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「哲学対話」という言葉を聞いたことはあるけれど、「どんな活動なの?」「授業でどうやって進めればいいの?」と感じている先生も多いのではないでしょうか。
哲学対話は、正解のない問いについて、子ども同士がじっくり考え合う対話活動です。子どもたちの思考力や対話力を育むために、道徳や学級活動などで取り入れられています。
この記事では、哲学対話の基本や授業でのやり方、小中学生向けのテーマの例、授業に取り入れるための工夫を紹介しています。イメージをふくらませながら、読み進めてみてください。
哲学対話とは?
哲学対話とは、「正解のない問い」について、子どもたちがじっくりと考え合い、話し合っていく活動です。
「どうして?」「なぜ?」という素朴な疑問を出発点に、それぞれの考えを言葉にして伝え合い、相手の意見に耳を傾けながら、考えを深めていきます。知識の正しさを競い合うのではなく、「どう考えたか」「なぜそう思ったのか」という思考のプロセスを大切にするのが特徴です。
哲学対話を続けていくと、子どもたちにはこんな力が育っていきます。
- 自分の考えを整理し、言葉にする思考力・表現力
- 他の人の話を聴いて、理解しようとする傾聴力
- 違う考えを受けとめ、ともに考える対話力
- 多様な意見を認め合う協調性や寛容な姿勢
「他の人と違っていても大丈夫」「自分の思いを安心して話していい」という雰囲気がクラスに広がっていき、子どもたち一人ひとりの自己肯定感も育まれていくでしょう。
「友だちって、何人いればいいの?」「学校って、なんのためにあるの?」といった身近なテーマから始めることで、小学生でも無理なく取り組めます。
哲学対話のやり方|授業に取り入れるための5つのステップ
ここでは、授業の中で哲学対話を実践するときの基本的な流れを、5つのステップで紹介します。
Step1.「問い」を決める
哲学対話では、「テーマ」のことを「問い」と呼び、哲学対話を始めるために、まずはこの「問い」を決めます。たとえば、「規則って、なんのためにあるの?」「本当の友だちって、どういう存在?」など、子どもたちが抱く素朴な疑問を取り上げるとよいでしょう。
問いは、先生が事前に考えておくこともできますし、授業の中で子どもたちと一緒に話し合って決めるのもおすすめです。クラスの雰囲気や授業のねらいに合わせて、柔軟に考えてみましょう。
Step2.自分の考えを整理する時間をとる
問いを決めたら、いきなり対話を始めるのではなく、まずは、個々に「自分はどう思うか?」を整理する時間をとりましょう。メモをしたり、キーワードを書き出したりすることで、子どもたちは発言しやすくなります。
また、書くことで自分の考えを落ち着いてまとめることができ、話すことへの抵抗感や緊張が和らぎます。
Step3.一人ずつ「問い」についての考えを話す
考えがまとまったら、子どもたちで輪になって座り、順番に自分の考えを話していきます。ここでは、「他の人の話を否定しない」「最後まで聴く」といったルールを守るよう、事前に丁寧に伝えておくことが大切です。
話す人にぬいぐるみやマイクを持ってもらうなど、「今は誰の番か」が一目でわかる工夫を取り入れると、よりスムーズに進められます。
Step4.問い返しで対話を深める
話し手が一通り話し終えたら、話の内容をいったんそのまま受けとめたうえで、聞き手側が「〇〇と思ったのは、どうしてですか?」「じゃあ、もし〜だったら、どうなるかな?」などの質問を通して、対話を深めていきます。
なお、問い返しのタイミングには、以下の2パターンがあります。
- 全員が発言したあとに、まとめて問い返しを行う
- 話した人に対し、その都度、聞いていた子どもたちが問い返す
まだ哲学対話に慣れていないクラスや、小学生の場合、うまく問い返しができないこともあるでしょう。その場合は、先生がはじめに問い返しを行ってモデルになる、必要に応じて子どもと一緒に問い返しをするなど、クラスの実態に合わせて柔軟に進めていきましょう。
Step5.対話を通じて生まれた「気づき」を振り返る
対話の終わりには、「どんなことに気づいたか」「どんなことを感じたか」を振り返ります。
振り返りカードに書いたり、ペアで話し合ったりすることで、哲学対話を通じた学びが、より深く子どもたちの心に残っていくでしょう。
哲学対話には決まった方法はありません。基本の進め方をもとに、クラスに合った方法で柔軟に進めましょう。
哲学対話のルールとは? 安心できる場づくりのポイント
子どもたちが安心して考えを伝えるためには、「話しても大丈夫」と感じられる雰囲気づくりが欠かせません。そこで大切なのが、哲学対話を進めるうえでのルールです。
ルールは、先生があらかじめ提示するだけでなく、子どもたちと一緒に「どんなふうに話し合いたいか」を考えて決めるのもおすすめです。自分たちで決めたルールは、自然と守ろうという気持ちにつながっていきます。
ここでは、哲学対話を進める際に意識したい基本的なルールをいくつか紹介します。
他の人の意見を否定しない
「それは違う」など、相手の考えを否定する言葉は使わないようにします。どんな意見でも、まずは「そう考える人もいるんだ」と受けとめる姿勢を大切にしましょう。
話したくないときは、無理に話さなくていい
全員が必ず話さなければならない、というルールにしてしまうと、緊張や不安が大きくなってしまいます。「聴いていることも参加の一つだよ」と伝え、発言する・しないの自由があることを、最初に子どもたちに説明しましょう。
話すときは1人ずつ、相手の話を最後まで聴く
「他の子が話しているときは、途中でさえぎらない」「話している人の目を見て聴く」など、じっくりと話を聴き合う姿勢が、対話の質を高めてくれます。
考えが途中で変わってもいい
話しているうちに、「これは、やっぱり違うかも…」と思うこともあるはずです。考えが変わったら、それを伝えてもOKなのだと知らせましょう。考えを修正するのは恥ずかしいことではなく、柔軟に物事を考えられる力の表れです。
ルールがあることで、子どもたちは安心して発言できます。「違っていても大丈夫」「自分の思いを出してもいい」と感じられる場をつくることが、哲学対話の第一歩です。
哲学対話のテーマ一覧【小学生・中学生におすすめ】
哲学対話のテーマに決まりはありませんが、子どもたちにとって考えやすく、身近なテーマだと、取り組みやすいのでおすすめです。
ここでは、小学生と中学生、それぞれに適した具体的な問いの例を紹介します。道徳・学級活動・国語などの授業と関連させたテーマを挙げていきます。
小学生におすすめのテーマ例
小学生の場合は、「どうして?」という素朴な疑問を出発点にすることで、自然と話がしやすくなります。身近な出来事や日常生活と結びついた問いを見つけてみましょう。
- 友だちって、何人いればいいの?(学級活動)
→友だちづくりや人間関係を考えたいときに - どうして勉強しなくてはいけないの?(学級活動)
→学ぶことの意味をクラス全体で考えるときに - 学校って、なんのためにあるの?(学級活動)
→学期の始まりや終わりの振り返りの際に - ウソをついてもいいときってあるの?(道徳)
→正直さや思いやりを扱う教材とあわせて - 「正しいこと」って、みんなにとって同じかな?(道徳)
→多様な価値観を受けとめる授業に - 自分が主人公の立場だったら、どうするだろう?(国語)
→登場人物の気持ちに寄り添う読解活動に
中学生におすすめのテーマ例
中学生になると、より抽象的なテーマや、自分の価値観と向き合うような問いにも取り組めるようになります。思春期の内面とリンクする問いは、深い対話を引き出すきっかけになります。
- 社会正義とは?(道徳)
→公正・公平・平等について考える教材とあわせて - 誰にも言えない気持ちってあるよね?(道徳)
→思春期の生徒たちの心に寄り添いたい場面に - 本音と建前、どっちが本当の気持ち?(道徳)
→対人関係や「自分らしさ」を考える時間に - 「みんなと同じ」って必要なこと?(道徳)
→多様性や個性をテーマにした対話を深めたいときに - 大人になるって、どういうこと?(道徳)
→自立や進路に向き合う時期に - 夢や理想と現実、どちらが大切?(国語)
→小説・エッセイなどの教材や、作文など自己表現の学習とあわせて
問いの立て方や選び方に正解はありません。「子どもたちが今、考えたいと思っていることは何か?」を意識すると、授業の中でも問いは自然と生まれてきます。
哲学対話を授業で成功させるコツ
哲学対話は、いくつかのポイントをおさえておけば、特別な準備がなくても始められる活動です。
ここでは、授業で哲学対話を成功させるためのちょっとした工夫や、先生の関わり方のヒントをご紹介します。
教師の役割はファシリテーター
哲学対話では、教師は「教える人」ではなく、子どもたちの考えを引き出すファシリテーターとしての関わりが求められます。問いを出したら、あとは子どもたちの自主性を尊重し、支援や調整役に回ります。子ども自身が自分の考えを深めたり、他の意見に目を向けたりできるように、場を整えていくことが大切です。
たとえば、考えに行き詰まっている様子が見られたときには、
- 「どうして、そう思ったのかな?」
- 「じゃあ、反対の立場だったら、どう考えるだろう?」
と問うことで、新たな視点を促すことができます。
また、なかなかスムーズに進んでいないときでも、すべてをリードしようとせず、ときには意識的に発言を控えて見守ることも大切です。先生が少し距離をとることで、子どもたちの中に「自分たちで考えてみよう」という意識が育っていきます。
子どもの考えを引き出し、対話を後押しする存在として、あたたかく場を支えていくことが、先生の大切な役割といえるでしょう。
はじめてでも安心して取り組める工夫をする
哲学対話にまだ慣れていないクラスでは、いきなり全体での話し合いを行うよりも、少人数のグループから始めることをおすすめします。4〜6人ほどのグループであれば、一人ひとりが自然に発言しやすく、対話のルールも実感をもって身についていきます。
また、
- まずは、自分の考えを書いて整理する
- 次に、ペアで話してみる
- 最後に、グループで話す
というように、段階を踏んで進めていきましょう。いきなりクラス全員の前で話すのが不安な子でも、「書くこと」や「聴くこと」から参加できる環境があれば、安心して取り組むことができます。
慣れるまでは、ペアで話すときにも問い返しを取り入れるのがおすすめです。そうすることで、対話へのハードルが下がるでしょう。慣れてきたら、ペアでの活動は省き、自分の考えを整理した後にグループでの活動を行う、というように段階を踏んでいくと、子どもたちもスムーズに進めることができます。
対話の形に正解はありません。大切なのは、子どもたちが「自由に話してもいい」「無理に話さなくても大丈夫」「途中で考えが変わってもいい」と、安心して参加できる場をつくることです。
自分の考えを出してみようと思える雰囲気を育てながら、少しずつ対話の力を広げていきましょう。
哲学対話で、子どもたちの「考える力」を育てていこう
哲学対話は、正解のない問いを通して、子どもたちの思考力や共感力、自分と向き合う姿勢やコミュニケーション力を育てていく活動です。
「問い」が一つあれば、特別な教材や準備がなくてもすぐに始めることができます。子どもたちの何気ない一言や、授業中のちょっとしたやりとりの中にも、哲学対話の種はたくさん隠れています。
また、初めは慣れない授業スタイルに戸惑うことがあっても、「思った通りに話してもいいんだ」「他の人と違ってもいいんだ」と子どもたちが感じられる場ができてくると、少しずつ自分の言葉で考えを伝えられるようになっていきます。
問いをきっかけに広がる対話の時間は、子どもたち一人ひとりの学びを深めるだけでなく、クラス全体の信頼関係や雰囲気づくりにもつながっていくはずです。ぜひ、身近なテーマから、哲学対話を授業に取り入れてみてくださいね。
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