
目次
「これからを生きる子どもたちに必要な力とは?」
「変化の激しい社会で求められる能力をどう育む?」
「国際的な教育の潮流に、どう対応すべき?」
このようにお悩みの先生方も、いらっしゃることでしょう。
キー・コンピテンシー(key competencies:主要能力)とは、知識や技能を学んだだけで終わらせず、実社会や人生においての行動・成果として活用するための新たな能力概念です。世代や職業に関係なく、すべての人にとって生きる鍵となる力、必要不可欠な能力といえるでしょう。
この記事ではキー・コンピテンシーの内容をはじめ、授業への取り入れ方や、教育改革との関連性に至るまで詳しく解説します。押さえるべきポイントを理解し、キー・コンピテンシーを育む教育現場を目指しましょう!
キー・コンピテンシーとは?
キー・コンピテンシーは、「人生の成功や社会の発展にとって鍵となる能力」のことです。単なる知識や技能の範囲を超えた、態度や価値観を含む総合的な力として定義されています。
OECD(経済協力開発機構)が1999年~2002年にかけて実施した「能力の定義と選択(DeSeCo)」プロジェクトの最終報告(2003年)で、以下の3つの性質を持つ能力がキー・コンピテンシーと定義されました。
- 人生の成功や社会の発展にとって有益
- さまざまな文脈の中でも重要な要求(課題)に対応するために必要
- 特定の専門家ではなくすべての個人にとって重要
キー・コンピテンシーの核心となるのは「思慮深さ」です。これは、物事を深く考え、適切に行動する能力全般を指します。単に既存の知識を当てはめるのではなく、経験を通じて学び、状況に応じて柔軟かつ適切に対応する能力が重視されています。
キー・コンピテンシーは「何を知っているか」ではなく「知識をどう活用できるか」を重視しています。
キー・コンピテンシーの3つのカテゴリー
文部科学省は、キー・コンピテンシーを以下の3つのカテゴリーに分類しています。
- 社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力
- 多様な社会グループにおける人間関係形成能力
- 自律的に行動する能力
これらのカテゴリーは、それぞれ独立しているわけではなく、相互に補完し合っています。空間座標のx・y・z軸のように、互いに関連し合って成り立つイメージです。
PISA調査との関連性
「PISA」とは、キー・コンピテンシーの考え方を基盤に設計された国際的な学習到達度調査です。生徒が、実生活上で直面するさまざまな課題に、持っている知識や技能をどの程度活用できるかを測ることを目的としています。2000年にOECDによって始められ、その後は3年おきに実施されています。義務教育終了段階の15歳の生徒を対象に各国で行われており、日本では高校・高専などの1年生が対象です。
PISA調査では、次の3つの基準(リテラシー)に分けて学習到達度をテストします。
- 読解力
- 数学的リテラシー
- 科学的リテラシー
PISA調査は、キー・コンピテンシーのうち「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」を測るものです。つまり、PISA調査で測定されるリテラシー(能力)は、キー・コンピテンシーを構成する要素の一つといえます。
社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力
はじめに紹介するキー・コンピテンシーのカテゴリーは、「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」です。このカテゴリーは、次の3つの小項目に分類されています。
- A 言語、シンボル、テクストを相互作用的に活用する能力
- B 知識や情報を相互作用的に活用する能力
- C テクノロジーを相互作用的に活用する能力
ここでいう「ツール」は、形ある道具だけを指すものではなく、言語や数字、知識などの無形物も含みます。
A 言語、シンボル、テクストを相互作用的に活用する能力
自分と他者(社会)との間で、適切かつ効果的に双方向的な伝達・意思疎通を行うために必要な、社会的コミュニケーションの基盤となる能力です。2つ目のカテゴリーである「人間関係形成能力」にも影響する力ですが、ここでは論理的な読解力・発信力に、より重きが置かれます。
B 知識や情報を相互作用的に活用する能力
単なる知識の活用だけではなく、得られた情報の真偽や価値を判断する「批判的思考」のスキルも含まれます。インターネット上に流通する多種多様な情報に触れられる現代社会において、情報の正確さや偏向性を自分で見極めることのできる能力は、生きるために必須といえます。
C テクノロジーを相互作用的に活用する能力
新しい技術に適応し、使いこなすことのできる能力です。テクノロジーの発展は世界規模で加速し続けており、現代におけるAIのように人々の生活を大きく変える技術は、今後も現れることが予想されます。そのような未来を生きていくためにも、この能力は重視されています。
※出典:文部科学省「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ 補足資料」https://www.google.com/url?q=https://www.mext.go.jp/content/1377021_4_2.pdf&sa=D&source=docs&ust=1741679579279683&usg=AOvVaw3DnQbppVDVVynb7n1LDB6G
多様な社会グループにおける人間関係形成能力
2つ目のカテゴリー「多様な社会グループにおける人間関係形成能力」は、次の3つの小項目に分かれています。
- A 他人と円滑に人間関係を構築する能力
- B 協調する能力
- C 利害の対立を御し、解決する能力
このカテゴリーでは、他者とのコミュニケーションに関わる能力が挙げられています。社会がうまく機能するためには、価値観の異なる者同士の協力、ポジティブなつながりが不可欠だからです。
A 他人と円滑に人間関係を構築する能力
他人と良好な関係を築き、維持することのできる能力です。たとえば、自分と異なる価値観や考え方を尊重する姿勢や、相手の立場に立って考える能力などが当てはまります。
B 協調する能力
いわゆる「協調性」であり、共通の目標に向かって他者と協力するスキルです。コミュニケーション能力だけでなく、チーム内での自分の役割を理解して動く能力や、自分という個人よりも全体の意見やメリットを考えて動く姿勢も重視されます。
C 利害の対立を御し、解決する能力
対立や紛争が起きた際に、問題を大きくせず、冷静に円満な解決ができる調整能力です。争点を的確に理解し、話し合いによって双方の立場や主張への相互理解を促し、お互いが納得できる妥協点を見つけることが重要となります。
このカテゴリーは、いわゆるコミュニケーション能力だけでなく、多様性への理解や、他者との協働といった姿勢も重視している点に注意が必要です。
また、他のカテゴリーと補完的な関係にある点にも注目しましょう。より良い関係性をつくるためには、前述の「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」が必要です。また、社会的な課題解決に向けた行動や、目標に向けた協働の推進には、次に紹介する「自律的に活動する能力」が重要になります。
自律的に活動する能力
3つ目のカテゴリー「自律的に活動する能力」は、個人の人生を豊かにするためのスキルが中心です。次の3つの小項目に分かれています。
- A 大局的に行動する能力
- B 人生設計や個人の計画を作り実行する能力
- C 権利、利害、責任、限界、ニーズを表明する能力
このカテゴリーで重要なのは、挙げられているのが「行動」「実行」「表明」と、いずれもアウトプットを伴う能力であることです。つまり、頭の中で考えるだけで終わらせず、実践して軌道修正を繰り返すことが重視されています。
A 大局的に行動する能力
物事をマクロな視点から見て、利他的な行動に結びつける能力です。視野の広さは個人の人生を豊かにするだけでなく、その人が属する社会にも良い影響を与えます。たとえば、サステナビリティを意識してリサイクルショップを活用したり、環境や社会コストに配慮してゴミの削減や正しい分別をしたりといった行動をとれる能力です。
B 人生設計や個人の計画を作り実行する能力
いわゆる「計画力」であり、目標実現のための最適な手段を考え、行動に移すことのできる能力です。計画を立てるだけでなく、実践した結果を見て柔軟に軌道修正できる対応能力も含まれます。
C 権利、利害、責任、限界、ニーズを表明する能力
個人が社会的に不利な状況に立たされないよう、自身の権利や意見などを主張して身を守る能力です。法が保障する個人の権利とその限界、自身の責任の範囲などを正しく理解し、相手が誰であっても表明できる能力は、グローバル化が進む社会において、ますます重要となるでしょう。
フキダシ
キー・コンピテンシーの3つのカテゴリーは、これからの時代を生きるために必要な能力です。普段の授業にも取り入れてみましょう。
教育現場での実践的な育成方法
ここでは、キー・コンピテンシーの育成を授業に取り入れるコツと、評価方法について解説します。
キー・コンピテンシーは、画一的な評価や数値化が難しい能力・スキルです。そのため、どのように授業で取り扱うべきか悩んでいる先生方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、授業に組み込むことで自然と生徒たちのキー・コンピテンシーが養成されるような、プロジェクト学習やパフォーマンス評価を紹介していきます。
キー・コンピテンシーの育成を意識した授業を行い、生徒たちが変化の激しい社会を自立して生きていけるような能力を育んでいきましょう。
授業での取り組み
キー・コンピテンシーは、プロジェクト学習を中心とした実践的な授業づくりによって効果的に育めます。その具体的な実践ポイントは、以下の5つです。
1.プロジェクト学習で自律性を育む
プロジェクト学習(課題解決型学習)は、明確な目標設定のもと、計画的に課題解決に取り組む学習方法です。これにより、「自律的に活動する能力」を高められます。
2. 協働学習でコミュニケーション力を磨く
クラスや班での協力作業を通じて、意見交換や討論を行うのもおすすめです。「多様な社会グループにおける人間関係形成能力」が培われ、チームワークの重要性を実感的に学べます。
3. 実社会との連携で学びを現実に結びつける
企業や商店街との連携プロジェクト、地域社会活動への参加など、実社会に直接関わるテーマを設定します。これにより「自律的に活動する能力」のうち、特に「大局的に行動する能力」と「権利、利害、責任、限界、ニーズを表明する能力」が育まれます。学びと現実社会のつながりを実感できるでしょう。
4. ICTの活用で情報活用能力を高める
情報収集や発表の段階でICT(情報通信技術)機器を効果的に活用することで、「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」を育みましょう。同時に、テクノロジーへの適応力や情報を的確に選別する批判的思考力も養われます。
5. 探究的な学習で主体性を引き出す
生徒自身が興味を持つテーマに取り組む機会を増やし、探究的な学習活動を充実させます。これにより、「知識や情報を相互作用的に活用する能力」と、「自律的に活動する能力」を育めるでしょう。主体的な学習意欲が引き出され、持続的な学びにつながります。
評価方法
キー・コンピテンシーの評価には、従来のペーパーテストによる点数化だけでなく、汎用性のある実践的能力や総合的な知力を評価するための、多面的なアプローチが必要です。以下の3の評価方法を組み合わせることで、より効果的な評価が可能になります。
1.パフォーマンス評価で実践力を見る
パフォーマンス評価は、学んだ知識やスキルを実際にどう活用できているかを評価する方法です。以下のような取り組みを通じて、実践的な力を評価します。
- プロジェクト学習での成果物
- テーマに基づくプレゼンテーション
- グループ活動での取り組み
2.ポートフォリオ評価で成長過程を追う
ポートフォリオ評価は、児童・生徒の学習過程を示す資料や成果物を時系列で記録する評価方法です。これには、以下のようなメリットがあります。
- 努力の過程が可視化される
- 成長の軌跡が明確になる
- 保護者面談での説明資料として活用できる
3.ルーブリック評価で各生徒の到達度を明確にする
ルーブリックとは、複数の評価基準と成功の度合いを示す尺度を組み合わせた評価基準表で、観点別の達成度を明らかにできます。
- 評価の観点が明確になる
- より客観的な評価が可能になる
- 児童・生徒が自身の達成度や目標を理解・把握しやすくなる
評価におけるポイント
結果だけではなく、学習のプロセスも重視することが大切です。たとえ望ましい結果が得られなくても、積極的に取り組む姿勢や課題解決への努力を適切に評価することで、児童・生徒のチャレンジ精神を育むことができます。
これら3つの評価方法を組み合わせることで、キー・コンピテンシーの育成状況を多角的に把握でき、より適切な指導につなげられるでしょう。
努力を可視化したり、定期的に自己評価の機会を設けたりすることが、子どもたちの成長につながります。
今後の展望
2003年にOECDによって規定・発表されて以来、キー・コンピテンシーの概念は世界中の教育現場で取り入れられてきました。日本でも、2017年に改定された学習指導要領において、「社会に出てからも学校で学んだことを生かせるよう、三つの力をバランスよく育む」として、この考え方を重視しています。
キー・コンピテンシーの方向性について理解を深めれば、学校教育への導入がさらにスムーズになるでしょう。
教育改革との関連
2017年に改定・告知された学習指導要領では、「何ができるようになるの?」「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら、「育成を目指す資質・能力の三つの柱」が次のように示されました。
▼学習指導要領「育成を目指す資質・能力の三つの柱」
- 学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう⼒・⼈間性等の涵養
- 生きて働く知識・技能の習得
- 未知の状況にも対応できる思考⼒・判断⼒・表現⼒等の育成
これは、2009年改定時に重視された「生きる力」を、より具体的に明示したものともいえます。各科目の学習目標も、この三つの柱に合わせて改定されました。
そして、これらの目指す能力は、OECDのキー・コンピテンシーと共通しています。
たとえば「生きて働く知識・技能」は、キー・コンピテンシーの「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」に関連しますし、「思考力・判断力・表現力」は、「自律的に活動する能力」と近いスキルです。
また、「主体的・対話的で深い学び」の導入も明記されています。これは、児童・生徒が受動的ではなく、主体的に参加する学習方法です。知識のインプットだけでなく実践や応用を重視する点も、キー・コンピテンシーの考え方に通じています。
※出典:文部科学省「資料7 新学習指導要領について」https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/044/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2019/06/19/1418049_006.pdf
社会の変化への対応
キー・コンピテンシーは、来るAI時代やグローバル化の進んだ社会に適応するうえで、とても重要な能力です。新たなテクノロジーの活用方法を見出したり、異文化を背景とする多様な価値観を持つ他者と協働したりすることのできる能力が、その一例です。
テクノロジーの発展に伴い、社会の変化はますます加速しています。止まることのない変化に対応していくためには、時代に伴い変化する知識よりも、あらゆる状況に柔軟に適応できる普遍的なスキルが必要となります。そして、普遍的なスキルを身に付けるためには、主体的に学習に取り組む姿勢が欠かせません。2017年の学習指導要領改訂において「主体的・対話的で深い学び」が導入された背景にも、このような考え方があります。
そのため、学校教育においても、先生が一方的に教えるのではなく、児童・生徒が主体的・積極的に学びに参加できる授業を行うことが求められています。
たとえば、学級新聞づくり、朝の会の1分間スピーチのように、すぐに学級活動に取り入れられて、児童・生徒が主体的に参加できることから子どもたちの「生きる力」を育てていきましょう。
この記事では、キー・コンピテンシーという能力概念が示す具体的な内容や、授業への取り入れ方、今後の展望などを紹介しました。
キー・コンピテンシーは、子どもたちが未来の社会で活躍するためだけでなく、より充実した自分らしい人生を送るためにも欠かせない、大切な「生きるためのスキル」です。学習指導要領でも「育成を目指す資質・能力の三つの柱」に、この考え方が生かされています。
今回ご紹介した内容を参考に、子どもたちのキー・コンピテンシーを育成し、未来の活躍を後押しするような授業づくりを進めてみてください。
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