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公開日:2024年07月12日  
更新日:2024年07月09日

作文が苦手な原因と指導法

子どもたちに作文が得意か苦手かを尋ねると、悲しいことに、大半が「苦手」と答えるのが実情です。「得意」と「苦手」、他の教科ではどちらもあって当然なのに、こと作文となると、圧倒的に「苦手」という意見が多くなってしまうのはなぜでしょう。それには、明確な原因があります。ここでは、子どもたちが作文に苦手意識を持ってしまう原因を解析することによって、苦手を克服する方法を説明します。作文指導の際、子どもたちへの接し方や指導のポイントとしてご活用ください。

作文が苦手な理由TOP5とその原因

子どもたちが作文に苦手意識を持ってしまう原因を考えるために、まずは子どもたちの声を聞いてみましょう。

「どうして作文が苦手なの?」

子どもたちにこの質問をすると、実にさまざまな答えが返ってきます。その一つひとつについて、根底にある子どもたちの思いに耳を傾けると、苦手意識の原因が明らかになってきます。

「めんどうくさいから」

これが、作文指導をしていて一番多く聞かれる声と言っても過言ではないでしょう。とにかく子どもは作文を書きたくなくて「めんどくさい!」を連発します。では、欲しいゲームがあるとき、欲しい気持ちを親に伝えるのを「めんどくさい!」と言うでしょうか。そんなことを言ったら、ゲームを買ってもらえなくなりますね。子どもは表現力、語彙力の限りを尽くして欲しい気持ちを伝えるでしょう。

両者の違いは、「伝えたい気持ちがあるかないか」です。作文を書くことを面倒だと思うのは、「作文には明確な目的がない」からです。これが、作文に苦手意識を感じてしまう原因の1つ目です。大抵の場合、作文は目的がないままに、テーマを与えられて書きなさいと言われます。何のためにやるのかも腑に落ちない状態で大変な作業をすることは、子どもだけでなく大人でも面倒だと感じますよね。

「何を書けばよいかわからないから」

子どもたちの「めんどくさい!」をなんとかなだめても、次に出てくる言葉が「何を書けばいいの?」「書くことなんてない。」です。こんな言葉が出てしまうのは、「作文には伝えたい相手がいない」ということに起因します。与えられたテーマについて、何を書くかはすべて子どもたちに委ねられます。伝えるべき相手も伝えたい気持ちもないままに、このように丸投げされては、「何を書けばよいかわからない」と、立ち止まってしまっても当然です。

子どもが読書感想文を苦手とするのも、根本には同じ原因があります。本の感想を、だれに向けて何のために書くのか定まっていなければ、何を書けばよいかも思いつきません。その結果、あらすじをまとめて「おもしろかったです。」と締めくくる、つまらない感想文になってしまいます。そのような作文は、書いていても楽しくない、ただの作業です。達成感も得られず、次の年の読書感想文も「めんどくさいなあ。」「何を書けばいいの?」の繰り返しとなってしまいます。

「上手に書けないから」

真面目で勉強が得意な子どもからは特に、こんな声が聞こえてきます。

「作文は上手に書けないから苦手。」

さまざまな教科で正解を求めることに慣れている子どもたちは、作文においても正解を探してしまいます。国語の授業でさえ、「筆者の気持ちを書きなさい。」というように正解のある問いにしか取り組んでいないのですから、無理もないことです。

しかし、実際には「作文には正解がない」のです。これが、作文に苦手意識を感じてしまう原因の3つ目です。書く内容も、表現の仕方も、人それぞれ。10人が作文を書くと10通りの文章ができあがります。正解がないものに対して「よい作文」という1つの答えを求めてしまうあまり、書き出すことができない、自分の思うように書くことができない子どもが多いのです。実際にはいきいきとすばらしい作文が書けていたとしても、それが正解なのか自信がない。その結果、「上手に書けないから苦手」という思考になってしまいます。

「書き方がわからないから」

一般的に、作文の書き方を学校の授業でくわしく教わることはありません。書き方がわからないまま原稿用紙を渡されて、一から自分の力で書くことになります。日常生活で会話をしたり文章を読んだりしているのだから、教わらなくても書けるでしょ? と思った方は想像してみてください。解き方のわからない数学の問題を出されたときの絶望感を。そう考えれば、「どうやって書けばいいの?」という質問はごく自然なものです。作文の書き方は数学の公式と同じく、教えられるべきものなのです。

作文に苦手意識を感じてしまう原因の4つ目には、「作文には成功体験が少ない」ということが挙げられます。書き方がわからないままに何とか書き上げた作文では、当然指導者や先生から間違いの指摘があったり、低い評価で返却されたりと、「できた!」という成功体験がないまま、また次の作文を書くことになってしまいます。

「字を丁寧に書きなさいと言われるから」

作文を書き上げるだけでも大変なのに、作文の文字について指摘されたらどうでしょう。子どもたちのやる気は下がってしまう一方です。前述のように、ただでさえ「作文には成功体験が少ない」のに、成功体験を積まないうちに「字の間違いや乱雑さを指摘される」など、本質ではないところを否定されると、「できた!」という体験をさらに得にくくなってしまいます。

さまざまな学習やスポーツにおいて成功体験を持つことが重要なように、作文においても成功体験は重要です。また書きたい、次はもっと工夫したい、という意欲につながるからです。

苦手な理由TOP5からわかる、作文が苦手な原因

  1. 作文には明確な目的がない
  2. 作文には伝えたい相手がいない
  3. 作文には正解がない
  4. 作文には成功体験が少ない

子どもたちから作文が苦手な理由の声を集めると、そこから次のような苦手意識の原因が見えてきました。 これらをもとに、苦手を克服するための対策を考えていきましょう。

子どもが作文への苦手意識を克服するための指導法4選【心構え編】

まず、重要なのは指導者の心構えです。子どもたちの作文への苦手意識をなくすには、指導者の作文に対するイメージから変えていく必要があります。苦手意識の原因4点それぞれに対して、指導者が持つべき心構えを解説していきます。

1、作文は目的ではなく自己表現の手段…子どもたちに目的意識を持たせる

苦手意識の原因の1つ目、「作文には明確な目的がない」ということに対して、指導者は子どもたちがその目的を自ら見出していけるように導くことが大切です。作文指導の際、書くことが目的になっていないか、指導の方法を振り返ってみましょう。特に入試対策として作文を指導する場合、当然のことではありますが合格のための作文を書くことを目的にしてしまいがちです。しかし本来、作文は目的ではなく、自己表現の手段であるべきです。子どもたちには作文を通して自分の思いを伝えることに目的意識を持たせましょう。

そのためには、子どもたちが「伝えたい」と思える題材で作文の練習を重ねることが有効です。そして相手に伝わった、と感じることで、次の作文への意欲が湧いてきます。

2、だれかに伝えることをゴールにする…指導者が一番の聞き手になる

苦手意識の原因の2つ目、「作文には伝えたい相手がいない」ということに対しては、指導者が作文指導の際、だれかに伝えることをゴールにする意識を子どもに持たせることが大切です。作文はトレーニングで書き方を覚えていけばよいものではなく、その根底にあるのはだれかに自分の考えや気持ちを伝えたいという思いであると、認識を変えましょう。

伝えたい相手のいない作文の代表例として、先ほど読書感想文を挙げて説明しました。ところが、「本の感想を紹介するポップを作って近所の書店に置いてもらう」という活動をすると、子どもたちは目をキラキラさせて取り組みます。まさに、伝える相手がいることによって、書く意欲は何倍にもなるのです。

書店のポップは特殊な例ですが、一般的な作文指導においての「だれか」とは、指導者であるべきです。指導者が一番の聞き手になり、子どもの表現を受け止めましょう。

「先生に、自分の意見を伝えたい。自分のことをわかってもらいたい。」

これが、子どもたちの表現の目的になります。時には、クラスメイトが「だれか」になることもあります。

3、感じたこと、考えたことに間違いはない!…子どもの表現を受け止め、伸ばす

苦手意識の原因の3つ目、「作文には正解がない」ということは、変わりようのない事実です。ないものを探そうとするのではなく、正解がないことを指導者と子どもたち双方の共通の認識にしていかなければなりません。指導者がまず先に、「うまい作文を書かせなければ」「作文とはこう書くべき」という意識を捨てましょう。感じたこと、考えたことに間違いはなく、書いてはいけないことは何もありません。子どもの考えを否定しないこと、子どもの表現をまずは受け止めてから伸ばすことを徹底させてください。ただし、「自分や他人を傷つける内容」は書いてはいけません。

もちろん、受験作文としてのテクニックはあります。しかし、テクニックは、後からでも身につけられるものです。まずは表現したことが受け入れられることによって、自分を表現することが楽しいと感じる心の土台をしっかりと築かせることが重要です。

4、小さな「できた!」を積み重ねる…書き方を教えても自由を制限することにはならない

子どもたちに作文の成功体験を感じてもらうためには、細かいステップで「できた!」を実感させることが大切です。そのためには、子どもたちにテーマを与えるだけでいきなり書かせるということをしてはいけません。「作文には正解はない」のですが、作文を書くためのステップには、決まった「解き方」のようなものがあります。また、「書き方」についても、作文の構成を一つの例として先に提示することによって、格段に書きやすくなります。

作文には特にこう書くべきというルールや決まりはありませんが、作文の導入段階において小さな「できた!」を積み重ねるためには、決まった構成を用いて練習することが非常に有効です。この点において、指導者は「作文は構成などを気にせず自由に書かせるべき」という意識を変えていきましょう。これは、何を書いてもよい、子どもの考えを否定しない、という心構えに反するものではありません。決まった構成で書かれた作文でも、中身はその子だけの表現です。10人書けば、10通りの作文ができあがります。まずは、「あっという間にできた!」「書けた!」という経験をさせることのほうがずっと大切で、その経験は子どもたちの書く意欲によい影響をもたらします。

子どもが作文への苦手意識を克服するための指導法6選【実践編】

ここまでお伝えしてきた指導者が持つべき心構えをもとに、具体的な指導方法を授業の進行に合わせて説明していきます。

子どもが目的意識を持てるテーマを選ぶ

まずは、子どもたちにまずは自分の好きなことについて深く考えてもらう機会を設けることから始めてみましょう。「どうしてそれが好きなの?」「好きになったきっかけは何?」「他にどんなことを知りたい?」というように子どもたちに一つ一つ問いかけ、子どもたちに答えてもらうことをやってみましょう。子どもたちは自分の好きなことについては相手に伝えたいと思って話してくれますし、自分の思考を整理し物事を深く追究してさらに興味・関心を広げていくことができます。そうして考えたことを作文という形で書かせてみてください。

そうすれば、作文を書くことによって、自分で自分のことを新しく知れたり、自分が好きなことでも今まで気づかなかった新しい発見ができたりします。そうした「新しい発見や出会い・知的興奮」を得ることもまた、作文を書くことの目的になっていきます。

作文を書く相手を決める

作文に取り組む前に、伝える相手を決めましょう。なんとなく自分以外の人に、ではなく、特定の一人をイメージします。指導者でも構いませんし、家族や友人だったり、作文のテーマによって決まることもあったりするでしょう。

だれに向けて書くかをはっきりさせることで、その人に伝わる表現を工夫したり、その人がわかるためにはどのような情報が必要か取捨選択したりすることができるようになります。そうすることで、「何を書けばよいかわからない」という問題を解消することができます。

クラスで話し合う時間をとる

個別に書き始める前に、作文のテーマについてクラスで発表する時間をぜひ取ってみましょう。各自で考え、メモを取ってから、自分の考え(テーマについて、書きたいと思っていること)を一人ずつ発表していきます。発表が終わったら拍手を忘れずに。「できた!」という経験は、言い換えれば「伝わった!」と実感できること。それは、作文全体を書き上げてからのことではありません。このように、たった数秒の拍手でも、子どもはさらに自信をつけることができます。

発表の後には、質問タイムもとりましょう。他の人からの質問によって、作文の内容のヒントを得るだけでなく、自己肯定感を高める効果もあります。質問するということは知りたいという気持ちを伝えること。自分の考えを知りたいと思ってもらえていることが分かると、もっと伝えたいと思うのが人情です。指導者が率先して質問し、問いかけのお手本を示しましょう。

発表者に対する問いかけの例

  • それはどうして?
  • そう思ったきっかけは?
  • いつ? どこで? だれと? 何を? どうした?
  • そのとき、体で感じたことは?
  • 何かにたとえると?
  • どんな会話があった?

この時間は、「もっと、教えて!」という姿勢で子どもたちの考えや気持ちに興味を持ち、質問を投げかけることが大切です。指導者のそのような姿勢は周囲の子どもたちにも伝染していき、やがてクラス中が好奇心に満ちた、お互いの表現を引き出し合う場になります。

このような時間を設けることによって、書きたいことや、もっとこんなふうに伝えようというアイディアがどんどんたまっていきます。そして、原稿用紙を目の前にすると「早く書きたい!」という気持ちになります。

自己肯定感の高まる言葉がけをする

クラス全体での話し合いや発表の時間が取れない場合でも、指導者の言葉がけによって子どもたちの書きたい気持ちを盛り上げていくことができます。それが、「指導者が一番の聞き手になる」という心構えを指導に生かすことです。指導者が一番の聞き手になるためには、日々の関わりにおいて子どもたちが安心して自分を表現できる相手にならなければなりません。子どもの考えや表現を否定しない、遮らないのはもちろんのこと、考えを受け止め、認め、褒め、さらなる考えや表現を促すということを繰り返していきましょう。

作文指導の際、作文の準備段階や書いている最中にも、子どもたちに対して、さまざまな考えがあってよい、どんな考えも気持ちも表現してよいということを伝えていきましょう。どんな考えも肯定されることで、表現することへの意欲を高めることができます。その際の言葉がけの例を示しますので、指導にいかしてみてください。

自己肯定感の高まる言葉がけの例

  • なるほど!
  • 伝わるよ。
  • わかりやすいね。
  • そんな考えもあったのか! おもしろいね。
  • その表現、好きだなあ。
  • あなたらしい考えだね。

これらの言葉を授業中に繰り返していくことで、子どもたちに表現することへの自信を少しずつつけてあげることができます。

決まった構成に当てはめて書く練習をする

「できた!」という経験をさせるためには、決まった構成に当てはめて書く練習が有効です。はじめは、指導者が作文の枠組みを作り、空いたところに自分の考えをはめ込むだけで文章ができるようにしてもよいでしょう。

一例として、作文の練習シートをご紹介します。「好きな○○」の○○に、さまざまな言葉を入れて取り組んでみましょう。

例:好きな季節・食べ物・色・スポーツ・動物・遊び・教科・歌・アニメ  など

記入例

「作文練習シート」のフォーマットはご自由にご活用ください。

作文では、「はじめ(テーマについての考えや概要)・なか(具体例・体験)・おわり(全体を通しての感想・これからについて)」の構成を基本として練習するとよいでしょう。簡単に、「できた!」の回数を重ねるうちに、苦手意識がなくなっていきます。

意見文や小論文とは異なり、作文では「決まった構成」が唯一の正解ではありません。さまざまな構成を工夫する指導にも、成功体験を重ねたうえでの次のステップとして、ぜひ挑戦していただきたいと思います。

添削では「ほめる・伸ばす」を中心に取り組む

作文が完成した後も、子どもたちが作文への苦手意識を克服するための指導は続きます。子どもたちがせっかく伝えようとして書いた作文に、「見ました」とハンコを押すだけで返すのではなく、「伝わったよ。」「あなたのこと、よくわかったよ。」という思いが伝わるように工夫してください。添削指導は、子どもたちの「できた!」を増やすチャンスです。

添削の際の注意点

  • 絶対に×をつけない
  • 子どもの書いた文字を消さない(漢字の間違いを正す場合は横に書き添える)
  • 伝わりにくい箇所は、表現を直すのではなく質問を加える
  • 修正や指摘の数よりも、花丸が多くなるようにする

直しだらけの添削をもらうと悲しくなってしまいます。指導者としては、もっとこうするといいよ、とたくさん書きたくなりますが、ぐっと堪えて1つか2つに絞りましょう。その添削で完璧を目指す必要はありません。子どもが次も書きたいと思える添削になっているかどうか、常に振り返ってみましょう。

まとめ

作文への苦手意識を放っておくと、意見文や小論文を書く力にも影響するのはもちろんのこと、自己表現をすること、文章で自分の考えを相手に伝えることに対する苦手意識、抵抗感にもつながります。さらには、そのための思考をストップしてしまう恐れすらあります。それは、子どもの将来にとって大きな損失です。苦手意識が凝り固まってしまう前に、なるべく早い学齢から作文に対する子どもの意識を変えることが大切です。

作文が好きになれば、文章で自分の考えを伝えることが楽しくなり、文章をどんどん書くようになり、結果的に文章力も身につく、という好循環が生まれます。作文指導の初期段階から子どもたちの意識を変える指導を心がけ、その効果を実感してみてください。

執筆:NPO現代用語検定協会

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