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公開日:2024年06月25日  
更新日:2024年06月26日

最新時事から考えてみよう!ライドシェア

この記事では、「ライドシェア」について小学校高学年~中学生にわかりやすく解説します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。

ライドシェアでタクシー不足を解決!?

交通手段の便利さには、地域によって大きな開きがあります。主要な都市部では、バスや鉄道の路線が張りめぐらされ、少し待てばすぐに乗れることも珍しくありません。一方、郊外や町村部では交通機関がタクシーしかない地域も多くあります。しかし、最近は都市部も含めてタクシーの不足が問題化してきました。2024年4月からタクシー不足を補う手段として、一部の地域で日本版ライドシェアが導入されました。担い手を広げることで交通手段を増やすこのサービスは、交通をめぐる課題の解決につながるでしょうか。

ライドシェアってどんなサービス?

ライドシェアとは「ライド(乗る)」の「シェア(共有)」、つまり「相乗り」を意味する言葉で、一般のドライバーが自家用車に有料で客を乗せるサービスを指します。海外では普及しており、国土交通省によると、調査した世界58カ国中28カ国でライドシェアのサービスが行われています。そのうち、普通運転免許があればサービスが可能な国は15カ国、普通運転免許とは異なるライセンス(資格)が必要な国は13カ国となっています。また、多くの国では運送責任(事故のときの賠償責任)をだれが負うかということや、だれがどのようにサービスを管理するのかを取り決めています。

海外のライドシェアサービスには大きくわけて、TNC(Transportation Network Company)サービス型とPHV(Private Hire Vehicle)サービス型の2種類あります。TNC型とは、配車プラットフォーマーと呼ばれる事業者が各ドライバーの管理や運行管理を行うもので、アメリカやカナダなどではこの方法です。一方、PHV型とは簡易な個人タクシーのようなもので、ドライバーに登録や車両の管理が義務づけられており、イギリスやフランスなどで採用されている方法です。

では、ライドシェアのサービスはどのように利用するのでしょうか。たとえば、アメリカの場合、利用したい人はスマホの配車アプリに情報を登録し、現在地や行先情報を送信すると、事業者に登録している一般の自家用車が迎えに来てくれます。料金はアプリに登録したクレジットカードなどで支払うので、ドライバーとのお金のやりとりはありません。日本ではフードデリバリーなどでおなじみのUber(ウーバー)が代表的な事業者です。

4地域で導入がスタートした日本版ライドシェア

ライドシェアは、利用者にとっては乗せてもらえる車を見つけやすくなり、ドライバーにとっては好きな時間に自分の持っている車を活用して副収入を得ることができるという魅力があり、アメリカなどでは主要な移動手段の一つとなっています。一方で、日本ではこれまで一部の特例を除き、有料で人を運べるのは、特別な運転免許(第二種免許)を持つドライバーが、緑色(事業者)のナンバーをつけたタクシー事業者の車で営業する場合に限定されており、「白タク」と呼ばれる白ナンバー車によるタクシー行為は道路運送法で禁じられてきました。

しかし、2023年12月のデジタル行財政改革会議で、政府は日本版ライドシェアの導入を決定。「タクシーが不足する地域、時期、時間帯に、不足分を補うために地域の自家用車・一般ドライバーを活用して有料で運送サービスを提供するもの」として、地域や時間を限定して許可されることになりました。2024年4月から東京、神奈川など4地域で導入され、5月からは札幌や大阪、福岡など8地域も追加されました。

日本での利用のしかたはアメリカと同じで、スマホの配車アプリを使います。料金はタクシー運賃と同程度で、原則としてクレジットカードなどキャッシュレスで支払います。

日本版ライドシェアの位置づけは「タクシー不足の解消」

日本版ライドシェアの導入で、交通手段の選択肢が広がりました。一方で、導入に反対する意見や課題もあるため、海外とは異なり日本版ライドシェアはあくまでも「タクシー不足の解消」という位置づけで始まりました。日本のライドシェアの将来はどうなっていくのでしょうか。

減少するタクシードライバーと地方の公共交通機関

国土交通省の資料によると、2021年3月末時点で全国のタクシードライバーは法人・個人を合わせて約25万人で、10年前と比べると約13万人減っています。新型コロナウイルスの影響で人の移動が激減したことからタクシー事業は厳しい環境に置かれ、運転手の高齢化も進んでいたことから離職が進み、ドライバーの数はさらに減少しました。しかし、日常の生活が戻って、外出する機会や外国人観光客(インバウンド)が急速に回復していることから、タクシーの需要が高まっています。一部の観光地では需要に供給が追いつかない状況がおきており、タクシーの運行台数を増やすことが大きな課題となっています。

また、特に地方では公共交通機関が減少しています。利用者の減少により、バスや鉄道が廃止されたり減便されたりしたうえ、運転免許がなかったり高齢になったりして運転できないため、タクシーを使う人が多くいます。しかし、タクシー事業者の配車数が少ないために利用したい時間にタクシーが来てくれない、もしくはタクシー事業者が廃業して交通機関の空白地帯になった地域も少なくありません。こうした「交通弱者」の問題もあります。

このような背景から、「タクシー事業者以外」の担い手を増やすための検討が進められ、日本版ライドシェアが導入されました。

ライドシェアの課題と今後の広がりは?

一方で、ライドシェアの導入には、反対意見や問題点の指摘もありました。導入検討にあたって、全国ハイヤー・タクシー連合会からは、運行管理や車両の整備、海外のライドシェアで起きている暴行事件など安全性に関する責任をだれが持つのか、ドライバーの労働時間の管理や社会保障はどうするのか、といった意見が出されています。タクシー事業者の経営圧迫によるタクシードライバーの待遇悪化を懸念する意見もあります。

これらをふまえ、日本では運行管理をタクシー事業者が行い、国土交通省が配車アプリのデータを分析して不足していると認めた地域と時間帯に限定して導入することになりました。ドライバーになるには2年間無事故で、運転免許の停止処分などを受けていないこと、登録した事業者による研修を受けることなどが条件とされています。また、海外ではライドシェアの料金は基本的にタクシー運賃より安く設定されていますが、日本版ライドシェアではタクシー運賃とほぼ同じになっています。

また、今回導入が始まった地域は、主に公共交通機関が充実している大都市圏ですが、公共交通機関が少ない地方では自治体を主体としたライドシェア導入の動きがあります。

これまでも、バスやタクシーが十分に提供されていない地域での移動手段確保のため、「自家用有償旅客運送」という制度がありました。これは、市町村やNPOなどが主体となって、自家用車でタクシー運賃の半分程度の金額を「対価」として運送を行う制度です。2023年12月、国土交通省では制度の改革として、バスやタクシーが運行していても時間帯によって不足する場合は「交通空白」が生じていると見なせるようにしました。また、対価をタクシー運賃の8割程度まで上げることも認められました。

こうした下地があったため自治体がライドシェアに取り組みやすくなり、有志の自治体による「自治体ライドシェア研究会」の最終報告では、2024年3月末時点で44自治体が導入の検討を進めています。タクシー事業者との共同運営で、自治体独自の配車アプリを使って、タクシーの配⾞が困難な地域・時間に配⾞⽀援を行うことが考えられており、すでに提供が始まっている自治体もあります。

ポイントを確認しよう

国土交通省によると、日本版ライドシェア導入から約1カ月経過した2024年5月5日時点で、のべ2283台が稼働し、運行回数は1万2628回となっています。国土交通省では活用状況を見ながら、タクシー事業者以外にも運営を広げられるかの検討も進めています。

アプリで配車してもらえ、会話が通じなくても目的地に連れて行ってもらえるというライドシェアの特性は、外国人観光客などには利便性が高いものです。また、自治体ライドシェアは地方の移動手段の確保には重要な役割を担っていくことでしょう。安全で利用しやすい形でライドシェアが普及して、課題の解決手段になっていくことが期待されています。

執筆:NPO現代用語検定協会

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