
この記事では、「高市内閣発足」の時事解説を小学校高学年~中学生にわかりやすく説明します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。
憲政史上初の女性総理大臣の誕生!
2025年10月21日、臨時国会で自由民主党の高市早苗総裁が第104代内閣総理大臣に選出されました。女性の総理大臣就任は日本の憲政史上初のことです。同日、閣外協力する日本維新の会と連立を組んで、第1次高市内閣が発足しました。初の女性総理大臣は国内外でどのように受け止められたのでしょうか。また、高市政権がどのように政策に取り組んでいこうとしているのでしょうか。
初の女性首相に国内外が注目
高市早苗氏は2025年10月4日に行われた自由民主党の総裁選挙で、自由民主党結党以来、初の女性の総裁に就任しました。その後、公明党の連立政権離脱、日本維新の会との連立政権の合意などを経て、10月21日に開かれた臨時国会で内閣総理大臣に選出されました。
イギリスのマーガレット・サッチャー元首相を目標とする政治家に挙げる高市総理大臣は、1993年に衆議院議員に初当選し、1996年に自由民主党に入党しました。衆議院議員として10回当選し、安倍内閣と岸田内閣の時に総務大臣、内閣府特命担当大臣、経済安全保障担当大臣など複数の閣僚を経験してきました。2021年と2024年に自由民主党の総裁選挙に出馬しており、総裁への挑戦は今回で3回目でした。
政治の世界や企業における指導者的立場にいる女性の割合が海外の国々と比べて低い日本において、高市早苗氏が総理大臣に就任したことはジェンダー平等の社会実現への一歩前進であると海外で受け止められ、「ガラスの天井を破った」などとも評価されました。また、国内でも大きな意義があり、社会全体に大きな影響を与えていくことになるといった、期待する声が上がっています。
一方で、保守的な主張を掲げる高市首相がどのような政策を掲げていくかということも注目されました。
🟢世界各国の女性の政治リーダー
| ヨーロッパ | ドイツ | メルケル首相(2005年11月~2021年12月):女性初 |
| イギリス | メイ首相(2016年7月~2019年7月) トラス首相(2022年9月~10月) |
|
| イタリア | メローニ首相(2022年10月~):女性初 | |
| フランス | ボルヌ首相(2022年5月~2024年1月) | |
| デンマーク | フレデリクセン首相(2019年6月~) | |
| EU | フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(2019年12月~):女性初 | |
| アジア | 韓国 | 朴槿恵大統領(2013年2月~2017年3月):女性初 |
| 台湾 | 蔡英文総統(2016年5月~2024年5月):女性初 | |
| インド | ムルム大統領(2022年7月~) | |
| ネパール | カルキ暫定首相(2025年9月~):女性初 | |
| 中南米 | ブラジル | ルセフ大統領(2011年1月~2016年8月):女性初 |
| メキシコ | シェインバウム大統領(2024年10月~):女性初 | |
| アフリカ | コンゴ | スミンワ首相(2024年6月~):女性初 |
| ナミビア | ナンディ=ンダイトワ大統領(2025年3月~):女性初 |
(外務省HPなどをもとに作成)
就任演説と外交デビュー
高市総理大臣は就任後、2025年10月24日の所信表明演説で「強い経済」を構築するために戦略的に財政出動を行うと表明しました。また、物価高対策に最優先で取り組むとし、ガソリン税の暫定税率の廃止法案を今国会で成立させるとしたほか、日本経済の力強い成長を目指すため、「日本成長戦略会議」を設置することなどを表明しました。そして、防衛力の抜本的強化として国家安全保障戦略に定める「対GDP比2%水準」の前倒しなどにも取り組む姿勢も示しました。
その後、高市総理大臣は首脳外交に出発しました。10月26日からマレーシアで東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議への出席し、28日には来日したトランプ大統領との日米首脳会談を行い、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席するために向かった韓国では、30日に李在明大統領と日韓首脳会談、31日に習近平国家出席と日中首脳会談を行いました。
日米首脳会談では、アメリカへの投資・融資の拡大や日本の防衛費増額などの姿勢を説明し、会談後には日米関税合意の履行とレアアースに関するもの、2つの合意文書に署名するなど、一定の成果が得られるものとなりました。
また、日韓首脳会談では今後も両国の首脳がお互いの国を行き来する「シャトル外交」を続けて意思疎通や緊密な連携を行っていくことで一致しました。日中首脳会談では両国共通の利益を目指す「戦略的互恵関係」を推進し、建設的で安定した関係の構築に努めていくことなどを確認したほか、第三国市場における協力、グリーン経済、医療・介護・ヘルスケアなどの分野で具体的な協力の進展を図っていくこと、グローバルな課題で協力していくことなどで一致しました。
一連の首脳外交の日程を終えて、高市総理大臣は、今後の首脳外交を進めていく基礎固めとなったと表明しました。
動き出す高市内閣
一連の首脳外交の終了後、高市政権が本格的に動き出し、総合経済対策の策定によって、物価高対策などへの本格的な取り組みが始まりました。その一方で、中国との外交関係では、高市首相の国会での発言がもとで新たな問題が持ち上がり、現在も影響が広がりつつあります。
経済再生と安全保障が柱に
高市政権が最優先で取り組むとした物価高対策のうち、ガソリン税の暫定税率については、2025年10月31日に行われた与野党6党の協議で12月末に廃止されることが決定し、廃止のための法案は11月28日に国会で成立しました。暫定税率廃止に先立って、急激なガソリン価格の変化による市場の混乱を抑えるため、11月13日から従来の1リットルあたり10円の補助金が段階的に増額され、12月11日には暫定税率による上乗せ分と同水準の25.1円となりました。また、2026年4月1日に廃止される方針の軽油の暫定税率についても同じく補助金が上乗せされており、11月27日に暫定税率による上乗せ分と同水準の17.1円となりました。
そして11月21日には減税効果などを含めて総額21.3兆円規模の総合経済対策が策定されました。同対策は①生活の安全保障・物価高への対応、②危機管理投資・成長投資による強い経済の実現、③防衛力と外交力の強化――を3つの柱としています。
1つ目の柱の「生活の安全保障・物価高への対応」には、生活者支援として電気・ガス料金の軽減支援や子育て応援手当などが盛り込まれているほか、治安対策等の推進の一つにクマ被害対策パッケージ、また外国人問題への対応の強化なども盛り込まれています。
🟢総合経済対策に盛り込まれている主な物価高対策
| 重点支援地方交付金(2兆円) | 家計支援枠(LPガス支援、水道料金減免など) 1世帯あたり1万円程度 |
| 食料品の特別枠(プレミアム商品券、電子クーポン、お米券など)1人あたり3000円程度 | |
| 電気・ガス料金負担軽減支援(0.5兆円) | 2026年1~3月の期間 1世帯あたり7000円程度 |
| 子育て応援手当(0.4兆円) | 子ども(0~18歳が対象)に1人あたり2万円 |
| ガソリン税暫定税率廃止(1兆円) | 2025年11月13日からの段階的引き下げ。 1世帯あたり1万2000円程度 |
| 所得税年収の壁見直し(1.2兆円) | 2025年12月の年末調整から160万円まで引き上げ。 納税者1人あたり2万~4万円程度 |
(「強い経済」を実現する総合経済対策より抜粋)
2つ目の柱の「危機管理・成長投資による強い経済の実現」では、経済や食料、エネルギー・資源の分野における安全保障の確立や強化のため、重要物資のサプライチェーンやサイバーセキュリティの強化、農林水産業の構造転換、新たなエネルギー開発などが盛り込まれます。また、災害への対応や新たな産業に対する投資のための取り組みが盛り込まれています。
3つ目の柱として掲げられた「防衛力と外交力の強化」では、国家安全保障戦略に定める「対GDP比2%水準」を補正予算と合わせて、2025年度中に前倒して措置することや、抑止力強化にむけて自衛隊の運用態勢を早期に確保、日米間の関税合意に基づく投資イニシアティブ(5500億ドル:約80兆円)の着実な履行などが盛り込まれています。
一方で、高市総理大臣が11月7日に国会で、「台湾有事」は武力の行使を伴うものであれば「存立危機事態」になり得ると発言したことが波紋を広げました。この発言に対して中国は「台湾海峡への武力介入の可能性を示唆している」と批判をしており、日本への渡航自粛の呼びかけや日本産の水産物の禁輸措置を取るなどの対抗手段に出ました。
現在は中国からの観光客のキャンセルや民間交流事業の延期など徐々に影響が広がっており、日中関係の先行きが不透明になっています。
信頼される政治を目指して
国内外のさまざまな課題を抱える中で、高市政権がもう一つ取り組まなければならないのが「政治と金の問題」です。2024年から2025年にかけて政治資金規正法で3つの法改正があり、寄附・支出や政治資金パーティーに関する規制、収支報告書等のインターネットでの公表などの制度が整備されました。しかし、現在もこの問題に対しては国民の不信が強くあります。
公明党が26年間続いた連立政権から離脱する理由の一つとして挙げたのも「政治と金の問題」への自由民主党の取り組む姿勢です。
2025年の総裁選挙後に自由民主党は、収益の一部に関して政治資金収支報告書への不記載があった議員が幹事長代行に起用されました。また、高市内閣では同じように不記載のあった議員7人が副大臣・政務官に起用されました。これらの議員について自由民主党は、不記載が判明した後に選挙で当選し、国会の政治倫理審査会でも弁明していて一定の説明責任を果たしたと判断したとされていますが、野党は国会で追及する姿勢を示しました。
自由民主党と連立を組む日本維新の会は、企業団体献金の完全廃止を主張しており、2025年11月13日には与党間で政党の資金調達のあり方について議論する協議体の初会合を開きました。一方の野党は11月19日に国民民主党と公明党が企業団体献金の規制を強化する政治資金規正法の改正案を衆議院に共同提出しました。
今後、法案をめぐり議論が活発化していくことが見込まれていますが、国民の信頼回復にはこの問題に丁寧に取り組んでいくことが求められています。
ポイントを確認しよう
日本の政治の一つの転換ともなる女性総理大臣の誕生。それは、これからを担う世代の目標となり得るかもしれません。一方で、リーダーが変化しても政治の世界では内外ともにさまざまな課題を抱えています。物価高、外交問題、災害対策、国民の安全。日本が抱える課題にどのように取り組み、どのようにこの国を導いていくのか、関心を払って見ていきましょう。
※執筆:NPO現代用語検定協会
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