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公開日:2025年06月17日  
更新日:2025年06月20日

最新時事から考えてみよう!「物価の高騰」

この記事では、「物価の高騰」の時事解説を小学校高学年~中学生にわかりやすく説明します。授業の合間に話すネタ、関連事項を解説する際の資料などとしてご活用ください。

食品の価格は1年で6.5%上昇!

近年、世界各国で物価が高騰しています。日本でも、2020年を100とした消費者物価指数が、2025年4月には、総合で111.5、食料品全体で124.0、光熱・水道で117.9となり、また、前年同月と比べて食料品は6.5%、光熱・水道は8.4%上昇しています。食料品の価格や光熱・水道費の上昇は、私たちの毎日の暮らしに直結する問題です。そして、物価の上昇とともに、エンゲル係数も上昇していますが、物価とエンゲル係数はどのように関係しているのでしょうか。物の価格の決まり方などもあわせて考えていきましょう。

物価はなぜ上がっている?

2021年後半から世界各国で上昇し始めた物価は、特に2022年以降、大幅に上昇し続けています。その主な要因は、新型コロナウイルスの世界的大流行による供給網の混乱、コロナ後の需要の回復、そしてロシアによるウクライナ侵攻などによる不安定な世界情勢です。こうした要因から、穀物などの原材料や原油などのエネルギーの価格が世界的に高騰してきました。さらに日本では円安も大きな要因になっています。

日本は原油などのエネルギーや食品の原材料など、多くのものを輸入に頼っています。

例えばパンの原材料となる小麦の食料自給率は2023年度で17%。つまり、83%を輸入に頼っています。しかし、小麦の価格は世界的に上がっています。また、このような状況で、例えば円の価値が1ドル=100円から1ドル=150円のように円安になった場合、これまで100円で輸入できていた分量の小麦を、150円で輸入しなければなくなります。さらに、小麦をパンにしたり、できたパンを包装したりするためには、工場を動かさなければなりませんが、そのために必要なエネルギーの価格も、原油などの価格に合わせて上昇しています。パンという一つの商品を作るために必要なお金(コスト)が増えているのです。

エネルギーや原材料の価格の上昇と円安によって、これまでと同じ価格で販売していたのでは作っている会社は利益が出せなくなるため、コストの増加分を価格に反映させる「価格転嫁」が行われます。「価格転嫁」が行われた結果、さまざまな物の価格(物価)が上昇し続けているのです。 日本の消費者物価指数の品目別指数によると、パンの価格は2022年には10.1%、2023年には8.1%、2024年には2.2%、それぞれ前年と比較して上昇していますから、ここ3年で20%以上、上がっていることになります。

物価はどう決まる?

では、そもそも物価(物の価格)はどのように決まるのでしょうか。

パンを作るために必要な原材料やエネルギーの価格が上がっていると説明しましたが、物を作るには、ほかにもいろいろなお金がかかります。倉庫を整備する費用、工場で働く人の給料(人件費)、原材料や商品の運送料などです。物を作るためにかかるこうしたお金を「原価」といいます。そして原価、作った会社の利益、スーパーなど消費者に売るお店でかかるお金や利益が足されたものが、実際に私たちが物を買うときに支払う金額である「価格」になります。

工場でのパン1個の原価が50円で、利益を出すために80円でお店に売り、お店もかかったお金を回収したり利益を出したりするために100円の価格をつけて売っていたとします。「価格転嫁」について説明しましたが、50円で作れたものが70円かけないと作れなくなれば、同じ30円の利益を出すためにお店には100円で売り、お店も20円の利益を出すために120円で売るようになります。

物の価格が決まるのには、もう一つ重要な要素があります。それは「需要」と「供給」のバランスです。「需要」は私たちが物を買おうとすること、「供給」は企業が物を売ろうとすることと考えるとよいでしょう。需要量に対する供給量が少なくなると物の価格は上がり、逆に多くなると物の価格は下がります。需要量と供給量がつりあった価格が、最も効率的・持続的に物が売れる価格であり、これを「均衡価格」といいます。

食料品の中でも野菜や果物など、天候や季節などに供給量が左右されるものは、価格が大きく変わる場合があります。去年の秋から今年の冬にかけて、キャベツの価格が大幅に上がったことがニュースになりました。これは天候不順でキャベツが不作になり供給量が減ったためで、一時はいつもの年の3倍を超える価格になりました。

また、ここ1年で米の価格が約2倍に上がっていますが、これも需要量に対して供給量が足りていないことが原因とされています。なお、需要量の変化には、消費者の心理も大きく影響を与えます。米不足では、品切れになったり、さらに価格が上がったりすることへの不安から、必要以上に米を購入する消費者が増加したと見られています。そうしたパニック的な購入は、さらなる価格の上昇を引き起こす要因ともなります。

エンゲル係数が43年ぶりの高水準

「〇月から、〇品目値上げ」というニュースを毎月のように目にしているのではないでしょうか。帝国データバンクの調査によると、主要食品メーカーの飲食料品の値上げは2025年に予定されている10月までの公表分で1万4409品目にのぼります(4月30日現在)。こうした中、2024年の2人以上世帯のエンゲル係数は1981年以来43年ぶりの高水準となりました。

エンゲル係数って何?

エンゲル係数とは、家計の消費支出に占める食料費の割合です。ドイツの統計学者エルンスト・エンゲルが1858年に論文で発表した、「所得の上昇につれて家計費に占める食料費の割合が低下する傾向にある」というエンゲルの法則にちなんでいます。

日本では総務省の家計調査でエンゲル係数が算出・公表されています。家計調査は全国の約9000世帯を対象に、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査するもので、エンゲル係数は、贈答品や仕送り用などを除いた、自分の世帯で消費する目的の食料費の割合で算出されます。

日本のエンゲル係数は1963年には38.7%で、その後30%台で推移していましたが、1979年には20%台になり、2005年には22.9%と最も低くなりました。その後再び上昇し、2024年には28.3%となり、これは28.8%だった1981年以来の高い数値となります。

1960年代の高度経済成長の時期以降は所得の水準が向上し、家計に余裕が生まれたことから、食費以外の衣・住や教育・娯楽などにお金がかけられるようになってエンゲル係数は低下しました。しかし、近年は、所得の伸び悩みや物価の上昇などから再び上昇し、高い水準に至ったのです。

また、エンゲル係数が上昇している要因を長期的に見ると、高齢化が進んでいることも挙げられます。2024年の2人以上世帯におけるエンゲル計数は、世帯主が65歳以上の世帯では30.4%、70歳以上では31.1%、75歳以上では31.4%といずれも平均より高くなっています。高齢世帯の割合の増加が、エンゲル係数が上昇している一つの要因となっており、この傾向は今後も続いていくと考えられています。

エンゲル係数から何を知ることができる?

では、近年のエンゲル係数の上昇は何を示しているのでしょうか。

家計調査の消費支出(2人以上の世帯)全体で見ると、2000年が31万7328円で2024年が30万243円で、約5%の減少だったのに対して、食料費は7万3954円から8万5040円へと約15%増加しています。食料費の増加は外食や弁当や総菜、冷凍食品など「調理食品」の購入金額が増加していることも理由ですが、やはり食品全体の価格の上昇が大きく影響しています。

また、単純に「所得が低いほどエンゲル係数が高くなる」と考えられがちなのですが、所得がある一定水準にあるとしても、食費以外の消費支出が切り詰められた場合にはエンゲル係数は高くなります。食料費と同様に暮らしに必要な電気代は2000年の9682円から2024年には1万2008円へ、約24%も増加しています。

それに対して、例えば衣洋服代は6257円から3727円へ約40%も減少、教養娯楽費は3万2036円から2万9098円へ約9%減少しています。これらの点から、ただ所得が減少しているからという以上に、物価の上昇によって、生活のゆとりの部分に使われるお金が全体的に減少している傾向がうかがえるでしょう。

ポイントを確認しよう

最近の物価の上昇には、「新型コロナ」による需要と供給のバランスの崩れや、不安定な世界情勢、円安などが関係しています。また、高齢世帯の増加、生活の変化、物価の上昇、などにより生活のゆとりが少なくなったことで、一度は低下したエンゲル係数が再び上昇しました。お店に行って物の価格を確認してみたり、自分の家では何にどれだけお金が使われているのかを調べてみたりすることで、自分たちの生活について考えてみる機会にしてはいかがでしょうか。

執筆:NPO現代用語検定協会

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