

PBLは問題を解決する力を育てる学習法

PBLは、文部科学省が推奨する「主体的・対話的で深い学び」の実現のために重視されている学習方法で、「Problem Based Learning」または「Project Based Learning」の略称です。日本語では問題解決型学習、課題解決型学習などと訳され、提示された問題や課題に対し、子どもが自らその解決策を考えるという学習法です。

たとえば、「学校生活をもっと快適にするには?」「地域の魅力を広く知ってもらうために、有効な発信をするには?」といった問題について、グループで話し合い、情報を集め、アイデアを形にしていくといった活動を行います。

PBLの大きな特徴は、正解のない課題にどう向き合い、解決のためにどうアプローチしていくか、という点です。子どもたちは、試行錯誤しながら自分たちなりの答えを見つけ出します。これは、教科書の内容を学ぶことが中心となるSBL(Subject-Based Learning)とは異なり、能動的な学びの過程そのものに重点を置く学習法です。

PBLはアクティブラーニングの1つ

子どもが自ら課題を見つけて学ぶPBLは、「アクティブラーニング」の1つとして位置付けられています。

アクティブラーニングとは、子どもたちが主体的・対話的に学ぶ授業スタイルの総称で、PBLのほかに、グループディスカッションやディベート、調べ学習なども含まれます。つまり、アクティブラーニングは多様な学習スタイルをまとめた大きな枠組みであり、PBLはその中の1つということです。

「PBL=アクティブラーニング」ではなく、「PBLは、アクティブラーニングのうちの一学習方法」とイメージすれば、違いがつかみやすくなるでしょう。

PBLの2種類の学習の進め方

PBLの学習には、大きく分けて「チュートリアル型」と「実践体験型」という2つの学習スタイルがあります。どちらの学習スタイルで取り組むかは、PBLを取り入れる授業の目的や、子どもたちの実態に応じて選びましょう。

チュートリアル型

チュートリアル型は、教室内で小グループに分かれて話し合いながら、課題の解決策を考えていく学習スタイルです。子どもたちは互いの意見を聞き、意見交換を通して理解を深めていきます。

たとえば、

  • 国語の授業で、小説や詩のテーマや作者の意図をグループで話し合い、作品への理解を深める
  • 社会科や総合的な学習の時間で、地球温暖化などの社会問題についてグループで解決策を考え、ポスターやプレゼン資料などにまとめる

といった活動が挙げられます。

話し合いを通じて多角的に考える力を育てられ、日常の教科授業や学級活動にも取り入れやすい方法です。

実践体験型

実践体験型は、実際の社会とつながりをもちながら課題に取り組む学習スタイルです。企業や地域の人などと連携しながら現実の問題に向き合うことで、より深い学びや実践的な力を身につけることができます。

たとえば、

  • 地域のお祭りや交流会などのイベントを、子どもたちが地元の人たちと協力して企画・運営する
  • 地元企業と協力して、商品やサービスの魅力を伝えるポスターやチラシを制作する

といった活動が挙げられます。

実際に人と関わり、社会の一員として活動する経験を通して、責任感や実行力、課題に向き合う能動的な力が自然と育っていきます。

主体的・対話的で、深い学びの実現に有効なPBLは、児童の実態や授業の目的に合った学習スタイルで取り入れましょう。

PBLを取り入れることで育つ力

PBLでは、子どもたち自身が課題解決に向けて、仲間と協力しながら試行錯誤をくり返していきます。こうした活動を通して育まれるのは、知識だけではなく、これからの時代に欠かせないさまざまな非認知能力です。

ここでは、PBLを通して育つ力について紹介します。

思考力・課題解決力

PBLの活動では、あらかじめ決められた「正解」が用意されているわけではありません。だからこそ、子どもたちは「どうすればうまくいくか」「他にもっと良い方法はないか」と、自分たちの頭でとことん考える経験を重ねていきます。

課題に対して仮説を立てる、必要な情報を調べる、調べた内容を比較・分析する、さらにまとめ直すという一連の活動のなかで、思考力や課題解決力が自然と育っていきます。

主体性・自律性

PBLの活動のなかで、「次は何をするか」「どう進めるか」を子ども自身が判断して動く経験を重ねていくと、「先生に言われたからやる」のではなく、「自分で考えて動く」姿勢が少しずつ育っていきます。そして、「自分で考え、判断して動く」という経験の積み重ねによって、主体性や自律性が育ちます。

コミュニケーション能力

グループでの話し合いや地域の方への取材など、他者と関わる機会が多くなるのもPBLの特徴です。他者との関わり合いのなかで、自分の考えを伝える、相手の話を聴く、といった経験を重ね、コミュニケーション能力が養われていきます。

協調性・チームワーク

PBLでは、さまざまな考えをもつ仲間と一緒に活動します。自分の意見を伝えながらも、相手の意見を尊重し、力を合わせて課題を解決していくことが必要です。こうした経験を通して、協調性や、チームワークを円滑に進めるためのスキルが育っていきます。

情報を活用する力

本やインターネット、取材などで集めた情報を整理・分析する活動を通して、必要な情報を見極める力が身につきます。多種多様な情報があふれる現代において欠かせない、情報活用能力の基盤となるでしょう。

活動を振り返り、次につなげる力

活動の終わりに「振り返りの時間」を設けることで、自分の成長や課題に気づくことができます。「どの点がうまくいったか」「次は、どんな工夫ができそうか」を考えることで、学びを次の活動に活かす力が育つのです。

PBLの導入のねらい、活動を通じて育める力をつねに意識していると、児童への適切な声かけやサポートをしやすくなります。

PBL型授業はどう進める? 基本の5ステップ

PBL型授業を実践するには、活動の進め方をあらかじめ整理しておくことが大切です。

ここでは、PBLを授業に取り入れる際の基本的な流れを、5つのステップに分けて説明します。

1.課題に対してどのようなアプローチをするか検討する

PBLでは、あらかじめ教師が設定した課題に対して、子どもたちが「どう解決に向けて取り組むか」を自分たちで考えるところからスタートします。ここで大切なのは、課題の意味や目的をグループで共有しながら、学習の方向性や進め方を話し合って決めることです。

たとえば、次のような視点から意見を出し合うと、見通しをもって取り組むことができます。

  • この課題は、誰の・どんな困りごとに関わるのか?
  • 解決するには、何を知る必要があるか?
  • グループ内でどんな役割分担をすれば、効率よく進められるか?

このように、子どもたち自身が「どう進めるか」を考えることで、活動への主体性が育ちます。先生は、必要に応じてヒントの提示や問いかけを行い、計画づくりを支えていきましょう。

2.情報を収集し、分析・整理する

課題に対するアプローチが決まったら、解決に向けて必要な情報を集めます。調べ方については、子どもたち自身で「どこで、どんな方法で調べるか」を考え出すように促しましょう。

本やインターネット、地域の人への取材など、情報源はさまざまです。情報収集だけでなく、集めた情報が「信頼できるか」「他の情報と比べてどうか」といった視点で整理・分析するための時間もつくりましょう。

3.解決策や成果をまとめる

必要な情報が集まったら、自分たちの考えた解決策をまとめていきます。このとき大切なのは、単に「答え」を出すことではなく、「なぜ、そう考えたのか」「どうして、その解決方法を選んだのか」といった、答えに至るまでの思考の過程を重視しながらまとめることです。

解決策や成果は、ポスターや新聞、プレゼン資料など、自分たちに合った方法で形にしていきましょう。

4.発表し、共有する

できあがった成果物を使って、ポスターセッションやプレゼンなど、自分たちに合った方法で発表し、クラス全体で内容を共有します。

発表を通して、自分たちの考えを他のグループに伝えるだけでなく、同じ課題に対する他の意見や違うアプローチに触れることで、新たな気づきが生まれます。「こういう考え方もあるんだ」「自分たちには無かった視点だな」といった学びが、次の活動や日常生活にもつながっていきます。

5.振り返りをする

活動の最後には、必ず振り返りの時間を設けましょう。「うまくいったこと」や「もっと工夫できたこと」などを言葉にすることで、学びの内容が整理され、次に活かせるようになります。

「どうして、今回この方法を最適と考えたのだろう」「他には、どんな解決方法があっただろうか」など、学習における自分の思考をたどる機会をつくることが、学びを次につなげるためには大切です。

PBL型授業の流れを押さえ、各ステップで育てたい力を念頭に置いて進行することが、子どもたちの可能性を引き出すことにつながります。

PBL型授業を成功させるための4つのコツ

PBL型授業は、実施における自由度が高いだけに、授業の設計や支援の仕方に戸惑うこともあるかもしれません。

ここでは、初めてでも無理なく取り組めるよう、実践のポイントを4つに絞ってご紹介します。

身近なテーマに取り組もう

最初から社会問題のような大きな課題に取り組むのではなく、まずは、子どもたちにとって身近で、日常に根ざしたテーマから始めるのが成功のカギです。

たとえば、

  • 「みんなが過ごしやすい、雰囲気の良いクラスにするには?」
  • 「忘れ物を減らすには?」

といった学校生活の中にある問題は、子ども自身が関心をもちやすく、自分のこととして考えやすい課題です。

また、地域の人や外部の団体と関わる活動を行う実践体験型は、学習の効果が大きい反面、事前の準備や日程調整が必要で、最初のハードルが高くなってしまうこともあります。

まずは、教室内で完結するプロジェクト型からスタートし、小さな成功体験を重ねることで、子どもたちも先生も、自信をもってPBLに取り組めるようになるでしょう。

進め方を、生徒に見える形で示そう

PBL型授業は実施内容の自由度が高いので、学習の途中で「次は何をすればいいの?」と、迷ってしまう子も少なくありません。そこで、「どんな順番で進めていくか」を、あらかじめ見える形で示しておくことが大切です。

たとえば、「課題に対するアプローチを決定 → 情報収集 → 比較・分析 → 解決策の検討 → 成果発表 → 振り返り」といった流れを、板書や掲示物、配付プリントなどで共有するとよいでしょう。

さらに、授業の始まりには「今日は、このステップですよ」と確認することで、子どもたちも安心して活動に取り組めるようになります。進め方が明確になると、学びの段階や内容が整理され、自主性や計画力の育成にもつながります。

先生は「教える人」ではなく「伴走者」になろう

PBL型授業では、先生は「教える人」ではなく、「子どもと一緒に学びを進める伴走者」としての役割が求められます。子どもが自ら考えることを大切にしつつ、必要に応じてヒントや視点を与えることで、学びを深めることができるのです。

たとえば、「どうして、そう思ったの?」「他に、どんな見方ができるかな?」などと問いかけたり、「このキーワードで調べてみると、いいかもしれないね」と調べ方のヒントを伝えたりすることは、PBLでの学びを後押しします。子どもたちの視野の広がりや視点の転換につながるようなサポートをしていきましょう。

大切なのは、子どもの考えを否定せず、気づきや発見を引き出す関わり方を意識することです。こうした関わりが、子どもの主体性と探究心を育てていきます。

振り返りの時間を必ず取ろう

基本の5ステップでも説明しましたが、PBL型授業では、活動の最後に「振り返りの時間」を設けることが、とても大切です。ただ調べて発表して終わりでは、子ども自身の学びが深まりにくく、せっかくの気づきが知識・能力として定着しにくくなってしまいます。

振り返りでは、「うまくいったこと」「もっと工夫できたこと」「次に、どう活かせるか」などを自分の言葉で書いて整理することで、自分自身の成長や課題に気づき深めることができます。

短時間でもいいので、必ず振り返りの時間を取ってください。そして、先生は子どもたちの記述を丁寧に読み、良かった点や次へのアドバイスをフィードバックしましょう。そうすることで、子どもたちは自身の学びに手応えを感じられるようになるのです。

自由度が高いPBL型授業だからこそ、子どもたちが見通しをもって学習を進めるために、先生による工夫とサポートが大切です。

PBLをうまく取り入れ、能動的な授業をつくろう

変化の激しいこれからの社会を生きていく子どもたちに求められるのは、基礎学力を土台として、自ら考え、学び、行動していくことのできる能動的な力です。

まずは、教科ごとの知識や技能をしっかり学び、基礎学力を身につけさせたうえで、子どもたちが主体的に取り組む学習法としてPBLを取り入れましょう。そうすることで、「主体的・対話的で深い学び」が進み、これからの時代に必要な「生きるための力」が育っていきます。

初めから授業の成功だけを目指すと、ハードルが高くなりがちです。まずは子どもたちにとって身近なテーマで、できることから始めてみてください。試行錯誤する子どもたちに寄り添い、一緒に学びつくっていく授業は、教師にとっても豊かな学びになるでしょう。

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