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今月は、「世界人口と世界の選挙」の時事解説を小学校高学年~中学生にわかりやすく説明します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。
世界人口の半数が投票する年!?
世界には80億人を超える人が住んでいますが、それぞれの地域でさまざまな問題に直面しています。2024年は世界各国での国内政治、そして世界情勢を左右することにつながる可能性のある選挙が行われ、実に世界の人口の半数が投票します。世界各地での紛争、地球環境を取り巻く問題、世界はこれからどう動いていくのでしょうか。
世界人口は80億人を超え、2023年にはインドが人口最多国に
国連人口基金(UNFPA)が発表している「世界人口白書2023」によると、2022年11月に世界人口は80億人に達しました。世界人口は2050年には97億人になると予測されています。また、2023年にはインドの人口が14億2860万人となり、中国を抜いて世界1位となりました。世界の国別人口は、インドと中国(14億2570万人)が突出して多く、次いでアメリカ(3億4000万人)、インドネシア(2億7750万人)となっています。
世界人口の増加には、病気の予防が進んだり、健康な生活が送れるようになったりしてきたことで死亡率が低下し、平均寿命が延びている背景があります。しかし、人口が増加している国は、実は世界の中でも一部であり、特に新興国や途上国に集中しています。
近年、インドをはじめ、ブラジル、南アフリカ、東南アジア諸国など、グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国の動向が注目されています。世界人口の3分の2を占めるようになるとされているグローバルサウスの国々は、経済的・政治的な存在感を増しています。
一方で、急激な人口増加で貧困や飢餓・栄養不良、保健・教育制度の不備といった問題を抱える国も多くなっています。新型コロナウイルスの感染拡大や気候変動問題、食料危機などで、事態はさらに深刻になっているとされています。世界人口の増加を考えるとき、そうした国々の抱えている問題にも目を向ける必要があります。
減少し続ける日本の人口
人口が増加する国がある一方で、世界人口の3分の2は、出生率が人口置換水準(人口が長期的に増減しない出生の水準)の2.1人を下回る地域で暮らしているとされています。特に先進諸国の少子化・人口減少は深刻で、その代表でもある日本では2008年以降、人口が減少しています。
2024年1月1日時点で1億2409万人である日本の人口は、2056年には1億人を下回り、2070年には約8700万人まで減少すると予測されています。出生数は2016年に100万人、2019年に90万人、2022年には80万人を割り込みました。合計特殊出生率(女性一人が一生の間に生む子どもの数)は2022年には過去最低の1.26となっています。
人口は減少していますが、高齢者の割合は増え続けています。2024年1月1日時点で65歳以上の割合は29.2%ですが、2070年には38.7%になると予測されています。人口が減少し、高齢化が進むとさまざまな問題が起きます。労働者が減ることでの生産性の低下(物が作れない、サービスが提供できない)と需要の低下(買う人が少なくなる)から経済成長がにぶくなること。医療・年金・介護など社会保障費が増加することや、それらを担う人が不足していくこと。過疎が進む地域では基本的な生活にも影響してくることなどが挙げられます。
人口減少と少子高齢化の課題に対応するために、政府は2023年に経済成長と少子化対策の両面に取り組む「こども未来戦略」を決定。若者世代が急速に減少する2030年代に入る前に少子化傾向を反転させるとして、対策に取り組んでいます。
さまざまな国で政治が動く2024年
2024年には世界各国で、その国のゆくえを決める選挙が行われます。台湾、ロシア、アメリカなどでの国・地域のリーダーを決める選挙のほか、グローバルサウスの代表であるインドの総選挙など議会選挙も複数の国で行われます。選挙の結果で国内政治が大きく変化した場合、世界にも影響を与え、近年深まっている対立・分断がさらに進むことにもつながる可能性も出てきます。
2024年に行われる主な選挙
2024年にすでに行われた選挙で世界の注目を集めたのが1月の台湾総統選です。台湾の元首で強い権限を持つ「総統」は、2016年から民進党の蔡英文氏が務めていましたが、その後任として同じく民進党の頼清徳氏が、最大野党・国民党の候補者らに勝利し選ばれました。
「一つの中国」を掲げ、台湾を自国の領土の一部と主張している中国は、台湾に対して近年特に圧力を強めています。蔡政権は中国に対して独立性を保つことを重視して、アメリカ寄りの姿勢をとってきました。一方で中国との交渉や経済関係を重視する傾向にあるのが国民党です。政権が交代すれば、台湾とアメリカ、中国の関係が変わってくることになりましたが、台湾の人々は現状の路線を維持していくことを選びました。
3月にはロシア大統領選が行われます。これまでプーチン大統領は首相職をはさんで4期20年以上にわたり大統領を務め、権力を握ってきました。5期目の当選も確実とされており、2020年に改正された憲法によって最長で2036年まで大統領を務めることができる状況です。2022年のウクライナ侵攻から2年がたちますが、圧勝した場合にはさらに強硬策がとられることも予測されています。
そのほかに、有権者約10億人で世界最大規模のインドの総選挙、EU加盟国から選出された議員でつくる欧州議会選挙なども結果によって世界情勢に影響を及ぼしてきます。また、韓国の総選挙は今後の日韓関係に影響してくる選挙でもあります。
世界情勢を左右するアメリカ大統領選
さらに11月にはアメリカ大統領選が行われ、2020年に共和党のトランプ前大統領を破って就任した民主党のバイデン大統領が2期目を目指します。
アメリカ大統領選は約1年がかりの選挙です。各州で行われる予備選挙や党員集会、その後の全国党大会で各党の候補が決まります。11月に行われる本選挙での有権者の投票で次の大統領が事実上決まりますが、このとき選ばれるのは、各州に割り当てられる大統領「選挙人」と呼ばれる各党の有権者の代表です。ほとんどの州で勝利した候補者がその州の選挙人を全部獲得し、その後行われる選挙人による投票で正式に大統領が決まります。
すでに1月から各党の候補者選びが始まっています。共和党の最初の党員集会で他の候補者に大差をつけて勝利したトランプ前大統領は、前回の大統領選後に連邦議会議事堂が占拠された事件に関係した罪など、複数の裁判を抱える異例の事態で選挙戦を進めながら支持を集めてきました。そして、各州の予備選挙・党員集会が集中する3月5日のスーパーチューズデーで圧勝したことで、共和党の候補者に選ばれることがほぼ確実になりました。
前回の在任中には「自国第一主義」を掲げて、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の脱退やパリ協定の離脱など、国際協定を破棄したり同盟関係を損なってきたりしたトランプ前大統領。再び共和党の候補者として大統領選に勝利するのか。その結果によって、世界情勢はさらに先が見通せない状況になるとも見られています。
ポイントを確認しよう
「世界人口白書2023」の発表に当たって国連人口基金(UNFPA)の事務局長は、「世界の人口が多いか少ないかは問題でなく、不平等こそが課題である」という内容の声明を出しました。「平等」という点から見たとき、選挙に投票する行為はその国の国民に与えられた一つの平等な権利であるはずのものです。一部の国ではそれが平等ではない場合もありますが、それぞれの国民がどう選択するか、その結果が世界にどう影響し、世界の平等につながっていくか。
世界の多くの国で選挙が行われる2024年、その選択の結果を他国のことだけとはとらえずに、注意深く見ていってはいかがでしょうか。
執筆:NPO現代用語検定協会
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