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この記事では、「アメリカ大統領選挙」の時事解説を小学校高学年~中学生にわかりやすく説明します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。
トランプ氏が再び大統領に。世界はどう変わる!?
2024年11月、アメリカ大統領選挙の一般投票(本選挙)が行われ、共和党のドナルド・トランプ前大統領が、民主党のカマラ・ハリス副大統領を破って、再び大統領に就任することになりました。これから4年間の国際情勢や経済など、多方面に大きな影響を与える選挙の結果は世界中から注目を集めました。
アメリカ大統領選挙は約1年かけての選挙戦ですが、どのように行われ、どんな特徴があるのでしょうか。
アメリカ大統領選挙はどのように行われるの?
アメリカ大統領は2期まで務めることができ、1期は4年間です。そのため、大統領選挙は4年に一度行われ、一般の有権者の投票(一般投票)は「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」に実施されると決まっていますが、その選挙戦は約1年がかりとなります。事実上、二大政党である「民主党」と「共和党」の公認候補の一騎打ちとなりますが、まずは選挙のある年の初めから各党で州ごとに予備選挙や党員集会が行われ、そこで敗北した候補者が撤退を表明することで候補者が絞り込まれていきます。その後、夏に行われる全国党大会で各党の大統領候補が正式に指名されます。
11月に行われる一般投票では18歳以上の有権者が投票しますが、このとき選ばれるのは「大統領選挙人」と呼ばれる各党の有権者の代表です。大統領選挙人の数は538人で、全米50の各州と首都ワシントンに人口に応じて割り当てられます。例えば、2024年の大統領選挙では、最も人口が多いカリフォルニア州の大統領選挙人は54人ですが、アラスカ州は最も面積が広くても人口が少ないので3人です。ほとんどの州で、最も多くの票を集めた候補者が、その州の大統領選挙人を全部獲得する方式となっています。つまり、10人の大統領選挙人がいる州で、有権者の票が共和党の候補者に51%、民主党の候補者に49%集まった場合、共和党の候補者が10人すべてを獲得するということです。
大統領選挙人は、各党の候補者に投票すると誓っている人です。候補者が大統領に選ばれるには、大統領選挙人を過半数の270人獲得する必要があります。一般投票で大統領選挙人を過半数獲得した候補者が事実上の勝者となり、12月に行われる大統領選挙人による投票で次期大統領に選ばれることになります。
二大政党「民主党」と「共和党」
アメリカでは、19世紀には現在の「民主党」と「共和党」につながる二大政党制が始まり、現在、大統領、連邦議会議員、知事、州議会議員はほぼこの2つの政党から選ばれています。
大統領については、1852年の選挙以後はすべて共和党か民主党から選ばれています。2021年1月に就任した第46代ジョセフ・バイデン大統領は民主党で、前年の大統領選挙で2期目を目指した共和党の第45代ドナルド・トランプ大統領を破り、大統領に就任しました。
両政党の特徴は図の通りで、それぞれの支持基盤は異なりますが、支持政党を持たない「無党派層」も増えています。2024年7月に米国の世論調査会社が行った調査によると、自分は無党派であると回答した米国民は全体の41%で、民主党(28%)、共和党(30%)をそれぞれ支持すると回答した人を大きく上回っていました。特に若い世代ほど無党派の割合は多いとされています。また、伝統的にどちらかの党が強い支持基盤を持つ州もあれば、大統領選挙のたびにどちらが勝ってもおかしくなく、振り子のようにゆれるさまから「スイング・ステート(ゆれる州)」と呼ばれる激戦州もあります。かつてはどちらかの党の強い支持基盤だった州が、人口動態や産業構造の変化によって傾向が変わったり、無党派で選挙のたびに投票政党を変える「スイング・ボーター(ゆれる有権者)」が増えて結果が予想できなくなったりする傾向が強まっています。
各政党の特徴
民主党 | 共和党 | |
政策の方針 | リベラル寄り(大きな政府) | 保守寄り(小さな政府) |
シンボルと イメージカラー |
ロバ・青 | ゾウ・赤 |
近年の大統領 | ジョン・F・ケネディ(第35代) ジェームズ・カーター(第39代) ウィリアム・クリントン(第42代) バラク・オバマ(第44代) ジョセフ・バイデン(第46代) |
リチャード・ニクソン(第37代) ロナルド・レーガン(第40代) ジョージ・H・W・ブッシュ(第41代) ジョージ・W・ブッシュ(第43代) ドナルド・トランプ(第45代) |
支持基盤 | 都市部 マイノリティ(黒人層・ヒスパニック・アジア系) |
中西部の農業地域・南部など 白人層・キリスト教福音派 |
2024年の大統領選挙
今回、共和党ではトランプ前大統領が、前回の大統領選挙後の連邦議会議事堂占拠事件に関係した罪など4つの事件で訴訟を抱えながらも圧倒的な支持を集め、2024年7月に党の大統領候補に正式に指名されました。
一方の民主党ではバイデン大統領が2期目を目指していました。しかし、81歳という年齢と認知機能への懸念から撤退を求める声が党内で高まり、7月に、自身は大統領候補の指名を受けずハリス副大統領を支持すると表明。それまで立候補していなかったハリス副大統領が、一般投票まで3カ月を切った8月に党の大統領候補に正式に指名される異例の事態の中、選挙戦が繰り広げられました。
トランプ前大統領の圧勝
事前の世論調査ではトランプ前大統領が若干優勢ながら、ハリス副大統領とほぼ互角だったことから、どちらが勝ってもおかしくない状況とされていました。しかし、結果は、トランプ前大統領がハリス副大統領を大きく引き離して勝利するというものでした。最終的な結果が出るまでに時間がかかるとの予測もありましたが、開票開始間もなくからトランプ前大統領がリードを続け、最終的な大統領選挙人の獲得数はトランプ前大統領の312人に対して、ハリス副大統領は226人にとどまりました。激戦州とされた7州では、前回の大統領選挙で民主党が獲得した州も含め、すべてでトランプ前大統領が勝利しました。
トランプ前大統領の圧勝の主な要因は、バイデン政権の3年半に寄せられた有権者の厳しい目に加え、突然大統領候補になったことで準備期間がなかったハリス副大統領が、自身のまとまった政策を打ち出すことができなかったことにあるとされています。移民問題や物価高騰など、バイデン政権には有権者の不満が集まっていましたが、バイデン政権の中心にいたハリス副大統領は、これまでの政策との違いを有権者に示すことができず、新たな政策を打ち出しても、なぜそれを実行してこなかったのかという疑問に明確な回答を示すことができませんでした。バイデン政権に対する不満をすくいあげる形でわかりやすく即効性がありそうな経済政策を示したトランプ前大統領は、これまで民主党の支持基盤であった黒人層やヒスパニック層にまで支持を広げることに成功したと見られています。
トランプ前大統領再登板の影響
トランプ前大統領が再び大統領に就任すると、世界にどのような影響を及ぼすでしょうか。
米国の雇用と製造業を重視するトランプ前大統領は選挙戦で、経済政策の柱として前回の政権時に導入した個人所得税などの「トランプ減税」を恒久化し、法人税は引き下げると主張。また、国内製造業を守るため、関税を中国には60%、他の世界各国には一律10%課し、保護貿易政策で国内への製造業回帰を促すと同時に、「移民流入の抑制」などを掲げ、移民に奪われた仕事や政府予算を米国民に取り戻すとしています。さらに、化石燃料を推進してエネルギーのコストを低減させ、バイデン政権下で復帰したパリ協定から再び離脱する方針を明確にしています。
国際問題ではウクライナへの軍事支援に消極的な姿勢を示しており、NATOのあり方を見直すと主張。中東情勢についてはイスラエルを強く支持する立場をとっており、こうした姿勢が国際情勢にどのような影響を与えるか不透明となっています。
大統領選挙と同時に行われた連邦議会議員選挙でも共和党が上下院とも多数を占め、いわゆるトリプルレッド(「レッド」は共和党のシンボルカラー)となったことで、トランプ政権の政策に歯止めがきかなくなる恐れも指摘されています。
ポイントを確認しよう
「もしトラ=もしも再びトランプ前大統領が就任したら」が現実のものとなり、2025年1月20日、再びトランプ政権が始まります。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)やパリ協定からの離脱など、同盟や国際協定を軽視し、分断を広げてきた前回と同様に、再び「自国第一主義」を掲げるトランプ政権のもとで、アメリカは、国際社会は、どのように進んでいくのか。世界中が身構えています。
執筆:NPO現代用語検定協会
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