
目次
「宿題って、本当に必要なの?」
そう疑問に思う先生もいるのではないでしょうか。
宿題には、家庭での学習を習慣付けたり、授業の理解を補ったりする効果があります。ただし、量が多すぎると生徒の負担になり、少なすぎると十分な効果が得られず、適切な量への配慮が必要です。
そこで、この記事では、以下の観点から宿題の意義や効果について整理しました。
- 宿題のメリットと出す際の注意点
- 学習指導要領や研究から見た宿題の位置づけ
- 効果的な宿題の出し方
学校や塾で出す宿題が、生徒にとって有意義なものになるよう、一緒に考えていきましょう。
宿題のメリットと出す際の注意点
まずは、宿題のメリットと、出す際の注意点を整理していきます。あらためて整理することで、「生徒にとって本当に効果のある宿題」とはどんなものかを、考えるヒントになります。
宿題のメリット
宿題には、生徒にとって次のようなメリットがあります。
その日のうちに復習することで授業内容が定着する
英単語や漢字のように、繰り返しの練習で覚える分野では、宿題が特に効果を発揮します。授業で学んだ内容をその日のうちに復習することで、記憶に残りやすくなり、知識の定着につながります。
授業で理解しきれなかった部分を補える
数学のような演習量が必要な教科では、宿題が理解を支える大きな力になります。授業中に理解が追いつかなかった部分も、繰り返し演習に取り組むことで分かるようになり、自信を得るきっかけになることもあります。
学習習慣をつくりやすい
宿題があることで、毎日少しずつでも机に向かう習慣が生まれます。特に、部活動や趣味、交友など、することが多い中学生にとって、自分だけで学習の習慣を身につけるのは難しいもの。宿題という日課があれば、たとえ短い時間でも日々取り組み続けることで、勉強が自然と生活の一部に組み込まれやすくなります。
達成感が自信や学習意欲を高める
「今日の宿題を、やり切った」という日々の経験は、小さな達成感の積み重ねになります。それは自信や意欲を高める成功体験となり、学習への前向きな姿勢を育てます。また、期限までに仕上げる習慣を通して、自己管理能力が身に付くきっかけにもなります。
宿題を出す際の注意点
一方で、宿題が生徒にとって負担になってしまうと、逆効果になることもあります。ここでは、宿題を出すうえで、効果を損なわないために先生が注意すべき点を整理していきます。
部活や習い事との両立が難しくなる
宿題の量が多すぎたり、難易度が高すぎたりすると、部活動や習い事で忙しい生徒は、毎日の時間のやりくりが難しくなります。宿題を終えるために無理をして睡眠時間を削れば、心身への負担が大きく、健康面や肝心の授業にも影響が生じかねません。特に部活の大会や学校行事と重なる時期は、両立が難しいと感じる生徒も多くなるでしょう。
部活と勉強の両立は、多くの中学生にとって悩みの種です。こちらの記事で、先生ができる生徒へのサポート方法をまとめているので、参考にしてください。
▶【中学生向け】部活と勉強の両立はできる!塾講師ができるサポートとは?
「やらされている」と感じて、学習意欲が低下する
宿題に意義を見出せないと、生徒にとっては「ただの作業」になってしまいます。たとえば、漢字をくり返し書くだけの反復練習は、単調な作業になってしまい、勉強そのものを嫌いになるきっかけにもなりかねません。「やらされている」という感覚が強まるほど、学習意欲や前向きな姿勢を失う恐れがあります。
自信をなくしてしまうことがある
家庭の学習環境や保護者の関わり方によっては、宿題を思うように進められず、つまずきを感じる生徒もいます。努力を重ねても成果が見えにくい場合、周囲との差に不安を抱くこともあります。さらに、保護者の過度な干渉や厳しい叱責を受けると、プレッシャーが強まり、やがて「どうせ自分はできない」と自信を失ってしまうケースもあります。
宿題は出し方しだいで「学びを支える力」にも「生徒の負担」にもなります。だからこそ、注意点を踏まえたうえで、効果的な出し方を工夫することが大切です。
指導要領での宿題の位置づけと、研究から分かる宿題の効果
そもそも、宿題は教育制度上どのような位置づけになっているのかを、確認してみましょう。加えて、ここでは宿題に関する研究の結果についても見ていきます。
学習指導要領での位置づけ
文部科学省の学習指導要領には「宿題」という言葉自体は記載されていません。しかし、家庭での学習習慣を重視することは明記されています。
生徒の発達の段階を考慮して,生徒の言語活動を充実するとともに,家庭との連携を図りながら,生徒の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。
(文部科学省『中学校学習指導要領 総則』より)
つまり、「家庭学習の習慣づけ」が求められており、宿題は、そのための手段として位置づけられていると言えます。
研究でわかった宿題の効果
米国の国際教育調査では、宿題の量や内容が学力に与える影響について、さまざまなデータが報告されています。特に、アメリカ・デューク大学の心理学者 ハリス・クーパー教授(Harris Cooper) は、過去の宿題研究をまとめたメタ分析を行い、宿題の効果に関する傾向を明らかにしました。
- 宿題には一定の効果があるが、量が多すぎると逆効果になる
- 1日の最適な宿題時間の目安は「学年×10分程度」
(この基準はアメリカの学校制度〈Grade1〜12〉に基づくもので、日本の小1で約10分、小6で約60分、中3で約90分が目安とされています)
- 中高生では学力向上につながる効果が見られる一方、小学生では「習慣づけ」の意味合いが大きい
- 「宿題の量(時間)」と「学力の高さ」に単純な相関は見られない
つまり、宿題は年齢に応じた量や、目的に合った内容を、工夫・調整することで効果が発揮されると解釈できます。短時間で終えられる量であっても、学ぶ意義を感じられる内容にすることで、生徒の学力や学習姿勢の向上につながると言えるでしょう。
生徒にとって無理のない宿題量であることが大前提。年齢や目的により、適切な量や効果の出方は変わることも理解したうえで、効果的な宿題の量を調整していきましょう。
効果的な宿題の出し方と活かし方
宿題を出すときには、量や内容だけでなく、その活かし方まで、あらかじめ意識した工夫が大切です。ここでは、生徒にとって負担にならず、学習効果のある宿題にするための、具体的なポイントを紹介します。
「やり切れる量」の宿題を意識する
宿題を効果的なものにするうえで、まず大切なのは、生徒が「やり切れる量」に調整することです。
【多すぎると】
- 時間がかかりすぎて、生活リズムに影響する。
- 生徒に「無理だ」と心理的負担を感じさせ、意欲を失わせる。
- こなせばいいという形だけの取り組みになり、学習効果が下がりやすい。
【少なすぎると】
- 復習としては不十分で、学んだ内容が定着しにくい。
- 「やらなくてもいいのでは」と感じられ、宿題をする意味を見出しにくい。
大切なのは、生徒がやり切れる量で、かつ復習として十分な量になるように、バランスをとることです。この点を意識することで、宿題が生徒の負担になることなく、意味のある学習になります。
特に塾の宿題は、学校の宿題もあるため、生徒が取り組める時間は限られています。宿題の目的を絞り、短時間で終わる復習問題や、その日の塾での授業の確認にするなど、効果の高い内容を吟味して準備しましょう。
生徒に合わせて選択できる宿題にする
「やり切れる量」といっても、それぞれの生徒によって適切な量は異なります。そこで有効なのが、宿題を選択制にする工夫です。
- 必須課題+発展課題
⇒ 全員が取り組む必須課題に加えて、余裕のある生徒には発展課題も用意する。 - AプリントかBプリントを選ぶ方式
⇒ 同じ内容でも、基本問題中心か、応用問題中心かを、生徒が自分で選べるようにする。
全員に同じ宿題を一律に課すのではなく、選択肢を持たせることで、生徒それぞれに合った「やり切れる量」を実現しやすくなります。また、生徒に「自分で選んだ」という自主性を意識させることで、宿題へのやる気が増し、学習意欲の向上にもつながります。
基礎と応用を組み合わせた宿題にする
宿題の内容は、基礎の定着のための課題と応用力を伸ばす課題を、バランスよく組み合わせると効果的です。
- 基礎 … 漢字・英単語・計算など、反復で力をつける内容
- 応用 … 文章問題・作文・調べ学習など、考える力を伸ばす内容
これら両方を、毎回の宿題に必ず盛り込むのは、難しいこともあるでしょう。その場合は、曜日ごとに、宿題の内容を「基礎編」「応用編」と分ける方法もあります。
【例】月〜木は基礎練習、金曜は応用問題を出す。
このように、曜日によってバランスよく基礎練習と応用問題を扱うことで、知識の定着と意欲・思考力の育成を両立できます。
授業と宿題につながりを持たせる
宿題の内容が授業とつながっていると、生徒は「宿題をやる意味」を感じやすくなります。たとえば、次のようにして、つながりを持たせるとよいでしょう。
【授業→宿題の例】
数学の授業内で、「この問題はつまずきやすいので、宿題で復習しよう」と伝え、類題を宿題に出す。
【宿題→授業の例】
生徒が宿題でつまずいた問題を、次の授業で解説する。宿題で扱った漢字や英単語は、小テストで確認する。
このように授業の学習と宿題につながりを持たせることで、宿題が「やりっぱなし」にならず、理解を深めるための有意義な学習になるのです。
保護者に家庭でのサポートをお願いする
宿題は、家庭での協力があることで、より効果が高まります。ただし「お子さんと一緒に勉強してください」といったお願いは、保護者にとっても難しいことが多いでしょう。そのため、次のような形でサポートをお願いするのがおすすめです。
- 家庭での取り組みを見守ってもらう:「毎日、決まった時間に机に向かっているね」「部活で帰りが遅かったけど、最後まで頑張ったね」など、子どもの学習姿勢を認める肯定的な声かけをしてもらう。
- 努力や成長に注目してもらう :「英語のスペルが上手になったね」「難しい問題に挑戦したんだね」など、結果よりも努力の過程に目を向けて声かけをしてもらう。
保護者会や学級通信で「ご家庭では、ぜひ見守る一言をお願いします」と具体的に伝えると、協力を得やすいでしょう。生徒にとっては、安心感や励みになり、先生にとっても、生徒の学びを共に支える大きな力となります。
生徒にとって「やらされる宿題」を、いかに「自信や意欲につながる宿題」に変えていけるかは、先生の腕の見せ所と言えます。
教材を活用して宿題の質を高めよう
生徒一人ひとりの理解度に合わせ、基礎の定着と応用力の向上を目指す宿題を工夫して作成する必要があります。しかし、先生が一から毎回プリントを作るのは大きな負担です。そこでおすすめなのが、市販教材や塾・学校用教材を上手に活用する方法です。
Keyワークで基礎をしっかり固める
まず紹介するのは、教科書準拠教材の「Keyワーク」です。
- 教科書準拠で安心:授業内容と直結しているため、宿題に出すだけで復習効果が高い。
- 短時間で取り組みやすい:問題数やレベルがちょうどよく、「やり切れる量」の宿題にしやすい。
「基礎的な定着を図りたい」「短時間で効率よく復習させたい」といったときに最適です。
「Keyワーク」は、授業でも宿題でも活用することができる万能な教材です。詳しくは、こちらをご覧ください。
▶️Keyワーク | 塾用教材 | 教育開発出版株式会社
新中問(新中学問題集)で応用力を伸ばす
次に紹介するのは、「新中学問題集」です。
- レベルに応じて使い分けが可能:標準編・発展編・演習編があり、生徒の到達度に合わせて選べる。
- 応用の宿題として活用できる:必須の宿題とは別に「発展課題」として出すと、余裕のある生徒に挑戦の場を提供できる。
- 授業と連動しやすい:宿題で取り組ませた問題を授業で解説すれば、理解をさらに深められる。
「新中学問題集」は、豊富な問題バリエーションを収録したデータベース型の教材で、生徒にもっと考えさせたいときや、応用力も伸ばしたいときに効果的です。
▶️新中学問題集シリーズ | 特集 | 教育開発出版株式会社
「Keyワーク」「新中学問題集」は、音声・映像解説やデジタル版誌面などのデジタルコンテンツが充実しています。これらを活用することで、生徒は自ら理解を深めながら学習を進めることができます。
宿題で使用する教材は、授業で使用しているメイン教材とのレベル感を合わせることが重要です。授業より難易度が高すぎると生徒が挫折しやすく、逆に易しすぎると復習効果が薄れてしまいます。授業内容と連動した教材を選ぶことで、「授業の理解を定着させる宿題」にしやすくなります。
宿題を、意味のある学びにしていこう
宿題には多くのメリットがある一方で、出し方に注意しないと逆効果になってしまうこともあります。だからこそ、現場の状況や生徒の実態に合わせて、宿題の出し方や活かし方を工夫することが大切です。
宿題を出すときには、次の点を意識しましょう。
- 「やり切れる量」で無理なく続けられるようにする
- 生徒に合わせて「選択できる」工夫を取り入れる
- 「基礎と応用」を組み合わせて効果を高める
- 授業と宿題につながりを持たせる
さらに、先生の負担を減らしつつ質を高めたいときは、目的に合った教材を活用するのがおすすめです。
宿題を「期日までにこなさなければならない作業」「課せられたもの」で終わらせず、生徒の学習意欲を引き出し、成長につながる仕組みにできるかどうか。そこが先生の腕の見せ所です。この記事を参考に、ぜひ、小さな工夫から始めてみてください。
これからの教育を担う若い先生たちに向けた、
学び・教育に関する助言・ヒント(tips)となるような情報を発信します。
何気なく口にする駄菓子(chips)のように、
気軽に毎日読んでもらいたいメディアを目指しています。













