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「生徒をどう呼ぶべきか」という問いは、一見シンプルに見えて奥深いものです。相手の呼び方は、その人との関係性を形作る要因のひとつになり得るからですね。場合によっては、呼び方ひとつで教室の雰囲気まで変わる可能性もあります。
この記事では、そんな「生徒の呼び方問題」について考えてみましょう。記事後半には「生徒をどう呼ぶべきか」という問いに対する考え方を、2つ用意しています。生徒と信頼関係を築いて指導を円滑にしたい先生は、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
生徒の呼び方とその印象
生徒の呼び方は、ざっくりと以下の5パターンに分類できます。
- 全員「さん」付け
- 男女で分ける
- 呼び捨て
- あだ名
- 代名詞
厳密には「くん」「さん(ちゃん)」を付けたり、姓の呼び捨てか名の呼び捨てかなど、パターンは細かく分けられます。それぞれが与える印象など、生徒の呼び方について詳しく見ていきましょう。
全員「さん」付け
全生徒に対して「さん」付けをする呼び方は、ジェンダーニュートラル(性差に縛られない思考や行動、社会)の考えの浸透を目指す社会的背景が教育現場にも反映されたことで広まってきています。このジェンダーに関する問題意識は、日本では1980年代から徐々に広がって今に至りました。「さん」付けの呼び方は、生徒に次のような印象を与えます。
- どの生徒にも平等な印象
- ジェンダーニュートラルな印象
- 生徒を個として尊重し、敬意を払っている印象
「さん」付けで統一して呼ぶことですべての生徒に対しても平等になり、男女の性差をつけない姿勢を生徒たちに示せます。また呼び捨てよりも「さん」付けのほうが、生徒に敬意を示せるでしょう。
ただし全員「さん」付けの呼び方をすることに対して、心理的な距離を感じるなどの理由から否定的な意見を持つ人もいます。実践している現場でも、徹底度合いはまちまちで、デメリットを感じている先生も少なからずいるようです。
ちなみに「さん」付けに限らずですが、下の名前で呼ぶことには、相手により強い親近感を与える効果があります。ただし名前呼びを嬉しく思う生徒がいる一方で、距離感の近さに抵抗感を持つ生徒もいることも事実です。
「さん」付けで呼べば、授業中や会話でも自然と敬語が増えるでしょう。先生への親近感が薄れる可能性もありますが、線引きをしっかりすることで学習面ではプラスになることもあります。
男女で分ける
男子生徒には姓名に「くん」、女子生徒には「さん(ちゃん)」を付けて呼ぶ方法は自然に聞こえる一方で、ジェンダーニュートラルへの配慮が欠けているとの意見もあります。性差をつけず全員を「さん」付けで呼ぶ指導の広がりがあるように、多様性を尊重する流れが強くなっているからですね。
しかし現在でも、生物学的な性別で呼び方を変える方法は、教育現場でもよく見られます。たとえば「たなか さとし」という男子生徒がいれば、
- たなかくん
- さとしくん
と呼ぶような感じです。
また「たなか さとみ」という女子生徒がいれば、
- たなかさん
- さとみさん
と呼んだり、低学年の児童であれば「さとみちゃん」という風に、意識的に「さん」と区別して呼んだりするケースもあるでしょう。
さらに苗字に「くん・さん」を付けるより、下の名前に「くん・さん(ちゃん)」を付けるほうが親近感を与えます。しかし異性の下の名前に「ちゃん」を付けて呼ぶのは、距離感が近すぎて、不快に思わせるリスクも…。異性を下の名前で呼ぶのは、極力避けることをおすすめします。
ちなみに現在は日本の多くの新聞でも、小学生男子に「君」、女子に「さん」を付けています。この一般例も、ジェンダーニュートラルの広がりで変わるかもしれませんね。
呼び捨て
呼び捨ては「さん・くん・ちゃん」を付けるより、相手に親近感を与える効果があります。しかし関係性によっては、少し乱暴な感じに聞こえるので注意が必要です。
たとえば初対面で「たなか!」あるいは「さとし!」という感じで、いきなり自分の姓名が呼び捨てにされるのを想像してみてください。上から目線だと感じたりなれなれしい印象を受ける人は、一定数いることでしょう。
また男子生徒は呼び捨てで女子生徒は「さん」付けをすると、それは男女で差を付けていることになります。どのような呼び方であっても、全員統一するのが望ましいでしょう。
親子や師弟のような親近感を感じるか、なれなれしさや荒っぽさを感じるかは、生徒の受け取り方次第です。呼び捨てで呼ぶ際には、生徒との関係性が大切になりそうです。
あだ名
あだ名で呼ぶことは、姓名の呼び捨てよりも、さらにフレンドリーな印象を生徒に与えるでしょう。
ただし、いじめ防止の観点から生徒間ですらあだ名を付けることを禁止している学校もあります。自分に付けられたあだ名を、必ずしも全員が気に入るとは限りませんよね。そういう状況で、先生が生徒をあだ名で呼ぶことはあまりおすすめできません。
また特定の生徒だけをあだ名で呼ぶことは、その他の生徒から違和感を持たれるリスクがあります。よほどの信頼関係がない限り、生徒をあだ名で呼ぶのは避けた方がよいでしょう。
代名詞
生徒一人ひとりと心を通わせて話をするなら、「きみ」「あなた」といった代名詞ではなく生徒の名前を呼びましょう。その理由は、生徒を名前で呼ぶことで「ネームコーリング効果」が期待できるからです。
「ネームコーリング効果」とは、自らの名前が呼ばれた際に、名前を呼んだ相手への好感度や信頼感が増す心理現象のことです。生徒を呼ぶときには「きみ」や「あなた」と呼ぶより、きちんと生徒の名前で呼んであげるといいでしょう。
しかし実際には、生徒の名前を呼べないケースもあるでしょう。代名詞を使う可能性のあるシーンは、以下のとおりです。
- 慣れないクラスに入ったとき
- 生徒の名前を忘れたとき
上記以外では、複数の生徒に話しかけるときに、全員まとめて「きみたち」「あなたたち」と呼ぶケースも考えられます。生徒を呼ぶときに代名詞を用いることは、そもそも好ましくありませんが、使わざるを得ない状況もあるでしょう。
生徒の呼び方をどうするべきか?
ここまで述べてきた「生徒の呼び方とその印象」を踏まえると、前提として以下に示す方向性が正しいといえます。
- 状況によって変えるのはOK
- 生徒によって変えるのはNG
たとえば保護者の前で生徒の名前を呼ぶときに呼び方を変えたり、授業と部活の時間で呼び方を変えたりしたとしても、相手が大きな違和感を持つことは少ないでしょう。しかしある生徒は呼び捨てなのに、他の生徒全員に「さん」付けをするのは不平等ですよね。
先生は、どの生徒にも中立の立場でありたいですね。したがって、どの生徒も同じ呼び方に統一するのが最適解となるでしょう。しかし教育現場で働く先生の中には、実際に生徒をどう呼ぶべきか迷う方もいらっしゃいますよね。そんな方々のために、以下に2つの考え方をご提示します。
ひとまず組織内の文化に従う
新任の先生は、まず所属する団体の文化を参考にしましょう。
実は実際の学校や塾では、学年やクラスによって生徒の呼び方が違う場合があります。初めは違和感を感じるかもしれませんが、「郷に入れば郷に従え」という言葉があるように、先輩方のマネをすれば、生徒も強い違和感を覚えることはなく新任の先生に慣れてくれるでしょう。
自らの信念や理想を貫くことも大事ですが、新任の先生であればなおさら「生徒の呼び方」について深く考えたり議論したりする余裕はないのではないでしょうか。まずは授業やクラス運営など、核となる仕事に集中するべきだと思われますので、先輩や上司をマネるのも現実的な手法のひとつです。
全生徒に平等なら自分のルールで呼ぶ
働く現場に特に文化やルールがないのなら、自分の裁量で生徒の呼び方を決めるのもひとつの選択肢です。自分でルールを決めれば、どんなシーンでもブレることなく生徒を呼べますよね。
ただし記事中で取り上げたように、全生徒に対して平等であることは遵守しましょう。それさえクリアすれば、全員を「さん」付けで呼んだり呼び捨てしたり、一度決めたルールに従えばOKです。
生徒の呼び方は信頼関係を築く大事なツール
生徒との信頼関係は呼び方だけでは決まりませんが、信頼関係を築くうえでの大事な要素です。呼び方の違いが、生徒との距離感や教室の雰囲気に影響するからですね。現場のルールに従う場合も、そうでない場合も、次のことを念頭に置いて生徒の呼び方を決めましょう。
- どの生徒にも中立であるか
- 個々の生徒への配慮が足りているか
ここまで説明したジェンダーニュートラルを目指す動きやいじめ防止の対策など、数十年前までは問題視されていなかったことも、今は慎重に対応する必要があります。そういった時代の変遷を見逃さないこと、そして生徒一人ひとりに誠実に対応することが信頼関係を築くために大切なのではないでしょうか。
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