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公開日:2025年06月06日  
更新日:2025年05月26日

アントレプレナーシップ教育とは? 導入のポイントと実践例をご紹介

「アントレプレナーシップ教育って、具体的に何をすればいいの?」
「取り入れると、子どもたちにどんな力が育つの?」
「アントレプレナーシップ教育導入の際には、どんなことに注意すべき?」

最近耳にすることも増えた「アントレプレナーシップ教育」ですが、上記のようにお悩みの先生方も多いのではないでしょうか。

アントレプレナーシップ教育とは、起業家精神(アントレプレナーシップ)を身につけ、起業家(アントレプレナー)として必要な資質・能力を育てるための教育です。起業に関する知識を学ぶ「ビジネス教育」とは異なります。

目まぐるしく変化していく現代社会において、アントレプレナーシップは、立場を問わず重要性が高まっているスキルです。文部科学省は「起業家的資質・能力」を「これからの時代を生きていくために誰もが必要な力」と位置づけました。2022年に策定された「スタートアップ育成5か年計画」には、小中学生を対象とした起業家教育の支援強化が盛り込まれています。

この記事では、アントレプレナーシップ教育で育成できる能力や、導入のポイント、よくある課題と解決策まで詳しく解説します。目標となるスキルを意識しながら、子どもたちが自然に取り組める授業を考えてみましょう!

アントレプレナーシップ教育の基礎知識

アントレプレナーシップ教育は、思考力や判断力、チャレンジ精神など「起業家に求められる精神、資質や能力」の育成を目的としています。小中学校の場合、体験学習を通じて自己肯定感や主体性を身につけるアプローチが一般的です。

ここではアントレプレナーシップ教育の概要や具体例、目標となる能力について解説します。アントレプレナーシップ教育の目的を理解して、効果的な授業計画を立ててみましょう。

アントレプレナーシップ教育とは?

アントレプレナーシップ教育とは、社会課題を主体的に発見し、その解決に向けて行動を起こせる人材を育成する教育です。単なるビジネススキルの習得や、起業家の育成を目的としたものでもなく、これからの時代、変化する社会の中で生き抜くために必要な、普遍的な知識・能力・態度の育成を目指します。文科省では、小中高校生から大学院生まで幅広い層を対象とし、「自ら社会課題を見つけ、課題解決に向かってチャレンジしたり、他者との協働により解決策を探求したりすることができる知識・能力・態度を身に付ける教育」と位置づけています。

▼アントレプレナーシップ教育の目的

  • 自ら社会課題を見つける能力の習得
  • 課題解決に向けたチャレンジ精神の育成
  • 他者との協働で解決策を探求する知識・能力・態度の習得

小中学校を対象としたアントレプレナーシップ教育の実施例には「起業体験推進事業」があります。起業体験推進事業の目的は、起業家精神の礎となるチャレンジ精神と自己肯定感を育てることです。学校によっては起業のシミュレーションを扱う場合もありますが、ビジネスに関わる題材が必須というわけではありません。たとえば、地元のイベントや商店街をPRする目標を掲げたケースもあります。

▼仙台市立荒巻小学校「荒巻元気アップ作戦」

6年:地域活性化イベント「あらまつり」
「荒巻地域を元気にしたい。地域の良さを広めたい」という思いから、昨年度の地域活性化イベント「ARAMAKI FES~笑顔の輪~」を引き継ぎ、名称を改め「あらまつり」を開催しました。

出典:「01起業体験報告書(仙台市立荒巻小学校)」(文部科学省)
(https://www.mext.go.jp/content/20240529-mxt_jidou01-000036259_01.pdf)

重要なのは、同級生や学外の大人たちと協力しながら、一つのプロジェクトを最後までやり遂げる体験です。社会に参加した実感を得ることで、実際に子どもたちのチャレンジ精神や自己肯定感も高まります。

育成される具体的な能力

アントレプレナーシップ教育では体験学習を通して、新しいことに挑戦するスキルを伸ばしていきます。具体的には、社会的な課題を見つけて解決する人間力と、それを下支えする精神性です。

▼アントレプレナーシップ教育が育成する能力

  • 社会の課題を見つけ、解決する力
  • 夢中になれることを仕事にする力

変化の激しい現代社会では、現状に適応するだけでなく、失敗を恐れずに新しい道を開拓することも重要になります。アントレプレナーシップ教育を通じて得られる能力は、子どもたちに未来を生き抜く勇気と力を与えてくれるでしょう。

早い段階から社会参加の経験をすることが、子どもたちの自信につながります!

アントレプレナーシップ教育導入のポイント

アントレプレナーシップ教育では、学校外の企業・団体と連携した体験学習が重要です。地域の企業や団体と連携することで、子どもたちは、社会をより身近に感じられるようになるでしょう。

ここからは、アントレプレナーシップ教育を実践する際に確認したいポイントを解説します。スムーズに導入するためのヒントも紹介するので、参考にしてみてください。

準備段階でのチェックポイント

アントレプレナーシップ教育の導入を検討する際は、次のポイントを明確にしておきましょう。

▼準備段階で確認したいポイント

  • 育成したい資質・能力の明確化
  • 年間指導計画への位置づけ
  • 評価規準の設定
  • 外部連携先の確保

アントレプレナーシップ教育では、学校外と密に連携を取りながらプロジェクトを進めることが重要です。そのため、外部の連携先は早期に確保し、準備段階から深く関わってもらえるようにしましょう。家族や先生ではない、外部の社会人と協力してプロジェクトを進める経験が、子どもたちの視野を広げ、自信につながります。

また、アントレプレナーシップとして定義される能力は多岐にわたります。そのため、具体的に内容の詳細を決める前に、プロジェクトごとに目標とする能力を絞り込むことが重要です。

効果的な導入のためのヒント

アントレプレナーシップ教育の導入を成功させるために、押さえておきたいヒントを紹介します。

スモールスタートで始める

導入の開始当初は、実施に無理のない小規模な内容から始めるのがおすすめです。まずは、学級活動や単一教科の中での課題として実施してみましょう。

小中学校のアントレプレナーシップ教育では、子どもたちの自己肯定感を育てることが重要です。いきなり実践が困難な大きな課題に取り組ませるのではなく、小さな課題を確実にこなすことで、子どもたちの成功体験を積み重ねていくことを主眼に置いてください。

小さな課題から段階的に規模を上げることにより、挑戦することに抵抗がある子にとっても、課題に対する心理的ハードルが下がりやすくなるでしょう。

地域資源を活用する

体験学習を計画する際には、学校の周囲にある地域資源を有効活用しましょう。たとえば、地域の企業や団体、商店街などと連携すると良いでしょう。

地域で働く大人たちと接点をもつことで、子どもたちが社会を身近に感じるきっかけになります。

失敗を許容する環境づくり

アントレプレナーシップ教育以外の場において、重視したいポイントは「失敗が許容される環境をつくる」ことです。子どもたちが失敗に対して「怒られる」「恥をかく」などのネガティブな印象をもたないような雰囲気づくりをしましょう。

アントレプレナーシップ教育導入の目的を、外部連携先と共有しておくことも重要です。

よくある課題と解決策

アントレプレナーシップ教育の小中学校への導入は過渡期であり、現状では、まだ課題も残っています。たとえば、学習時間の確保や評価基準、教員の精神的負担などが課題として挙げられています。しかし、アントレプレナーシップ教育の目的を理解して教職員内で協力することで、解決できる部分もあるでしょう。

ここでは、導入の際に起こりやすい問題と、その解決策を紹介します。

時間の確保

アントレプレナーシップ教育は、外部の連携先と協力して体験学習を行うのが一般的とされています。しかし、そのために十分な時間を初めから確保するのは、難しい場合も多いでしょう。

この問題の解決策としても、前述の通り、小規模な内容から始めることをおすすめします。たとえば「給食の配膳をスムーズにするには、どうしたらいい?」「相手の失敗を責めない雰囲気をつくるには?」といった内容をクラスで話し合い、自分たちで具体的な方法を見出すのも、実践の導入としては効果的です。

評価の難しさ

アントレプレナーシップ教育による子どもたちの個々の能力をどう評価するのかは難しく、それも導入に際しての課題のひとつです。この解決策としては、評価項目を定性的に扱う「ルーブリック評価」があります。

ルーブリック評価とは、縦軸の「観点」における各「到達度」がどのような状態を指すのかを、評価基準表にまとめる方法です。この表を基準とすることで、数値化しにくいスキルも一貫性をもって評価できます。

▼ルーブリック評価のポイント

  • 縦軸は評価項目である「観点」
  • 横軸は到達度を表す「尺度」
  • 表の中に、各観点における到達度ごとの状態を表す「記述語」を入れる

この評価基準を用いる際には、結果よりも過程に焦点を当てるようにしましょう。期待通りの結果が得られなかった場合にも、そこに至る過程で発揮したチャレンジ精神や問題解決能力を過小評価しないことが大切です。

教員の指導力への不安

アントレプレナーシップ教育の実践には、指導者側に十分な前提となる知識が必要なのではないかと考え、尻込みする先生方も少なくないでしょう。しかし、ここまで述べてきたように、アントレプレナーシップ教育の目的は、これからの社会の変化にポジティブに対応できる人材に必要となるソフトスキルの獲得です。

基本的には、先生方がこれまでの教育活動で培ってきた「生徒の主体性を引き出す力」「クラスをまとめる力」を活かすことができます。たとえば、グループ活動でつまずいている生徒たちに対して『どんな課題に直面しているの?』『それを解決するためにはどんな方法があると思う?』といった問いかけを通じて、生徒自身が解決策を見出せるようサポートしていくことが効果的です。

とくに体験学習においては「正解を教える」というスタンスではなく、見守りながらサポートする姿勢が大切です。

教える側にとっても初の試みだけに難しく考えがちですが、段階的に無理のない範囲で取り入れていきましょう!

学校の実情に合わせてアントレプレナーシップ教育を取り入れてみよう

この記事では、アントレプレナーシップ教育が目指す本質的な価値と、教育現場における具体的な実践方法について紹介してきました。

以下の3つのポイントを意識することで、無理なく効果的に導入することができるでしょう。

  • すでに行っている教育活動との接続
    総合的な学習の時間や教科学習の中で、児童・生徒が主体的に考え、話し合い、実践する機会を見出すことができます。
  • 段階的なアプローチ
    身近な課題の解決から始めて、少しずつ視野を広げていくことで、子どもたちも教員も自然な形で取り組みに順応することができます。
  • 協働的な学び
    個々の考えを出し合い、対話を通じて解決策を練り上げていく過程そのものが、これからの時代に求められる学習経験になります。

重要なのは、この教育が目的とするのは、単なるビジネススキルの習得ではないということです。新しいことに挑戦するモチベーションやポジティブなマインド、柔軟な課題解決能力を身につけることが目的なのです。今回ご紹介した内容を参考に、無理のない範囲で少しずつ授業に取り入れていきましょう。

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