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教育現場でじわじわと広がりを見せる、定期テストの廃止。自分の勤務する中学校や、塾で担当する生徒の通う学校、自分自身が通う中学校、子どもの中学校など、身近なところで導入された場合、先生方だけでなく生徒や保護者にとっても影響の大きな問題になります。
これまで当たり前に行われてきた定期テストがなくなると、どのような変化が起こるのでしょうか。定期テストの廃止について、さまざまな角度から見ていきます。
- 定期テスト廃止が広まる背景
- 定期テスト廃止によるメリット・効果
- 定期テストの代わりとなる、成績を評価する基準
後半では、定期テストの廃止が学校、塾それぞれに与える影響や課題も解説していますので、最後まで読んでぜひ参考にしてください。
定期テストを廃止する学校が少しずつ増えている
近年、定期テストを廃止する中学校や高校が増えています。ここでは、定期テストが廃止される背景を見ていきます。
定期テストを廃止する学校が増えている背景は?
「定期テスト廃止」の流れは、千代田区立麹町中学校が2018年度に行った取り組みが影響したとされています。当時、「成績は定期テストで図る」という当たり前の文化に一石を投じる問題提起となり、教育関係者の注目を集めました。
また学習指導要領の改訂をきっかけとして、麹町中だけでなく多くの学校が改革の道を模索していたことも、同時期に「定期テスト廃止」の動きが増えた背景の1つとして挙げられます。
定期テストを廃止するメリットや効果
従来の定期テストを廃止することに、どのようなメリットや効果があるのでしょうか。以下で、定期テストを廃止しつつ、別の取り組みを行うことで期待される点について見ていきます。
学習の習慣が身につく
定期テストの廃止には生徒に学習を習慣づける効果が期待されます。成績評価の方法が変わると、生徒のテスト勉強の習慣が変わるためです。
従来の定期テストの点数を中心とする評価は、数カ月に一度一夜漬けの学習をする形でも好成績を収められる仕組みになっています。そのため、生徒の「一夜漬けスタイル」を助長する側面がありました。
しかし定期テストの廃止に伴い、日ごろの取り組みで成績を評価する仕組みに変われば「一夜漬けスタイル」では通用しません。その結果として、生徒は今までよりコツコツと日々の学習に集中するスタイルを獲得していくでしょう。
まめに理解度を確認できる
学習範囲が限られた、小さなステップに分けてテストを実施し理解度をチェックすることは、生徒にとっても先生にとってもメリットがあります。
たとえば従来の定期テストでは、複数の単元の基礎から応用までを一気にチェックする必要があるため、生徒がテスト勉強を進めたり、テスト範囲全体を復習したりするハードルは上がってしまいます。しかしテスト1回の範囲がもっと短くなれば、テストの準備や復習も取り組みやすくなります。
またスモールステップで細かく理解度を確認できるため、先生も理解が薄い部分に注力するような再指導を行えます。生徒個々人に対しても、より適切な学習のアドバイスがしやすくなります。
主体的に学ぶ姿勢が作りやすい
定期テストを廃止して、テスト以外の取り組みでの成績も評価するようになると、生徒が主体的に学ぶ姿勢も作りやすくなります。
従来の定期テストに向けたテスト勉強は、テストに出る範囲のみを集中的に勉強するのが最も効率が良いと言えます。つまり範囲外の勉強は「しなくてもよい」ものになりがちで、生徒が能動的に学ぶ機会を削いでしまう可能性があります。
一方、定期テストを廃止すると、従来とは別の評価基準を作ることが必要となります。定期テストの代わりとなる単元テストなどで理解度を評価しつつ、生徒の主体的な活動(レポートや授業中の活動)を取り入れて評価する方法などが考えられます。そのような活動が増えれば、生徒が主体的に学ぶ姿勢をより後押ししやすくなるでしょう。
定期テストの代わりにどんな取り組みをしているか?
定期テストは「生徒の成績を評価する仕組み」として、大きな存在感をもってきました。それを廃止することで、生徒の評価方法を見直し、別の評価基準を設ける必要がでてきます。実際にどのような取り組みで評価しているかを3点あげていきます。
単元テストの実施
定期テストを廃止した学校の多くは、代わりに単元テストを実施しています。単元テストとは学習内容ごとに実施するテストのことで、小学校までのテスト形式とほぼ同じです。一般的には、教科書の「Lesson」や「Unit」の範囲でテストを行います。
【単元テストのメリット】
- 複数の章や節をまたがない
→テスト期間で勉強しなければならない範囲が短く、テスト勉強や復習に取り組みやすい - 学習からテストまでの期間が短くなる
→記憶が新しく理解度が高い状態でテストを受けられる
学校によっては、生徒の任意で再テストをしたという事例もあります。何度受けても良く、さらにその中で一番高い得点が成績に反映されるので、生徒たちが前向き、かつ主体的に成績向上に取り組む様子も見られるようです。
レポート提出の導入
授業やリサーチしたことをまとめたレポート(新聞作成なども含む)を、定期テストの代わりとして評価基準に取り入れる取り組みもあります。
【レポートを作成させるメリット】
- 文章を書くことに慣れることができる
- 視覚的要素(図表・写真など)の使い方を学べる
- 自分の意見や問題意識を表現する能力が鍛えられる
大学などの高等教育機関や欧米の中学・高校では、レポートや論文で成績を判断することはごく一般的です。定期テスト廃止の流れがさらに広まれば、日本の中高の教育現場でも、レポート提出を成績評価の基準の1つとする可能性は十分にあります。
授業中の活動評価の強化
成績評価の方法が変われば、従来より授業中の取り組みを評価する機会が増えるでしょう。その場に応じた思考力・判断力・表現力に加え、生徒の主体性が発揮される授業はさらに重要視されていくと思われます。
- グループ討論
- ディスカッション
- プレゼンテーション
- 実験の計画・実施・報告
上に示した活動には、生徒一人ひとりが座学で学習するよりも深い学びを得られるメリットがあります。また教科書の内容を身近なこととして体験することで、よりリアルに感じられる点もメリットです。
これらの授業中の活動は「ルーブリック(評価基準表)」を設定し、評価基準として生徒にも示すのが理想です。あらかじめ基準を示すことで、生徒はどう行動すべきかを把握しやすくなり、先生は評価をしやすくなります。
定期テスト廃止が学校に与える影響とその改善策
定期テストの廃止は、学校や生徒にどのような影響があるのでしょうか。懸念される影響とその改善策として学校側が行うことができることを解説します。
他者と比べた順位を把握する機会の減少
定期テストの廃止により、点数での順位をつける機会が減り、生徒・保護者が周囲と比較したときの成績を知る機会が減るという懸念があります。
これについては、実力テストや外部模試の実施・導入という改善策が考えられるでしょう。校内の順位だけでなく地域や全国レベルの偏差値まで把握でき、定期テストよりも、本番の入試に近い順位を知る機会が作れます。
なお定期テストの代わりになる「小テスト」や「単元テスト」は、短期的な記憶や理解で点数が取れるため、記憶の定着や理解の継続をチェックするには不向きです。一定期間の習熟度を確かめ、生徒の入試への意識を高める意味でも、実力テストや外部模試の必要性は高いといえるでしょう。
生徒にかかる負担の増加
評価を受けるシーンが増えることで、生徒に従来よりも負担が増えたと感じさせてしまう可能性があります。年4〜5回の定期テストに代わって、こまめな単元テストやパフォーマンス課題(レポート・プレゼンテーション)などが実施されれば、日々の学習量を増やさざるを得ません。
生徒の負担を軽減するために、実際に行われている施策や必要になる可能性のある施策は以下の通りです。
- 単元テスト実施日の調整(各教科で重ならないようにする)
- 学習単元表の作成(生徒と学習内容と評価観点を共有できるもの)
また学習量の増加による負担だけではなく、生徒にかかる心理的な負担も考える必要があります。勉強が苦手な生徒は、評価される機会が増えることにより「低評価」を受けることが増えてしまう可能性もあります。そのことで生徒が勉強へのやる気を失ってしまったり、苦手意識がより強くなる危険性があります。評価後のフォローや再指導を行ったり、学習のプロセス自体を評価したりするなど、先生のフォローも重要です。
先生の業務量の増加
定期テストは生徒の成績評価を効率よく行えます。そのため別の方法で評価を行うと、先生の業務量が増えてしまう可能性があります。たとえば定期テストを廃止して小さなテストを増やす場合には、テストの作成や採点の業務負担を軽くすることが課題となります。今後は以下のような解決策も必要になってくると思われます。
- 業者のテスト問題の導入
- デジタル採点システムの導入
生徒を評価する手段が増えれば、最終的な成績の集計にも時間がかかります。先生の負担を増やさないために、成績に関する業務だけでなく業務全体の本格的な見直しも必要になってくると思われます。
定期テスト廃止によって起こる塾が対応するべき課題
定期テストを廃止する学校が増え続ければ、多くの学習塾がその影響を受けることになります。想定される課題について、以下で解説します。
塾に対するニーズの変化への対応
成績を決める大きな要素が、定期テストから他のものに代替されると、新しい成績評価への対策が必要になります。
「定期テスト対策」を得意としている塾には、特に大きな方針転換が求められます。定期テスト対策を必要とする生徒がいなくなるため、塾の存続に影響が出るかもしれません。その一方、学校の指導だけで入試に対応できるかを不安に思う家庭は、塾に対してより一層実力養成を求めるようになるでしょう。
地域で定期テストがどういった形になるかを早期に見極める必要が高くなります。
カリキュラム・授業の見直し
塾は、必要に応じてカリキュラムや日々の授業を見直す必要があるでしょう。先述したように定期テストがなくなれば、ニーズや塾の役割が少しずつ変化します。「成績を上げる」という根本的な使命は同じですが、そのためのアプローチは変えなければなりません。
見直しポイントの例 | 懸念されること | アクション |
---|---|---|
入試に向けた実力養成 | 単元テストと入試問題には、定期テスト以上のレベル差が生まれる可能性もある | 定期テストの準備に充てていた時間を入試を見据えた学習の時間として使い、レベルアップを図る |
指導の基準 | 順位などを知る機会が減り、成果が見えづらくなる | 外部模試を導入する |
内申点の確保 | 学校の新しい成績評価の方法と塾の指導がズレる | 使う教材や授業構成の見直し |
学校がペーパーテスト以外のパフォーマンス課題も重視する場合、主体性や思考力・判断力・表現力も塾で鍛えてほしいというニーズが出てきます。そうなれば従来の授業だけでなく、アウトプット重視の授業をカリキュラムに加えることを検討する必要があるでしょう。
生徒のモチベーション管理
定期テストが廃止になることで、生徒のモチベーション管理にも変化があるでしょう。成績の評価方法が変われば、設定する目標から日々の声かけまで、すべてを変える必要があります。
どのタイミングで、どんな話をして生徒を引っ張っていくかなど、従来どおりにいかない点が出てくるはずです。たとえば生徒が中学生の場合、途中の学年で「定期テスト廃止」になる場合と中1の初めからの場合では、重点的に伝えたい内容も変わるでしょう。
学年 | 伝えたい内容の例 |
---|---|
中学2・3年生 | 日々の取り組みが自分の成績になる →中間・期末を「一夜漬け」でなんとかしていた人は成績が下がる |
中学1年生 | 3年間で入試レベルの力を養う必要がある →単元テストのクリアだけでは、実力テストが解けない場合がある(小学校との違いを教える) |
従来は全員を同じ目標に向かわせれば大丈夫でしたが、定期テストが廃止されれば、小さなテストやパフォーマンス課題など、生徒に意識を向けさせるポイントが増えます。つまり「いかにコツコツ取り組める生徒を育てられるか」が、先生の腕の見せ場です。
まとめ
「定期テスト廃止」の動きは徐々に広がり、教育関係者が注目する話題です。すでに実施した学校の先生や生徒の意見も、現在は多様なメディアで見られるようになりました。それらを踏まえると、廃止によって得られるであろうメリットは、主に以下の3つです。
- 学習の習慣が身につく
- まめに理解度を確認できる
- 主体的に学ぶ姿勢が作りやすい
上記の利点もありますが、実現に向けて課題があることも事実。また「定期テスト廃止」の効果は、今後も続けて測定していく必要があるでしょう。とはいえ時代の変化とともに定期テストが見直されるなどのアクションを起こす学校が増えることは、子どもの未来にはプラスの出来事です。
学校教育や塾業界にとっても重要な転換点になり、日本の教育のあり方を問い直す機会にもなる「定期テスト廃止」。教育関係者の皆さんは、ぜひ今後もその趨勢に注目していきましょう。
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