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「子どもたちに、もっと学ぶことの楽しさを感じてほしい」
このような思いから、「学習体験」に注目している先生も多いのではないでしょうか。
「学習体験」とは、子どもたちの諸活動の中で得られる気づきや、考え方の変化、感情の動きを伴う学びのことです。校外学習や職場体験などの特別な行事に限らず、授業中の活動や学校生活のさまざまな場面・経験の中で積み重なっていく、学び全般を指します。
しかし、実際に教師の立場で出来ることを考えると、「先生は具体的に何をすればよいのか」「普通の授業の中に、そういった学びの機会をどう組み込んだらよいのか」と、戸惑いも生じることでしょう。
そこで、この記事では「学習体験とは何か」という基本的な考え方から、日々の授業や学校生活の中で子どもたちの記憶に残る学びを生み出すヒントまで、具体例を交えてご紹介します。
子どもたちの感情に訴えかける、心動かす授業づくりの第一歩として、ぜひ参考にしてみてください。
「学習体験」とは?
学習体験とは、知識や技能の習得だけでなく、活動の中で生まれる気づきや考え方の変化、喜び・驚きといった感情の動きを伴う学びの体験を指しています。
体験学習(校外学習や職場体験などの活動)や特別な行事に限られるものではありません。授業中の活動や、委員会・部活動、友人とのやり取りなど、学校生活のさまざまな場面・経験の中で積み重なっていく学びです。
グローバル化やICT化の進展などにより、子どもたちは将来、予測できない課題に直面することが当たり前の時代を生きていくことになります。そのため、知識を学ぶことだけでなく、知識を活用する力を身につけることや、学びに向かう力や人間性を育むことが重要とされ、子ども自身が活動を通じて得る気づきや実感、学びにつながるプロセスそのものが大切になります。すでに在る答えを知ること以上に、「自分はどのように課題や対象に向き合い、経験の中で何を感じて、どう成長していくか」という、学びを得る体験そのものが重視されているのです。
社会が急速に変化し続けている近年、このような学習体験は、ビジネスの分野だけでなく、学校教育でも重視されています。
社会の変化に応じて、子どもたちに必要な力も変化してきているため、今まで以上に「どのような活動をし」「何を感じてもらい」「どう成長してもらいたいか」を意識した学習活動が求められています。
学習体験が子どもにもたらす3つの効果
授業で「学習体験」を効果的に実現できると、子どもたちの学びに向き合う姿勢に、ポジティブな変化が現れます。
学習意欲が高まり、授業に集中しやすくなる
興味・関心に合った活動や、思わず試してみたくなるような体験の機会があると、子どもたちは授業に前向きに取り組むようになります。
たとえば、理科の授業で川原の石が丸くなるようすを伝える際に、結果としての事実を伝えるだけでなく、「水で石を削ることができると思う?」という質問から入ると、子どもたちの「え、どうだろう?」という疑問や興味を持たせることができます。そして、本当に水で石を削れるのかどうかを確認するために「実際に試してみたい」という、子どもたちのワクワクする気持ちを高め、授業中の集中力や学習意欲につながるのです。
実感を伴うことで、理解が深まる
授業で受身的に先生の話を聞いているだけでは、子どもたちの理解は深まりません。知識を「知っている」だけで終わらせないためには、学んだ内容を実際に使ってみたり確かめたりする「体験」が重要です。
たとえば、算数の授業で「三角形の内角の和は180度」と学んだあとに、紙を三角形に切って、3つの角を並べると、「本当に一直線=180度になる」と視覚的に確認できます。
社会の授業であれば、地域の産業について教科書で学んだあと、実際に工場や農場を見学する機会があると、理解の質が変わります。「教科書に書いてあったことは、こういうことか」と、実感を伴って理解できるのです。
学んだことが長く記憶に残る
ふり返りの時間に、自分が感じたことや気づきを言葉にして表すことで、知識が整理され、記憶に残りやすくなります。「楽しかった」「難しかった」「なるほどと思った」といった実際の感情が、学んだ内容と結びつくと、長く記憶に残るのです。
このような感情を伴う学びの記憶は、数か月後や数年後でもはっきり思い出すことができ、長期的な定着につながります。
GIGAスクール構想で整備された1人1台端末を、ぜひ学習体験に活用しましょう。たとえば、教室にいながら映像で工場見学を体験でき、オンラインで工場の方と直接お話しすることも可能です。
学習体験を授業に活かすための「学習体験デザイン」
子どもたちにとって効果的な学習体験を生み出すためは、偶然に任せるのではなく、あらかじめ意図的に体験の機会を設計することが大切です。そのときに役立つのが「学習体験デザイン」という考え方です。
学習体験デザインとは
学習体験デザインとは、「どんな体験を通して、どんな学びを届けたいか」を計画的に組み立てる考え方です。もともとは、ビジネス研修や人材育成の分野で発展してきた取り組みですが、学校教育でも授業づくりに応用できます。
たとえば、理科の実験や社会科見学といった学習活動も、準備をせずに行うと「やって終わり」になってしまうことがあります。
そこで、活動・経験を通して、より効果的に有意義な学習体験が得られるような設定・手法を考えるのが、学習体験デザインです。授業の流れ全体を意識し、どの場面で子どもたちの感情を動かし、どの場面で理解を深め、最後にどのように振り返らせるかを、あらかじめ考えます。
このように学びの機会・過程を設計することで、子どもたちにとって授業が意味のある学習体験となり、知識の定着や主体性の育成など、より充実した成果につながります。
授業づくりに活かす4つのステップ
学習体験デザインの考え方を授業に取り入れるためには、授業の流れを意識的に考えることが大切です。次の4つのステップを押さえることで、日常の授業にも自然に学習体験を組み込むことができます。
1️⃣ 子どもに「どんなことを実感させたいか」を意識して目標を設定する
授業の目標を立てるときには、知識や技能だけでなく「子どもたちにどんな実感を持たせたいか」まで意識してみましょう。達成感や驚き、嬉しさといった感情を意識した学習設計をすることで、子どもたちの主体的な学びにつながりやすくなります。
たとえば、理科で「種子の発芽」を学ぶときには、単に発芽条件(知識)を覚えるだけでなく、実際に芽が出たときに子どもたちが感じる驚きや喜び(実感)も授業の目標に盛り込む、という形です。
2️⃣ 子どもたちの特徴や興味・関心を把握し、感情が動く場面を想定する
学級全体の雰囲気や、子どもたち一人ひとりの得意・苦手分野、興味・関心の方向性などを把握しておくことも、学習体験を設計するうえで欠かせません。子どもたちが「面白そう」「やってみたい」と思える活動を授業に組み込むことで、自然と感情が動き、主体性や学びの質が高まります。
ビジネス分野では、マーケティングを行う際などに、サービスの利用者像について具体的にイメージすることで、施策がぶれずに効果を高めることができるとされています。授業づくりでも、対象となる子ども像を具体的にイメージすることが大切です。
たとえば、自然や生き物に興味を持つ子が多い学級であれば、理科の授業で観察用の植物を育てたり、校庭の落ち葉や虫を教材に取り入れたりすることで、子どもたちの関心を引き出せます。
3️⃣ 学習の目標と子どもたちの実態に合った活動を決める
学習体験デザインは、目標と子どもたちの実態の両方に合った活動を選ぶことで効果が高まります。学習の目標に合った活動を授業に取り入れても、実際に子どもたちが関心を持てなければ、学びは深まりにくいでしょう。逆に、子どもの興味重視で活動を選んでも、目標達成につながらなければ体験の意味が薄れてしまいます。
体験の形には、実物を手に取る、クラスメイトと協力する、ICTを使って調べるなど、さまざまな方法があります。その中から、子どもたちの興味を引きやすく、感情の動きが期待できる方法を意識的に選ぶことで、学習体験はより意義のあるものになります。
4️⃣「感情→理解→記憶」の流れをデザインする
最後に、授業全体の流れを設計するうえで、必ず意識したいポイントについてです。効果的な学習体験デザインのポイントは、「どこで感情を動かし、どこで理解を深め、どこで記憶につなげるか」を見通しておくことです。
- つかむ(興味を引く)
写真・動画・問いかけなどで「やってみたい」「知りたい」という気持ちを引き出す。 - やってみる(活動)
実物に触れる、実験する、実際に話を聞くなど、五感をリアルに使う活動を取り入れる。これが、もっとも感情が動くポイント。 - 考える(整理する)
体験を通して得た学びを図・表・文章などに整理して、理解を深める。 - ふり返る(言葉にする)
感じたことや学んだことを言葉にすることで、記憶に残りやすくなり、次の学習への意欲につながる。
この流れを意識して授業を設計することで、子どもたちにとって「体験が知識として残る授業」を実現できます。
学習体験は、普通の授業の中でも意識的にデザインできるものです。流れを工夫し、効果的な活動を取り入れた授業を設計することで、子どもたちの驚きや嬉しさといった感情と知識が結びつき、記憶に残るリアルな学びとなります。
学習体験を活かして、子どもたちが主体的に取り組む授業をつくろう
「学習体験」とは、知識の習得だけでなく、活動を通して得られる感情や気づきまでも含めた学びの体験を指しています。このような学びは、子どもたちの主体性や学習意欲を育て、深い理解や記憶の定着にもつながります。
充実した学習体験は設計(デザイン)することができ、授業内で効果をあげるためには、
- 学習の目標を明確にする
- 子どもたち一人ひとりの特徴や興味を把握する
- 学習の目標と実態に合った活動を決める
- 学習の流れを組み立てる
という4つのステップを意識することがポイントです。
そして、活動のどこで感情を動かし、どこで深い理解に結びつけるかなどを意識して、授業の流れを組み立てていきましょう。
日々の授業の中で、感情を動かす経験を積み重ねていくと、学んだ内容が子どもたちの記憶に残りやすく、「学ぶことは面白い」という向学心を育むことができます。「もっと広く、深く知りたい」「自分で考えて答えを見つけたい」といった子どもたちの前向きな気持ちを、学習体験を通して育てていきましょう。
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